第59話 ユウトの旅

──ユウトと合流して

戦闘の連携を確認した俺達4人は、

夕食後、宿屋の談話室で話をしていた。


「ねえ、ゆうたん?

グリエールまでの道のり、

どんな旅だったか話を聞かせてよ」


「俺も聞きたいな。

ユウト、話して貰えるか?」


「分かりました。

訪れたは街の順にお話します」


──ユウトはロティールを出た後の

話を始める。


「まずはロティールを出て、

ポッシの山道を進みました。


そこで、

魔物に襲われている少女が居たので

助けたら……、山小屋に案内されました」


ユウトの話にサキが反応する。


「それって! セップさんの所かっ?

皆、元気にしていたか?」


「はい、サキさん。

セップさんの山小屋で一晩、

お世話になりました。


皆さん、お元気でしたよ。

子供達ばかりなのに、

真面目に働いたり、勉強したり……

とても感心しました」


「セップさんは指導上手だからな。

皆、素直に言うことを聞くんだよ」


「それで、僕が伝説の勇者で

サキさん達と合流する予定だって話したら、

それはもう皆さん喜んでくれました」


その言葉を聞き、

サキの顔に笑顔があふれる。


「そうか……、それはうれしい知らせだ。

ユウト、魔物に襲われてた子供を

救ってくれてありがとうな」


「いえ、当然の事ですよ。

で、その子は将来……、

僧侶になるために勉強してるんだ!

って言ってました。


……確か、クランちゃんって言ったかな?」


その名前を聞き、

ユナと俺がはっと驚く。


「へぇ……、良かったね、僧侶様っ。

未来のお嫁さん候補が

頑張ってくれてるみたいだよ」


「なっ……! ユナッ!?

それは冗談ていうか、

子供の儚い夢っていうか……」


含みのあるユナの冗談に

俺は一瞬取り乱したが、

何も知らないユウトは真面目に反応した。


「えぇっ!? テルアキさんっ!?

……そ、そんな趣味の人だったんですか!?

相手は幼女ですよっ!?」


「……ちょっ! ユウトっ!

断じて違うぞっ! それは誤解だ!!」


「……僧侶様?

慌てちゃって怪しいなぁ……。

案外、未来のクランちゃんに

期待してたりしてっ」


「……なっ? ユナも煽るんじゃないっ!」


状況が気まずくなった俺は、

堪らずユウトの話を進めさせる。


「ユウト! 次の街は?

ブレゼスはどうだったんだ?」


──続いて、ユウトは

港町ブレゼスでの出来事を話す。


「ブレゼスの港町はとても賑やかでした。

テルアキさん達の活躍で

漁も再開されて、皆さん楽しそうでした。


……それに、名物になった

ザバの一夜干しとシメザバでしたか?

盛んに生産してましたよ」


「それは良かったな。

傷みの早いザバも、これで沢山の人に

味わってもらえそうだな」


「良かったね、僧侶様。

……ゆうたんは、漁師長カルマールさんと

三姉妹には会ったの?」


「はい、滞在中の食事は

ユイトルさんのお店で食べてましたし、

皆さんにも良くして頂きました」


「……そうか。

皆、元気にやってるんだな」


「そうそう、ユイトルさんから

テルアキさんに伝言です。


……ちょっと大きな声を出すので

驚かないで下さいね」


「……うん? 何だ?」


俺達3人はユウトの言葉に少し身構える。

すると、ユウトは立ち上がり、

深呼吸をして大声を上げた。


「ちょっとテルアキッ!

あんたねっ! 馬鹿なのっ!?

街を出たっきり一度も顔を出さないでっ!

たまには会いに来なさいよっ!


あんたに食べさせたい料理、

一緒に作りたい料理が

山ほどあるんだからねっ!!


……だそうです」


ユウトが出した突然の大声に、

俺達3人はびっくりして腰を抜かした。


「はは……。ユイトルには悪いことしたな。

今度会ったら、謝っておかないと」


ユイトルの伝言に、

ユナはまた含みのある冗談を言う……。


「僧侶様、良かったね。

愛しのユイトルちゃんから、

愛の伝言だよっ」


「わわっ、ユナ! 何を言い出すんだよ?

俺とユイトルは別にっ!」


ユナの冗談に

俺は堪らず照れてしまう。


「あれ? 僧侶様……、顔が暑そうだね。

ブリザードで凍らせてあげようか?」


「……ちょっ!

ユナッ! それはやめろっ!」


またも状況が気まずくなった俺は

ユウトの話を次へ進める……。


「ユ、ユウト……、次はっ?

グラチネの様子はどうだった?」


──続いて、ユウトは

グラチネでの出来事を話す。


「修行僧の街グラチネでは、

寺長セザムさんに稽古をつけてもらったり、

パンダ達に修業相手になって貰ったり、

……体技を中心に勉強しました」


ユウトの言葉にサキが反応する。


「セザム寺長から

直々に指導を受けられたのか?

ユウト、それは凄い事だぞっ!」


「えっ? そうだったんですか?

