第61話 最終調整

──魔王ビアンドとの決戦前日。


昼間に兵士達の壮行会を終えた後、

俺達4人は最終調整を兼ねて

軽めの魔物退治を行っていた。


「はあっっ!」


……バシーンッ!!


「グギャァッ!!」


ユウトが勇者の剣を振る毎に

魔物が一刀両断されてゆく。


「ゆうたん、やっぱり勇者の剣は

凄い攻撃力だねっ」


「ユナさん、ありがとうございます!」


「本当に凄いよな。

それだけの威力があれば

魔王も簡単に倒せるんじゃないか?」


「サキさん、それは流石に

無理があるんじゃないかと……」


サキの楽観的な発言に

ユウトは苦笑いをする。


「ところでユウト、

勇者の剣が凄いのは分かるんだが、

普通の攻撃しか出来ないのか?」


「えっ? どういう事? 僧侶様?」


俺の質問にユナが不思議な顔をする。


「テルアキさん、

そこはやっぱり気になりますよね。


僕も気になって

今まで色々試したんですけど、

やっぱり必殺技があるみたいなんです」


「……なっ!?

やっぱりそうなのかっ!?」


「ええっ!?

普通の攻撃だけでも凄い威力なのに

必殺技なんてあるのっ!?」


「流石に伝説の勇者の剣だな。

ユウト、せっかくだからその必殺技、

アタシ達に見せてくれよ」


ユウトの発言に興奮気味の

俺、ユナ、サキだったが、

ユウトは残念そうな顔で説明を続けた。


「……すみません、皆さん。

必殺技をお見せしたいのは

ヤマヤマなのですが、

発動させるのに条件があるみたいで

今は撃てないんです」


(……魔王との最終戦闘を前に

勇者の剣が繰り出す必殺技の

発動条件を知っておく事は重要だよな)


そう感じた俺は、ユウト質問した。


「ところで、ユウト。

必殺技を発動させるには

どんな条件が必要なんだ?」


「はい、テルアキさん。

詳細な数値条件は分からないのですが、

戦闘が長引いて何回も攻撃を重ねていると

撃てるようになるんです」


(……ユウトが何回も

攻撃をすれば良いのか。

これは最後の魔王戦には好条件だな。

戦闘が辛くなった終盤に

必殺技を使えるのは有難いぞ!)


「ねぇねぇ、ゆうたん!

それで、どんな技が撃てるの!?」


「はい、ユナさん。

必殺技を発動する条件が整ったら

勇者の剣が光り始めるんです。


それで、その時に僕も意識を集中して

勇者の剣を振り下ろすと

巨大な光の斬撃が現れて

敵を飲み込んで消滅させるんです!」


「ユウト、それマジかっ?

そんな事が出来たら、

剣では斬れない巨大な魔物も

倒す事ができるじゃないかっ!?」


「その通りです! サキさん。

僕もまだ2回しか撃った事はありませんが

かなり強力な一撃でしたよ!」


「おおっ! それは凄いなっ!」


「ゆうたんっ! 凄ーい!」


サキとユナは勇者の剣の必殺技に興奮する。

そしてユウトは説明を続ける。


「僕はその技を

『メガスラッシュ』と呼んでいます。


ただ、この必殺技はもう一段階、

上の威力と言うか、強い状態で発動出来る

……様な気もしています」


「ユウト、それは本当か?」


「はい、テルアキさん。

まだ撃った事はないんですけどね。


今までにない苦戦を強いられて

もっと攻撃回数が重なったら、

この勇者の剣は

今まで以上に大きな力を発揮してくれる

……そんな気がするんです」


「伝説の勇者であるユウトが

そう感じるなら、

きっとそうなんだろうな。


ユウト、最後の魔王戦では

その一段階上の必殺技が

必要になるかもしれない。

……その時は頼むぞ」


「はい! テルアキさん!

これは、僕にしか出来ない使命ですから!

必ずやり遂げます!」


こうして俺達4人は

ユウトが放つ必殺技の存在を知りつつ、

最終調整の戦闘を終えた。


その後、皆で夕食を取り

夜の自由時間を迎える。


ユナは昼間の壮行会で俺とユウトが

2人で話していた事が気になり、

俺の部屋を訪ねてきた。


……コンコンッ。


「……僧侶様? 居る?」


「ああ、ユナか?

今から道具屋に行こうと思ってたんだ。

……何か用事か?」


「あ、ううん……。

なら、私も一緒に行ってもいい?」


「ああ。一緒に行こう」


俺とユナは宿屋を出て

一緒に道具屋に向かう。


「ユナ?何か話でもあったか?」


「あ、うん、えっとね……。

昼の壮行会の時、僧侶様とゆうたんが

2人で出ていったでしょ?

