第47話 ユナの修行

──ユナはクルジュから

教育係として魔法研究員の

エルレを紹介された。


「ユナ、こちらはエルレです。

ちょっと捕らえにくい部分もありますが、

研究者としては一流です。


今日からエルレの元で研究補助をしなさい。

また、ココには魔法に関する資料も

沢山あるから、それで魔法を

基礎からしっかり学び直すのです」


「クルジュ様!

私に研究助手をつけて下さるのですか?

それは何とありがたい!!」


「エルレ、完全な助手ではありません。

ユナは魔女として一人前になる為の修業で

こちらに来ています。

ユナにはしっかりと

魔法の基礎も学んで貰います。


……そうですね、

研究補助と魔法学習の割合は

半々位にしてあげなさい。

私も定期的に状況を確認しに来ます」


「しかと承知致しました!

魔法の基礎を学ばせながら

しっかり研究補助もして頂きます!

……ユナさんっ!

よろしくお頼み申します!!」


厳しい雰囲気のクルジュと

不思議な雰囲気のエルレを見て

ユナは不安な苦笑いを浮かべる……。


「……エ、エルレさん、

よろしくお願いします」


(……うわぁ、クルジュさんと言い

エルレさんと言い、独特な人達ばっかり。

……私、大丈夫かなぁ?)


「ユナ、そんなに不安な

顔をしなくても大丈夫です。


今のエルレはこうして

研究に没頭しておりますが、

元々は魔法を教える施設の教員です。

教育係としては適任者ですよ」


「やや、クルジュ様、

これは身に余る光栄なお言葉!

……感謝します!」


「そ、そうなんですね、クルジュさん。

それを聞いて安心しました」


(……とは言うものの、

やっぱり不安だよぉ……)


「それではユナさん、

まずは研究施設をご案内しましょう」


ユナは研究施設を案内された後、

魔法の資料がずらりと並んだ書庫で

エルレと話を始めた。


「ユナさん、

ここの資料はご自由に読んで下され」


「……凄い量!?

これは学び甲斐がありますね。

エルレさん、ありがとう!」


「ところでユナさん、

クルジュ様からユナさんへの魔法教育は

ファイアを中心に……と承っております」


「はい。私は気質が

ファイアに向いてるみたいなんです」


「……左様ですか。

ではファイアについて

少しばかりお話しましょう。

簡単な講義と思って聞いて下され」


「はい! お願いします」


「ユナさん、

まず魔法ではなく化学的な現象として

モノが燃える……という事について

説明できますか?」


「えっと、モノの温度が高くなって、

バーンって感じで……えへへ」


(あぁ……、お勉強は苦手なの、

バレちゃったかなぁ?)


ユナは苦笑いで誤魔化そうとしたが、

質問に上手く答えられないユナに

エルレは驚きを見せる。


「……何ともっ! 燃焼現象を理解せずに

ファイアを撃てるとはっ!

ユナさんはお馬鹿なのですかっ!?

それとも天才なのですかっ!?」


「いや……、

そこは出来れば天才の方向で……」


「まずは燃焼の基本です。

燃焼とは、可燃物が光や熱を発しながら

激しく酸素と反応する現象です」


「あ、はい。聞いたことあります……」


………。


2人の間に微妙な沈黙のひと時が流れる……。


「……で、ではユナさん、

熱力学の第2法則は如何ですか?」


「エルレさん……、

ギブアップです。あはは……」


「……かの法則は、

熱は高い所から低い所に移動する、

逆の移動は起こりえない……

と言う常識的なものです」


「えっと……、お湯は自然に冷めるけど、

冷たい水が急に熱くなって

沸騰したりしない……的なヤツですね」


「その通りです。

ユナさんは理解の方法が

直感的で素晴らしいです!」


「あ、ありがとうございます……」


「では、今の話を

ファイアの魔法を交えて考えましょう。


化学現象では、

炎が燃えるには酸素が必要です。

しかし、ファイアの魔法は

魔力を根源に炎を発生させるので

酸素がなくても炎は出ます」


「はい、分かります」


「……ではユナさん?

ファイアを唱えた後の炎は

魔力だけで燃えていると思いますか?

それとも、炎の発生後は

周囲の酸素と反応して

化学的に燃えていると思いますか?」


「……えっ!?

そんなの考えた事無いです。

ファイアを唱えて、その後はバーン!

……って感じで撃ってるので。


その質問、答えはあるのですか?」


「お答えしましょう。

……正解は両方です。


ファイアを唱えた後に見える炎は

術者の魔力で燃える炎と、

高熱を得て周囲の酸素と反応して

燃焼する炎と両方なのです。


対象物が燃焼温度以上になれば、

周囲の酸素と反応して

炎が生まれて持続します」


「そうだったのですね。

そんな事、全然考えてませんでした」


「ではユナさん、今の話を聞いて

ファイアの威力を強くする方法を

何か思いつきますか?」


「うーん……、術者の魔力を強くするか、

自然な炎が良く燃えるように

魔力の炎を操れば

良いんじゃないでしょうか?」


「正解です!

