第69話 分かれ道

──ユナの活躍で鎧の魔物達を退治し、

俺達は大広間を走り抜けて

壁際にある大きな扉を開けた。


すると、その先は

左右に別れる廊下になっていた。

左右の様子を伺うが

特に気になる違いはない。


「ここは、右の方が良さそうだな……」


サキの勘を頼りに、俺達は右へ進んで行く。


廊下を進んで

左に続く曲がり角に差し掛かった時、

サキが立ち止まり、俺達に小声で合図をした。


(……シッ! 静かにっ!

向こうから誰か来るぞっ!)


サキが慎重に前方の様子を伺う。


(……あ! あれはっ!?)


前方から1体の魔物がゆっくりと

独り言を言いながら歩いて来る。

全長1m程で、ローブを羽織った

トカゲの様な風貌をした魔物だ。


両手には多数の鍵がまとめられた束と、

1枚の紙を持っている。


「……全く! ビアンド様の城に

人間の侵攻を許すとは愚かな戦闘員共めっ。

……それにしてもだっ!

慌てて戦闘に向かうのは良いが、

きっちり扉の鍵を閉めろと言うのだ!


施錠担当である私の身にもなってみろ!

この城に、どれだけの扉と鍵があると

思っておるのだ!?」


(……あれはっ!?

城の地図と鍵の束か!?)


それに気づいたサキの判断は早かった。


……シュッ!


(……えっ!? サキちゃん!?)


サキはそこから消えたかの様な素早さで

魔物に向かって一直線に接近し、

……そして通り抜けた。


「うん? 何だ?

……なっ! か、鍵はどこに行った!?

地図もなくなってる!?」


魔物が何かの異変に気づくと、

その両手から鍵の束と地図が消えていた。

慌てて周囲を確認すると、

魔物の後方から音が聞こえる。


……ジャラッ、ジャラッ。


「……よぉ、施錠担当サンよ。

捜し物はこれか?」


サキは城の地図を広げて確認しながら、

手の平の上で鍵の束を

上下に軽く放り投げている。


「に、人間かっ!?

どこから現れた!? それを返せ!!」


「……ああ?

これから魔王の所に行くのに

こんな便利なモノ、返す訳ないだろっ?」


「おのれ!

今すぐ警備の者を呼んでやる。覚悟しろっ!」


(……まずい!?

この狭い廊下で魔物を呼ばれたら、

逃げ場のない挟み撃ちだぞっ!?)


俺は危機を感じて周囲を警戒したが、

サキは魔物の向こう側で落ち着いている。


「……ああ? 何だ?

気づいてないのか? 施錠担当サンよ」


「……な?

俺が何に気づいてないというのだ?」


「……そうか、なら教えてやる。

お前、もう……とっくに斬られてるぞ」


「……なっ!? 馬鹿なっ!?

そんな……いつの間にっ?!

グ、グワァーッ!!」


魔物は声を上げ、その場に倒れて消滅した。

ユウト、俺、ユナはサキの元へ駆け寄る。


「サキさん、凄いです!

鍵と地図を奪いながら、

攻撃までしていたなんて!」


「サキ!

鍵と地図があれば侵攻が楽になる!

良くやってくれたな、お手柄だぞっ!」


「まぁな。テルアキとユナばかりに

格好つけさせる訳にはいかないからな。

……お前らの戦いを見て、

アタシもやるぞ! ……って思ってたんだよ」


その言葉に、ユウトが皆の事を思う。


(……テルアキさん、ユナさん、サキさん、

なんて凄い人達なんだ!?


こんなに能力の高い人達が

僕の仲間になってくれるなんて!

……僕もっ!

勇者として皆さんの活躍に負けない様に

しっかりしないと!!)


サキの活躍を見て、

ユナは興奮気味に、そして悪気無く言った。


「それにしても、サキちゃん、

……本当に凄いね!


相手の持ち物をスリで

奪っちゃうのは良くないけど、

今回はその泥棒さんの能力が役に立ったね!」


「……なっ! ユナッ!

これはスリとか泥棒とか……とは違うぞ!

いわゆる……そう!

トレジャーハントだっ!」


サキの言葉にユナは一瞬戸惑ったが、

ひと呼吸おいて納得した。


「そっか……。

これはトレジャーハントって言うんだね?

変な風に言ってごめんね、サキちゃん」


(……なっ!? ユナ……お前!

トレジャーハントの意味を

分かってない気がするぞっ!?)


素直に謝るユナの姿に、

俺もユウトも苦笑いを見せた。


──鍵の束と地図を手に入れた俺達は

魔王の城を効率的に進むことができた。


途中、魔物に遭遇することもあったが、

それらを退治し、魔王の元へ続く

最後の部屋と思われる所にたどり着いた。


ユウトが慎重に扉を開けると、

そこには床に光り輝く

魔方陣のようなモノがあった。


「テルアキさん……、

これは移動装置みたいなモノでしょうか?」


「そうだろうな……。

皆、準備は良いか? 行くぞ!」


俺達4人は意を決して

魔方陣の中に飛び込む。


数秒の間、不思議な感覚に襲われる。


俺達は、

前後左右の4方向を壁に囲まれた、

妙な違和感の小部屋に移動した。


(……何だ? ……この違和感は?)


