第40話
押し寄せるマロネの大群――こう表現するとより恐ろしいな――に対し、
「…………」
少女はすばやく後ろにさがった。
動きに迷いがない。
……なさすぎる。
なにかあるな……?
「「「オラオラオラオラオラオラぐっ!?」
突然、猛進していたマロネ軍団の足が止まる。
全員同時に、つんのめるようにして。
彼女たちの足下に、光のみぞが現れていた。
もれなく足をとられている。なるほど。
さっき放ったライトニングゴーストの、
姿をひそめて、待ち受けさせていたか。
「「「ぐぬぬぬぬ卑怯なっ! なんだこんなもん――」」」
「そこだッ!」
足止めはほんの数秒。
しかしそれだけで見切ったのか、少女が正面に向き直った。
並み居るマロネたちの1人をまっすぐに指さし、叫ぶ。
「<テイム>ッ!!」
そう。
この子はテイマーだ。
魔力を媒介にして、特に精神力に依って立つ存在を支配する能力者。
「ぐっ!?」
マロネの作った分身たちが、闇の粒子になって消え失せる。
1人残った本体が、両目を血走らせて少女をにらみつけた。
体の小さな2人の周囲に、猛烈な魔力が渦を巻いている。
テイムしようとする少女に対し、マロネが全力で抵抗しているのだ。
「こ、の、おおおおおおおっ……!?」
「う、ぬ、れえええええええっ……!?」
「魔王を、攻撃、しろおおおおおおっ……!!」
「誰が、する、かあああああああっ……!!」
すごい攻防だ……
すごすぎて……今、俺が攻撃したら、あっさり倒せるに違いない。
「おっと?」
ばさっ、という羽音に、俺は1歩さがった。
上空を舞うペガサスが、油断なく俺を牽制している。
なるほど。行き届いてるな。
「ど……どうあっても……!!」
額に汗をかきながら、少女がのどの奥でうなる。
「魔王を、攻撃、しないっていうなら……!!」
「するわけ、ねーだろ、このパッパラピンクがあ……!!」
「じゃあ……じゃあ……!! 魔王に抱きつけッ!! 離れるな!!」
「ッ!? ぐわあ!! ゼルス様お逃げくださいっ!!」
なんだそりゃおまえバカかグッハッ!?
突進してきたマロネの頭突きが、ドゴオ、と俺の腹にめりこむ。
魔王ちょっぴり吐きそうな心地。
「お、おまっ……なにで負けてやがる……!」
「えへへへぇ~~~ゼルス様あ~~~しゅきしゅきい~~~」
「ええい、は、離れんかいっ! やめろ、両手封じてくるな、足を絡めるな!? なんて効率的なんだおまえ!?」
「違うんですこれはテイムのせいでぜんぶそこのアホアホピンク頭が悪いのです~~~ああゼルス様の胸板ゼルス様の胸板そぉ~れすりすりすりすり」
「やめろツインテ振り回すなうわあああああなんか熱いコイツのおでこ熱い摩擦熱やばい! すりすりやめて! 魔王すりおろされちゃう!」
うおおおおお、と少女が突撃してくる。
ついでに上空のペガサスが、ひづめでポカポカ殴ってくる。いてていてて。
「くらうがいい魔王ッ!」
少女の指先が、まっすぐ俺に向いた。
その目に勝利の色。
魔王とて確かに、魔族のうち――テイムは有効だ!
「<テイム>ッ!!」
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次は12/3、19時ごろの更新です。
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