例えば炎で渦を巻いて

周囲の酸素を沢山集めるとか……ですね。

同じファイアでも術の操り方で

威力は変えられます」


「そう聞くと、魔法にはまだまだ未知の

可能性を感じますね」


「ワクワクしますでしょう!?

研究冥利に尽きるというものです。

では熱力学の第2法則からも

考察してみましょう。


……如何ですか?

何かファイアの効果を増す方法を

思いつきますか?」


「えっと……、熱は高い方から低い方に

移動するんですよね?


なら、熱が逃げる前に

素早く短時間で一気に燃やしちゃうとか?


熱が逃げる前提なら、

逃げる以上に熱を小さく集めて

超高温に凝縮するとか?」


「何と飲み込みの早い理解でしょう!

ユナさんの直感力に理論の理解が加われば、

ユナさんの魔法はもっと

強力になると確信します!」


「そ……、そうですか?

ありがとうございます。


今まで理論はあまり

意識してこなかったけど、

理論を考えると気づくことが

沢山あるんですね。


こんな風にクイズを混ぜで

それを教えてくれるなんて……、

エルレさんは教育上手ですね!」


そう言いながらユナはエルレに微笑んだ。


「これはこれは!

何とも嬉しいお言葉です!


これまでの話で分かる通り、

魔法は形状や密度の操り方一つで

攻撃の威力が変わります。


例えば、大きな獣型の魔物と

戦闘する事を想定しても、

ファイア1発の魔法を撃って


・全身を覆う炎で火傷させて

動作を鈍くするのか?


・鋭い爪が生えた手だけに炎を集中して

攻撃力の低減を図るのか?


・それとも頭部に炎を集中して

熱で意識を奪ってしまうのか?


扱い方1つ変えるだけで

与えるダメージも変わるし、

様々な有効手段を考えられるのです」


「……えっ!?

そんな事、考えもしませんでした!

ファイアを唱えるなら、

ただファイアを唱えるだけで

炎の密度とか狙う場所なんて……。

今日は凄いことを勉強しました!」


「やや、これまた嬉しいお言葉です。


と言った具合ですので、ファイアなら炎を

密度の濃い剣の形に制御して

魔力による炎の剣撃とか……、

サンダーなら同様に雷の剣撃……、

等の応用も我々は研究しております」


「わぁ……、魔法を使って

炎で『チンチコリンの剣』とか

雷で『ビリビリドンの剣』とか

で攻撃できたらカッコイイですよね!」


ユナは想像力を膨らませて

楽しそうな笑顔をエルレに向けた。


(……なっ!? ユナさん、

何と言う個性的な名前をっ!?)


……。


笑顔のユナと戸惑うエルレが向き合い、

再び微妙な沈黙のひと時が

書庫内に流れる……。


(あはは……。

先から何だか、気まずいなぁ……)


「コホン……、ユナさんはやはり

独特の感性をお持ちのようです。

その感性や発想は研究に必要不可欠!

是非今日からよろしくお願い致します!」


──こうしてユナは

エルレに魔法の理論と基礎を

学びながら研究補助を行った。


これまで魔法の扱いを

感性に頼ってきたユナは、

理論の理解を得ることで

より強力で的確な攻撃魔法を

撃てる様になっていった……。


──そして100日間が経過した。

俺、ユナ、サキはそれぞれの修業を終え、

グリエールで再会する。


「久しぶりだな、テルアキ、ユナ!」


「サキちゃん! おかえりーっ!

会えなくて寂しかったよー!」


「どわっ! ユナ、抱き着くなっ!」


「だって、寂しかったんだもんー!」


「サキ、元気そうだな」


「ああ、テルアキも元気そうで何よりだ。

それにしても、お前ら

何だか雰囲気が変わったな。

成長したって感じが伝わってくるぞ」


「えへへ。私達、

いっぱい修業したんだから」


「ああ。

俺もユナも格段に成長したぞ。

キャラクターLvも50を超えたから

上級魔法も撃てるようになったしな。


サキの方こそ、

ちょっと雰囲気が落ち着いたな。

以前より強くなってるのが分かるぞ」


「まぁな。エロジジイとエロ坊主共……、

もとい、グラチネの修行僧達に

毎日、尻を狙われて

追い回されていたからな」


俺とユナはサキの言葉を聞いて

戸惑いの表情を浮かべる。


(……サキちゃん!?

一体どんな修業してたのっ!?)


「……ははっ。

一体どんな修業してたんだよ?

まぁ、良いか。今夜はゆっくり休んで

明日は四天王ダンドにリベンジするぞ!」


──こうして俺達は翌朝、

四天王ダンドにリベンジを果たすべく

ラグー遺跡に向かうのであった。

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