俺は、試しにヒールを唱えたが

魔法は発動されない。

この部屋では魔法は使えない様だ。


そして暫くすると、

光り輝いていた足元の魔方陣は

次第に薄れて、その姿を消した。


(移動魔法も使えない……。

戻る方法は無し、片道切符って事か)


……周囲を観察すると、

4つの壁にはそれぞれ扉がある。


1つの扉には○、△、□の鍵穴があり、

他の3つの扉には大きく○、△、□の

形が描かれている。


そして、鍵穴のある扉には

文字が刻まれている。


「……僧侶様!

ここに何か書いてあるよっ!」


俺達は扉に刻まれた文字の前に集まり、

読み始める。


「この扉を開くには

○、△、□、3つの鍵を差し込め。

それぞれの鍵は、それぞれの形が

記された扉の中にある」


その説明を読み、皆で相談する。


「つまり、ここから先に進むには

3つの鍵を手に入れて、

この鍵穴の扉を開けろ……って事だな。


まぁ、恐らく、3つの扉の中には

魔王の幹部が居る……とか

強烈な罠とか……あるんだろうな」


「……きっとそうですよね、テルアキさん」


「なら、話は簡単だ、テルアキ。

全員で1つずつ順番に扉に入って、

3つの鍵を手に入れたら良いんだろ?」


簡単に答が出ようとしたとき、

ユナが説明の端に刻まれた条件に気付いた。


「皆っ! 大変!!

ここに変な事が書いてある!!」


「どうしたんです? ユナさん?」


ユナがその条件を読み上げる。


「ただし、○、△、□の扉に

入ることができるのは1度のみである。

もし2度扉を超えようとすれば、

その体は焼けただれて消滅する!

……って!」


(……なっ!? なんて事だっ!?)

 

「まっ!? マジでかっ!?」


「そ、それはマズイですよっ!?」


俺達は全員でその条件を読み上げ、確認した。


「本当だ……。テルアキさん、

これはマズイですね。


……つまり、僕達4人はこれから

3方向に分かれなければならない。

そして、もし誰かが失敗したら

この先には進めない。

そして戻る手段もない。


……って事ですね」


「そうだ、ユウト」


(……くっ! 魔王めっ!

こんな罠を仕掛けて来るとはっ!?


いざとなれば勇者の力で

難局を乗り越えられると思っていたが、

そこを封じてきたかっ!?


この罠の標的は……、


間違いなく勇者以外の者!

パーティ内の弱者!


……俺、ユナ、サキだっ!)


この後どう別れるか?

……を考えて悩み始めた俺だったが、

ユウトが答えをくれた。


「……なら、

僕は1人で○の部屋に行きますね」


(……なっ!? ユウト!?)


「……ええっ!?

ゆうたん? 1人で良いのっ!?」


「勿論ですよ。

僕は伝説の勇者ですから。

それにもし僕がココで


『テルアキさんと2人で行きます!』


とか言い始めたら、

それこそ大問題でしょう?」


「あはは。

確かにそうだな。もしユウトが

そんなヘタレな事を言い始めたら

……アタシは一生、

ユウトと口を聞かないぞ」


「ですよね、サキさんっ。

……では、残りは皆さんですが、

どうします?」


1つの選択肢を決めてくれたユウトのお陰で、

俺は落ち着きを取り戻した。


「……なら、

俺も1人で△の部屋に行くよ」


「えっ!? 僧侶様……大丈夫!?」


「そうだぞ、テルアキ!

……もっと慎重に考えた方が

良いんじゃないかっ!?」


俺の事を心配してくれるユナとサキに、

俺の考えを説明する。


「……聞いてくれ。

俺、ユナ、サキの3人で考えると、

魔法を使えないサキは

1人にならない方が良いだろ?」


「……うん、

私もそれは賛成だよ、僧侶様。

……なら私が1人で行くのはどう?」


ユナの提案に俺は首を横に振った。


「いや、俺とユナで考えると、

攻撃魔法はユナの方が強力だが、

ユナは回復魔法を使えない。


逆に俺は属性の影響が少ない

エアーの攻撃魔法を使えるだろ?」


「……うん、そうだね」


「俺、ユナ、サキの3人なら、

攻撃に特化した能力は無くても、

1番バランスが良くて

何にでも対処できるのが俺なんだ」


「……まぁ、確かにそうなるな」


「よし、決まりだ。

俺は1人で△の部屋、

ユナとサキは2人で□の部屋だ」


……話はまとまった。


俺達4人は最高級回復薬を飲んで

体力を回復させた。

そして4人で手を合わせて

ユウトの掛け声で気合を入れる。


「皆さん!

行きますよ! 全員で鍵を手に入れて、

この扉を開けましょうっ!!」


「よしっ! 行くぞっ!!」


「うんっ! 皆! 気をつけてねっ!」


「よっしゃぁ! やってやるぞ!」


──こうして俺達は3方向に分かれ、

それぞれの部屋に挑むのであった。

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