そうとは知らず、

普通に学んでましたけど……」


「ゆうたん、街の様子はどうだった?

私達は観光を盛り上げる……

みたいなお手伝いをしたんだけど、

観光の人は来てた?」


「……ユナさん、

それはもう、盛り上がってましたよ。


体に良い運動、清々しい空気と景色、

温泉にヘルシーな大豆料理……、

女性客の皆さんは大層、喜んでましたね」


「……そうか、それは良かった。

俺達もひと肌脱いだ甲斐があったな」


……ユウトは話を続ける。


「それで、

街の観光も人気が出てきたみたいで、

来訪のポイントカードを作ってました。


5回以上来訪した人は、

お気に入りの修業僧を案内係にご指名できる

……なんてサービスもしてましたね。


街の案内所には

『人気の男前修行僧ランキング』が

掲示されてましたよ。


……流石に、

それはちょっと面白かったです。あはは」


(……なっ!?

それって、好きなホストを指名する!

……みたいになってるぞっ!?

あの街、大丈夫なのかっ!?)


俺が驚きを隠せない中、

サキがユウトに照れ臭そうに尋ねる。


「なぁ、ユウト……。

セドラって修行僧を知ってるか?

その……、セドラも

男前ランキングに入ってたのか?」


「ふふ。サキちゃんは

セドりんが人気者になったら

困っちゃうもんね」


「なっ! ユナッ!

……別に、そういう訳じゃっ!?」


そんなサキの心情を察する事なく、

ユウトは素直に話し続ける。


「セドラさんですね。知ってます。

街の案内を最初にしてくれた方ですから。

セドラさんは、

……確かランキング3位でした」


「……なっ!? 3位なのかっ!?

それって……その、

沢山の女性が寄ってたかって……

みいたいな事になってるのかっ!?」


「サ、サキちゃん、落ち着いて!

セドりんは、サキちゃんが居るのに

そんな観光の女性に

心を移したりしないよっ」


「ちょっ、ユナッ!

だから、アタシは別にそんなんじゃ!」


「セドラさんは、

ご指名も頻繁に受けてましたね。


……で、熱狂的な

セドラファンも居るみたいで、

僕が見た時、セドラさんは

2人の女性に両脇から腕を組まれて……

嬉しそうに街の案内をしてましたよ」


(……なっ!?)


……ゴゴゴゴッ!


ユウトの言葉を聞き、

サキの全身から怒りの気配が漂う。


「……セドラめっ! ……あいつっ!!」


そんなサキの気配に構わず、

ユウトは悪気無く笑顔で話を続ける。


「それにしも……、

あんな風に綺麗なお姉さんに

両脇から挟まれたら、

男としては夢みたいですよねー。


テルアキさんもそう思いませんか?」


(……なっ!? ……何かマズイ矛先が

こっちに向いた気がするっ!?)


そして、ユナが冷たい視線を俺に向ける。


「へぇ……、僧侶様もそうなんだ?

男の人って何だかヤラシイよね。


まぁ、私もサキちゃんも?

それは色気ムンムンって感じは無いけど?


ふーん……、綺麗なお姉さんに

挟まれたいんだ?」


「……ちょ、ちょっと待て、ユナ!

俺はまだ何も答えてないぞ!!」


(ユウト!

……お前はちょっと素直過ぎる!

もう少し空気を読んでくれっ!)


そしてユウトが最後に

話をまとめようとする……。


「でも、こうして色々な所を

訪れて感じたことがあります」


「うん? 急にどうしたの? ゆうたん?」


「どの街でも、テルアキさん、

サキさん、ユナさんが

皆にとても愛されていたって事です」


(……ユ、ユウト、

素晴らしいタイミングで

良いことを言ってくれたな!)


俺とサキ、ユナは

ふっと穏やかな顔になる。


「僕は街の皆さんと

触れ合って、話を聞いて……、

テルアキさん達が本当に

素晴らしい人達なんだと分かりました。

そして街の皆さん達もそうです」


「ゆ、ゆうたん……」


「……だから、

その素晴らしい街の皆さんを

苦しめる魔王ビアンドを

僕は許すことができません。


正直、ロティールを出て直ぐは、

魔王討伐って言ってもどこか他人事というか、

気乗りしなかったのですが、

……今ははっきり思います」


「うん? 何をだ? ユウト」


「僕は魔王ビアンドを倒したい!

そして、それをテルアキさん、

サキさん、ユナさんと一緒に成し遂げたい!

……って事です」


「わーん! ゆうたん!

ありがとう!! そんな風に思ってくれて!」


ユナは思わずユウトに抱き着いた。


「ユ、ユナさんっ!?」


「あはは。ユナは感情に正直だな。

……でも、ユウト。アタシも同じ気持ちだ。

ありがとうな」


「サキさん……」


「ユウト、勿論俺も同じ気持ちだぞ。

この4人で、必ず魔王ビアンドを倒そう!」


──こうしてこの夜、

俺達4人は深く結束し、

魔王ビアンドの討伐を誓うのであった。

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