第6話 教室までの十分間
音楽室をあとにしたウツロと
会話は、ない。
さきほど受けた
そのショックは、小さくはなかった。
ウツロは真田龍子のことを、真田龍子はウツロのことを気づかうからこそ、言葉を
もどかしい……
二人の心には、ただその思いだけがあった。
音楽室のある
二人がその中ほどにさしかかったとき、ウツロは思い立つことがあり、ふと足を止めた。
「ウツロ……?」
何かと思った真田龍子が、彼の顔をのぞく。
「俺は、毒虫だ」
「……っ」
ウツロはやにわに、そんなことを
「ウツロ、まさか、また……」
「いや、違うんだ龍子」
よくないことを考えているのかと、心配した真田龍子。
それに対してウツロは、
「少し前のことを、思い出していたんだ……あのときのことを……父さんと、兄さんが、俺に
「ウツロ……」
真田龍子は
「正直に言って、いま……少しだけ、心が……また、よどみそうになったんだ……でも、思い出した……父さんと兄さんのことを……だから、俺は……俺はもう、平気だ、龍子……」
「……」
平気?
平気だって?
ウツロのことだ、また、無理をしているんだろう。
自分だけが、苦しめばいいと思って……
「俺よりも、君のことが心配だよ、龍子。あんなものを見せられて、きっと、傷ついているだろう?」
やっぱりだ、やっぱり、無理をしている……
どうして?
どうして自分だけが、傷つこうとするの?
彼女はたまらなくなって、思い口を
「ウツロ、わたしも正直、そうだったんだ……ウツロが、もしかして、あの女に、
「龍子……」
ウツロは真田龍子の手を
「
彼女にはわかった。
真田龍子は
「あのあと……
「……」
「いえ、違う。わたしが無理やり、雅に頼んで、調べてもらったんだよ……」
ウツロは彼女が何を言わんとしているのかを
「どんな気持ちだと思う? 愛する人が、わたしの愛するあなたが……冷たい機械の中に、閉じこめられたり……
過去に受けた体験がウツロの頭をよぎった。
だがそれ以上に、真田龍子が置かれているいまの状態が心配でならなかった。
「もう、
「龍子……っ!」
「いいんだ、俺は、いいんだ……!」
「なんでよ!? そんなことをされて、
ウツロは真田龍子を
人がいたらどうしよう?
いや、そんなことは関係ない。
そんなことは、どうでもいい……
「ん……」
彼の
温度はしだいに、熱さへと。
のぼってくる
止まらない、
歯車のように
この
いっそ、このまま――
「龍子――」
「……」
ウツロは手を
その
「こういうことなんだ……」
彼は
「俺だって、許されるなら……でも、言いたいのは、それなんだ、龍子……」
ウツロはひとつの決意を、彼女へ伝えようとした。
「龍子がいるから……どんな
ウツロは真田龍子の体を放し、もう一度、手を握った。
二人は再び、歩き出す。
「俺は、毒虫だ」
「……」
「でも、
完全には理解できないけれど、真田龍子はウツロの考えを、その心のありようを、のみ込むことにした。
ウツロがそう、言うのなら。
そんな気持ちだった。
「うん、ウツロ……」
ウツロは
とても
真田龍子は思い出した。
あのときのことを――
いっしょに生きていこう。
そう、言ってくれたときの、あの笑顔を――
真田龍子は両手を、胸の上に組んだ。
なんだか、すっきりしてきた。
やっぱり、ウツロだ。
これが、ウツロなんだ。
わたしの知っている、わたしの愛している、ウツロ……
彼女はうれしくなって、顔を赤らめた。
「行こう、龍子」
「うん、ウツロ……」
彼はさわやかに、教室のドアを開けた。
音楽室を出てから二人がここへたどり着くまで、かかった時間は
その
(『第7話 保健室の狂気』へ続く)
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