第60話 決戦前日 ユウトに託すモノ

──ユウトと合流して20日程経過した。

俺達は修業を続け、

ユウトのキャラクターLvは50を超えた。


魔王討伐隊に参加する兵士達が召集され、

決戦はいよいよ明日に迫った。

今日は昼間にグリエールの城で

兵士達を鼓舞する壮行会が行われている。


──壮行会の会場で

統括総督グルナードが開催の挨拶をする。

例によって俺達4人は壇上に立たされ、

討伐隊の象徴となる役を演じていた。


「皆の者! 魔王ビアンドの討伐が

いよいよ明日に迫った!


壇上の勇者達と共に!

フリル王国を苦しめる魔王ビアンドを

打ち倒すのだっ!!」


『うおぉー!!』


会場に集まった300人程の兵士達が

歓声をあげる。

その様子を見ながらユナが小声で俺に話す。


「……僧侶様?

兵士の皆さん、すごい気迫だね?」


「そうだな。ここに居るのは

上官クラスの強い兵士達ばかりだ。

グルナードさんも含め、

こういうイベントで士気を上げる事の

大切さが分かってるんだよ」


続いて、ユウトも俺に声をかける。


「そうですよね、テルアキさん。

試合前……っていうのは、

円陣組んだり、掛け声を合わせたりすると

気合いが入りますもんね」


開催の挨拶も終わり、

兵士達は食事を楽しみながら

盛り上がっていた。


すると、騎士団長ランティーユが

俺とユウトに声を掛けてきた。


「ユウト殿、テルアキ殿、

いよいよ決戦が明日に迫りましたね」


「ランティーユさんっ!?

ご無沙汰してます!」


ランティーユの

気品溢れる美しい佇まいに、

俺もユウトも緊張して挨拶をする。


「2人とも強くなりましたね。

初めて2人と会った時とは

まるで別人のようです」


「ありがとうございます。

……明日は全力で魔王に挑みます」


「ええ、期待しています。

そして伝説の勇者ユウト殿、

伝説の僧侶テルアキ殿、

……2人の武運を祈ります」


俺とユウトがランティーユと話している中、

サキとユナはグルナードと話をしていた。


「グルナードさん、

グラチネの修行僧さん達と、

キュイール島に行く船を操舵してくれる

ブレゼスの漁師さん達は

今日は参加しないんですか?」


「ああ、ユナ。

彼らは明朝、出発する岸で

現地集合となっているよ。


この壮行会に招待もしたんだが、

グラチネの修行僧達は

早起きには慣れているし、

壮行会でのもてなしは不要です……と

返事を頂いたんだ。


また、漁師達の方は

大切な船を一晩岸につけて置いて

魔物に襲われたら大変だ……


という事で遠慮してくれたんだ」


「そうだったんだな。

確かに、グラチネの修行僧は早起きだし、

召集される上級僧達の体力なら、

走ってグリエールに来るなんて

朝飯前だしな」


「グラチネの修行僧さん達って凄いんだね。

……それに、船を大切にする

ブレゼスの漁師さん達も流石だね。


皆の努力に報いる事が出来るように、

私達も明日は頑張らないとっ」


「ああ、そうだよ、サキ、ユナ。

ユウト殿とテルアキ殿も含め、

国中の人が君達4人の活躍に期待しているよ」


「そうですよねっ。

私達、頑張りますっ!」


ユナはグルナードに

小さくガッツポーズを見せる。


「じゃあ、

明日はしっかり戦えるように……、

今の内にケーキを沢山

食べておかないとっ!」


「……なっ! ユナッ、

何でそうなるんだよっ!」


サキのツッコミを無視して、

ユナはグルナードに会釈をしながら

スイーツが並んだ辺りに駆けて行った。


「はは。ユナは元気だな。

あの姿を見てると、

私も何だか元気になれるよ」


──壮行会が盛り上がる中、

俺はユウトと2人で話す為、

ユウトを会場の外へ連れ出した。


一方、ユナは少し離れた所から

俺とユウトが2人で

外に出ていくのを見ていた。


(……あれ? 僧侶様とゆうたん、

2人で外に行っちゃった。

何か、話でもあるのかな?)


会場の扉を出て直ぐの

屋外スペースで俺はユウトに話し始める。


「ユウト、済まないな。

主役を外に連れ出してしまって」


「いえ、それを言うなら

テルアキさんも同じでしょう?

……ところで話って何ですか?」


俺はユウトに、

自分の命を犠牲にする極大魔法


『ホーリーサクリファイス』


について話を始めた。


「……ユウト、

現実世界のRPGでよくある、

僧侶だけが使える自分の生命を犠牲にして

魔物を倒す魔法……って知ってるか?」


「ええ、勿論知ってます。

あの有名なヤツですよね。

でも、後で蘇生できるって分かってても

僕は使うのは嫌いです」


「その自分の生命を犠牲にして

魔物を倒す魔法だが、

……実は俺も使えるんだ。名前は


『ホーリーサクリファイス』 だ」


(……えっ!?)


