アンティークの墓標

 〈親友の未亡人を軟禁してしまった。罪であると言われれば、私は甘んじてそれを受け容れるし、社会的に断罪されないとしても、この罪は墓場まで持って行くと決めた。私はこれを罪と思う。だからもしも世に知れることがあれば、問われるのは罪の有無よりも、理由の是非であってほしい。信じてほしい。私を駆り立てた激しい感情が、性愛や情欲とは明確に異なることを。〉

 黙読したセンセーショナルな告白文は、偶然に天堂の元へ辿り着いてしまった、ある人物の手記である。手記だから事実だとは断定できないが、文中に登場する未亡人その人を待っている今、天堂の中でこの手記は刻一刻と、嘘のように実在性を増し続けている。登場人物が生身で現出すれば、この物語は紛れもない現実と言うほかない。しかしいざその時を迎えたとて、天堂は手記の主の真意を捉える自信はない。もう何度も繰り返し読んだ手記に、再び目を落とした。

 〈この世界から河嶋が欠けてしまった。それなのにみっちゃんは残されて、どうしてか私はまだ息をして、あまつさえ河嶋の欠片を握りしめてばかりいる。その歪さがどうしようもなく私を苛んだ。〉

 そして手記の時間はおよそ半世紀前へ巻き戻る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【本文サンプル】結び目ほどき 言端 @koppamyginco

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説