第1章
第1話 絶望と転機
――――高校卒業と同時に飛び出るように実家を出て、上京した。
もう戻らない、母も家も捨てる。そう誓った。
東京での暮らしに楽しい事など何もなかった。働いて寝るだけの生活だったが、いつかどうにかなる、抜け出せる。そう思っていた。
しかし、学歴もこれといった特技も無い女が就ける仕事は限られ、必然的に得る収入は限られた。
18歳から延々とそんな生活を続け、気付けば30歳も間近―――。
美弥は、未来になんの希望もない人生に疲れ果てていた。
好きでもない20歳近くも上の男と結婚してしまったのは、そんな何の希望も余裕もない、果て度ない生活から逃れられると思ったからだ―――。
――――結婚前のことだ。バイトや派遣で週に5日フルで働き、ウサギ小屋のような部屋の家賃、光熱費、通信費、食費、必要なものを払ってしまえば節約を重ねても、いくらも残らない。欲しいものが買えるわけでもなく蓄えが増えるわけでもない。
働いて寝るだけの暮らし―――それが延々と続く。
いつだったか、同じような悩みを綴った若い女性の書き込みがネットで話題になったが、デブエモンとかいう有名人をはじめ不特定多数から自業自得、低学歴女、風俗なら稼げるぞ、仕事があるだけマシだ贅沢言うな――などの罵詈雑言があふれ、見ていると余計に死にたくなった―――。
若い女性の自殺者数が急増しているという最近のニュースも無理もない。程度の差はあれ、結婚前の美弥と似たような人生を送っている女性が多いのだろう。死にたくもなる。
あがいてももがいても、どうにもならない。だから次第に考えるのをやめる。突き詰めて考えてしまえば、きっと死を選ぶことになるだろうから――。
つまり、生きているという実感もなく死を選ぶ決意もできない、宙ぶらりんの状態だ。
そんな生活を送っていた美弥に転機が訪れたのは、2年前だった―――。
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