俺の言葉にユウトの顔が硬直する。


「えっ!? テルアキさん?

……それって!?

でも!! この世界に蘇生魔法なんて

ありませんよっ!?」


「ああ、知ってる。

俺がその魔法を使ったら、

……俺は死んで、この世界から

完全に消滅するだろうな」


(……なっ!?

テ、テルアキさんっ!?)


ユウトは驚きの表情を見せる。


「……ちょ、ちょっと待ってください!

そんなの! ダメですよっ!

ダメに決まってるじゃないですかっ!?」


「勿論だ。俺もむやみに自分の生命を

犠牲にしたりしない。


ただ、明日は魔王との戦いだ。

何が起きるか分からないから、

……ユウトだけには

伝えておこうと思ったんだ」


「僕だけに……って事は、

ユナさんとサキさんは

知らないんですかっ!?」


「……そうだ。あの2人には、

この魔法を使ったら、俺は死なないが

消耗してしばらく動けなくなる

……と伝えてある」


(……えっ!?)


俺の言葉にユウトは混乱する……。


「……そ、そんなっ!?

何でそんな嘘をっ?」


「ユウト、落ち着いて考えてくれ。

俺がこの魔法を使う時は……、


もう、どうにもならなくて

それしか手段が無い!


……って状態のはずだ。


もしユナとサキが真実を知ってたら、

そんな最悪の状況でも

俺にこの魔法を撃たせまい!

とするだろう?


……そうしたら、俺達は全滅だ。


でも、俺がこの魔法を使えば

他の皆は助かるんだ。


……簡単な理屈だ」


「……た、確かに理屈の上では

そうですけどっ!

でも、僕だってそんな魔法、

テルアキさんに撃たせませんよ!」


俺は深呼吸をして話を続ける。


「……ふぅ。

ユウトの理解が早くて良かったよ。

実は、俺はユウトを守るために

この魔法を撃つつもりは無いんだ」


「えっ? ……ど、どういう事ですか?」


「ユウトは勇者の防具で

守られてるだろう?

だからユウトはきっとどんな攻撃を受けても

倒されることは無いだろう。


……ただ、あの2人は違う」


「……なっ!?

テルアキさん、それはつまり……?」


「ユウト、聞いてくれ。

俺がこの魔法を撃つのは

ユナとサキを守る時だけだ。


俺がそれしか方法が無い! って

判断した時は……頼む! 俺に協力してくれ」


俺はそう言いながら、ユウトに頭を下げた。


「テ、テルアキさん……

そんなっ! 僕は……、僕はっ!」


「ユウト、先も言っただろ?

簡単な理屈だ。


お前はどんな攻撃にも堪えられる。


ただし、

想定外で最悪の状況となった場合……、

普通の装備である俺とユナ、サキは

やられる可能性がある。

その時に……、


……3人とも死ぬか?


……俺だけ死ぬか?


……簡単な理屈だ」



……ユウトは複雑な表情を浮かべた。



……誰でも分かる理屈だった。



……簡単な話だった。



でも、1人の生命が犠牲となる事に

ユウトは頷くことができなかった。


「……テルアキさん、今、

この落ち着いて考えられる状況では

そのお願いを聞けません。


でも、僕も理屈は分かってます……。


どうしてもそれしか

方法が無いって状況になったら……

僕はっ……、僕はっ……」


ユウトは下を向いて声を詰まらせた。

俺はユウトの肩に手を置く。


「ユウト、分かってくれてありがとう。

でも、これは最終手段だ。

始めから考えることじゃない……。


俺達は明日、4人で魔王を倒して、

……そして4人で帰ってくるんだ」


「そ、そうですよね!

その言葉を聞いて安心しました」


……ユウトの顔に明るさが戻る。


「……よし。

念の為、合言葉を決めておこう。

俺がもしこの言葉を叫んだら、

俺は『ホーリーサクリファイス』を撃つ。

ユウト、その時は俺に協力してくれ」


「………」


ユウトは黙っている。

しかし、俺は話を続けた。


「ユウト、合言葉は……


『後の事は任せたぞ!』


だ。しっかり覚えておいてくれ」


「……テルアキさん。

分かりました。でも!

テルアキさんも約束してください!


……最後まで、諦めないと!


どんな状況でも、

最後の最後までこの魔法を

使わないで済む方法を考えるって!」


「ああ、分かった。

約束するよ、ユウト」


俺とユウト右手を真っ直ぐ伸ばし、

互いの拳を合わせた。


……コツンッ。


俺とユウトは

互いの決意を胸にして向かい合う……。


「テルアキさん!

僕は勇者です。あなたを

見殺しにするなんて出来ません!」


「そうだな。伝説の勇者に

そう言って貰えると……力が湧くよ。

明日は頑張るぞ!」


──こうして俺は、

ユウトにホーリーサクリファイスの真実と

俺の覚悟を伝えたのであった。

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