あの時、何を話したのかな?って

気になっちゃって……」


(……なっ!?

ユナに見られてたのか?)


俺は壮行会でユウトに話した事を

思い出して困惑した。


ユウトと話したのは

ホーリーサクリファイスの真実だ。

しかし、ユウトと話した内容を

今ここでユナに伝える訳にはいかない。


「……僧侶様?」


「あ、いや、あの時は特に

大した話はしてないぞ。


ちょっとユウトが壮行会の雰囲気に

疲れた感じに見えたから、

外の空気を吸わせて

リラックスさせようとしただけだ」


「……そっか。

うん、それなら良いんだ」


俺はまたユナに嘘をついてしまった……。

ユナの浮かない表情に

俺はやるせなくなる。


俺とユナは無言のまま暫く歩き、

道具屋に到着した。


「いらっしゃい!」


主人の元気な声が

俺とユナを迎えてくれる。


「こんばんは」


「テルアキさん、

今日も最高級回復薬と万能薬かい?」


「はい、

コレを買うのも今日で最後です。

目標の99個、集まりました」


「本当に99個買ってくれたね。

正直、最初にこの話を聞いた時は、


『はぁっ!?

頭のおかしい客が来たぞっ!?』


って思ったんだよ」


「あはは。オヤジさん、

それは酷いなぁ……。

俺はいつでも真面目です」


「でも、これだけの資金を集めるには

相当な数の魔物を退治したんだろう?


それが出来た君達なら、

魔王ビアンドの討伐も

きっと叶うと信じているよ」


「オヤジさん、

ありがとうございます」


道具屋の主人は、俺の礼に頷きながら

棚からある商品を取り出した。


「そうそう、サキさんに

渡して欲しいモノがあるんだが、

頼んでも良いかな?」


「はい? 何でしょう?」


「これは、新商品の『強化型炸裂弾』だ。

以前の炸裂弾より爆発力が増している。

君達にはお世話になったからね。


8個しか無いけど、私からの餞別だ。

お代は要らないから何かに役立ててくれ」


(……これはっ!

良いモノを手に入れたぞ!

魔王の城では何が起きるか分からないから

きっと役に立つはずだ!)


「良いんですか!?

オヤジさん、ありがとうございます!」


「良かったね、僧侶様!

これで、サキちゃんの

護身用アイテムも安心だね」


「ああ。それに壁や扉を壊すのにも

使えるかもしれないしな!」


──こうして俺達は道具屋で

新しいアイテムを手に入れた。


道具屋を出て、

夜の街をユナと2人で歩く。


(……こうやって

ユナと2人きりで街を歩く時間は

やっぱり嬉しく感じるんだよな。


昼間の壮行会でユウトと

ホーリーサクリファイスの話をしたせいか?

どうも感傷的な気分になってしまう……。

何だか、妙に複雑な気持ちだ……)


俺はユナの横顔を

チラチラと見ながら歩いていた。

すると、不意にユナと目が合ってしまった。


「うん? 僧侶様?

……私の顔に何か付いてる?」


(しまった!? ユナを見てた事、

気付かれたたかなっ!?)


俺はユナの言葉に戸惑ってしまう……。


「あわっ! その……何て言うか、

か、可愛い横顔だなって思って」


(……わっ!

な、何言ってるんだ!? 俺っ!?)


俺の予想外の言葉にユナも驚いて取り乱す。


「……ええっ!? そ、僧侶様っ!?

な、何言ってるの!?」


「す、すまない……。

急に目が合ってびっくりしてしまって……」


「……もぅっ!

びっくりしたのはこっちだよ!」


……ドンッ。


ユナは少し照れながら、

俺の脇を肘で突いた。

俺も照れてユナから目をそらす。


そうして周りを見渡すと、

高い時計台が目についた。


(……そうだ。決戦前夜だし、

この位ならしても良いかな?)


俺はユナにある提案をした。


「ユナ、あの高い時計台の上に昇って

夜の街を眺めないか?」


「……えっ?」


そして俺は、ユナの返事を待たずに

ユナを抱き寄せ魔法を唱えていた。


「ムーヴ!」


俺は普段の自分より積極的行動に

自分でも驚いていた。


「わわっ! 僧侶様っ!?」


……トンッ。


時計台の屋根に到着する。


周囲を見下ろすと

綺麗な夜景の街並みが眼下に広がっている。


「……わぁ! 綺麗っ!」


ユナの顔に笑顔がこぼれる。

その笑顔を見て俺も微笑む。


──こうして俺とユナは

綺麗な夜景の街並みを眺めながら、

暫く2人きりの時間を過ごす……。

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