第57話 決着。

 それからすぐにそれぞれの得物を持って中庭に移動した。

 途中、皆藤家の皆さんをとすれ違ったけれど、だれも止めようとしなかった。まあ、あんだけ親子喧嘩してたんだから、こうなる可能性もわかっていたんだろうな。


 それぞれ双刀を構え、静寂のうちに始まる。正月のときとは違って、左側の刀を少し上にずらしている。とはいえ、同じように来るかもしれない。油断はならない。

 審判もだれもいない模擬戦。

 なにをもって決着とするのかさえ、事前に決めてない。

 しかし、親父も俺もどこで決着をつけるのか、気づいていた。


 俺と親父が同時に前に進む。

 こちらから見て左側の刀、上にあげていた方の刀を振り下ろす。一瞬の判断の誤りが致命傷。俺は両方の刀をクロスさせながらそれを受けとめる。

 が、右側が空いていたことに気づき、下にした右手の刀をすぐさま抜いて、右側の刀を押さえこむ。

 力だけならば親父の方が上だ。

 しかし、これはコツもある。


 集中しなければならないという精神的なもの。


 両手でじりじりと抑えているうちに、親父の右手の力が抜けたことに気づく。

 なにか攻撃を仕掛けてくると思って、左で抑え込んでいた刀を離して身体ごと後退る。

 しかし、それ以上親父は攻撃をしてこない。

 よく見ると、親父の左手が震えている。


「……――――もしかして」


 まさか。


 親父が今、このタイミングで首領を譲ろうとした理由。

 俺の高校卒業まで待てなかった理由。


 わかってしまった。


「……――ああ。二月ほど前からだ」

「なんであなたはそれをっ!?」


 正直に言ってくれなかったんだ。そうすれば、なにも波乱を起こさずに首領を俺に譲れたのに。


「そしたら茅が引き継ぐと言っただろう。それを避けたかった。あいつは相当の腕前はたしかだが、いかんせん人望がない。その点でいえば、お前は未知だ。いくらでもやりようがある」

「っ!!」


 まさに一を聞いて十を知る、というのはこのことだ。

 不完全な質問にも答えやがったよ、この人。


「だから、流氷にも選択肢をなくした状態でお前に引き継がせることができるよう頼んだんだ。もっとも最初は渋りやがったが、十八年前の凡ミスを引き合いに出したら二つ返事だったな」


 まさか、最後の最後で理事長と和解するなんてな。

 いや、和解ではないか。

 この人がそれをネタにゆすったという方が正しいな。


「お前が継げ。お前は私に勝った」


 託す。早く本邸に向かえ。


 そう言って、鞘に双刀をしまって親父は別邸の中に戻った。

 もやもやが晴れたかどうかで言えば別だ。でも、親父の人となりをようやく少しだけわかった気がした。

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