Xmas閑話《私の白雪姫に》

「少し早いですが」と前置きして、和風テイストのラッピングが綺麗に施された小さな箱を彼女に手渡す。

「開けてみてもいい?」と彼女が嬉しそうに笑い、どうぞと促す。


「…これ、私が気にしてた鼈甲べっこうの」と驚きに目を丸くする様子に満足感がこみ上げる。


「貴女の髪にこそ似合うかと。それに私が常に傍に居られない事もありますから」


 お守りです、と手に取って彼女に背中を向けるように促す。

前髪とサイドの髪を少し取り、手櫛で整えてバレッタで留める。

  

 良質な鼈甲に小さなあかさんご瑚が小さな星の様に並ぶ其れは、思った以上に彼女が持つ独特の髪色に映える。

 無防備になる白いうなじは艶かしく、良くお似合いですと語りかけながら背中から抱きしめる。  

「有難う、カイさん。大切にしますね」と甘く響く声に不意打ちの様なときめきを覚えてしまうとは意外だったが。

「以前、話して下さった利休鼠の地に桜の刺繍の着物にも良く合いそうですが、他の着物を仕立てるのもまた良いやも知れません」


「甘やかし過ぎですよ…もう」と彼女が少し呆れながら照れた色の声で呟く。

 漸く手に入れた比翼ならば甘やかし過ぎだなどとは感じないし、使わぬばかりの金を無為に貯めておくよりも、遥かに有意義だ。


 髪飾りを贈るのはその黒髪を乱してみたい、紅を贈るのはその口を吸いたい、着物を贈るのはそれを乱して肌を見たい。

 それ等全てを贈るのは「うぬの全てが欲しい」と云う意味であったなと思い出して、口元に笑みが知らず浮かぶ。

 多分この意味を彼女は知っているだろうが、それに羞じらう姿はさぞかし唆るだろうと。

 ―次は先日、彼女が試着していた鮮やかな赫い紅を贈ってみようか。

最新の限定色を纏う小さな唇はさぞ魅惑的であろうし、あの色は洋服にも着物にも合うと自然とやに下がる己自身を止められない。


 ―血の様に赫く

 ―雪の様に白い


 私のスノーホワイト、とそっと声に乗せずに唇だけで呟く。

 近く雪が降るという空と冷たい空気に熱い吐息が解け、愛しさと共に微かにうなじをなぞって消えていった―

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薔薇が語る言葉は 刀鳴凛 @nekomata-shiro

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