第四十五章 箱のからくり

  第四十五章 箱のからくり


 古賀こがさんのところに箱が戻って来た。白木しらきはなぜわざわざ箱を持って来たのだろう。意図いとが分からなかった。

 「古賀こがさん、白木しらきは何て言って箱を持って来たんですか?」

 私は古賀こがさんにたずねた。

 「これはあなたのものではないですか?と。それだけです。」

 古賀こがさんはそう答えた。親切で箱を持って来たとは到底とうてい思えない。あやしすぎる。

 「その箱は絶対ぜったいに開けないで下さいね。」

 私は古賀こがさんに言った。

 「分かりました。どうせ私がやっても箱はきませんから、ご心配なく。この箱は仏間ぶつまに置いておきましょう。」

 古賀こがさんはそう言った。


 「陰陽師おんみょうじ、あの箱のことなんだが・・・」

 座敷童ざしきわらし手毬てまりがそう切り出して、箱のからくりを話し始めた。

 「あの箱は誰がけてもく。徳治とくじの時はうえの二人の兄貴あにきのを私が無理矢理むりやり開けて、徳治とくじのは箱をさえつけていたからかなかったんだ。徳治とくじは私のお気に入りだったからね。」

 「えっ!?」

 私が頓狂とんきょうな声を上げたものだから、古賀こがさんが驚いてビクッと体を動かした。

 「その箱はあやかしが閉じ込められているだけの普通の箱。箱がかなければ次の当主になれるんだ。長男が箱はかないとさえ言えば、げたのさ。」

 手毬てまりはそう言った。

 「皆、嘘をついていたってこと?」

 「そういうこと。」

 手毬てまりがニヤリと笑った。人間の欲深よくぶかさを見透みすかして笑ったのだ。

 「でも今回は・・・。」

 「三人共開いた。誰もぎたくなかったのさ。この家を。」

 手毬てまりは少しさみしそうに言った。何と言うべきか分からなかった。

 「まあ、いいさ。それより、あの箱はどうする?」

 手毬てまりが尋ねて来た。

 「中にいるあやかし退治たいじしようと思ってる。一歩間違えれば全焼ぜんしょうだから、この家でやる訳にはいかない。一旦鎌倉に戻って・・・」

 私はそう手毬てまりに話していると、古賀こがさんが話にって入って来た。古賀こがさんには何もないくうを見て、私が一人で話しているように見えていただろうが。

 「この家でおやりなさい。箱の中にいるあやかしはこの家が責任をもつべきものだ。」

 古賀こがさんはそう言った。

 「古賀こがさん、おもうはありがたいのですが・・・」

 私はことわろうとした。

 「浅井あさいさん、どうかこの家で。」

 古賀こがさんは力を込めてもう一度そう言った。

 「徳治とくじおろかにも跡目あとめを決めるがたい箱だと信じてあやかしい続けた一族の責任と取ろうとしているのだ。私もいる。この家でやっておくれ。」

 手毬てまりもそう言って、古賀こがさんのために口添くちぞえした。

 「分かりました。火の手が上がるかもしれません。雨の日を待って箱を開け、あやかし退治たいじしましょう。」

 私は古賀こがさんのもうを受けることにした。

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