泥棒猫はあやまらない

 まずは思い出話をひとつ。

 昔から手癖が悪いと言われて育った。どうしてか、私と遊ぶとみんなの大切にしていた宝物が無くなるのだ。覚えている限りだと、最初は同じアパートのミコちゃんが大切にしていた人形だった。その次は同級生のシンジくんが自慢していたトレーディングカード。次々に無くなっていって、その関連性に誰かが気づいて、私は自然と一人ぼっちになっていた。小学校の高学年のあたりから周囲の女子たちは私を無視し始めた。中学に上がると大々的にいじめられた。無視に陰口が加わって、机への落書きエトセトラ。直接的な暴力こそ無いものの、私はどこに出しても恥ずかしくないいじめられっ子になっていた。辛くなかったと言えばウソだ。でも不満があったかと言われればそうでもない。だって何を隠そう、みんなの宝物を盗んだのは私だから。とはいえ、私の泥棒癖があんまりオープンになると生活が困るのも確か。主に内申とか。だから私は歯ぎしりしながら我慢することにした。

 高校生になって周りでカップルが成立するようになると、私の悪い虫が抑えきれないほどに疼きだした。地元から飛び出して一人暮らしを始めたので、私の悪評を知っている者はいない。だからこんな私にも友達と呼べるような人ができて、それで彼氏ができたなんて報告されてしまったら、もう我慢ができなくなってしまった。私は無駄に顔と身体がいいものだから、下半身でしかものを考えられない高校生男子を篭絡することなんて朝飯前。素晴らしいのは、他人の彼氏を取ったところで罰する規則は無いということ。中学時代の抑圧からの解放ということもあって、私の寝取り癖は留まるところを知らなかった。そこから修羅の道が始まった。男を奪われた女の憎しみはすさまじく、中学時代がおままごとに思えるような直接的な暴力を伴ったいじめが私を襲った。それに対抗する力が必要だった私は、必死に自分を鍛えた。それはもう色々やった。日中はチョコボールのように次から次へと襲い掛かってくる逆恨み女たちを迎撃し、放課後は空手に柔道、キックボクシングのジムを梯子して身体を苛め抜く毎日。そうこうして、私は恋人寝取りと喧嘩と格闘技に明け暮れるという充実した高校生活を送った。

 たまにふと立ち止まって、どうして私はこんなことをしているのだろうと思うことがある。別に玩具だって男だって、それそのものに価値を感じていたわけじゃない。それが証拠に手に入れた玩具はすぐに興味を失ってゴミ箱に放り込んだし、男どもは片っ端からキャッチ・アンド・リリースを繰り返した。他人が大切にしているものだから欲しがってしまうというのだから、本当にどうしようもない性分だと思う。だから私がこんな稼業に収まったのもある意味予定調和というやつだ。

 高校を卒業した私は現在、泥棒で生計を立てている。

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