第27話 変態とシスコンと勝利条件
まさか櫻に呪いをかけられるなんて思ってもいなかった。
そのせいか、あのあと
だからといって時は無情に進む。
最近では生徒会室よりも理事長室に集まるようになった俺らは、今日もここでたむろっていたのだが、櫻との関係はあれから一歩も進んではいない、というか、一切変化はなかった。
あの日のアイツの激情が嘘のようだった。
文化祭から一週間。
榎木さんからはちょっと内輪もめしたのか、ようやく今日、《花勝負》開催願が理事長あてに届けられたようだ。
その内容を見て、あちゃーと唸る茜さん。俺もそれに便乗してここから逃げたい気分だった。
「まあ、お前たち二人がいるってあいつは知っているから、おそらく無茶な要望はしてこないと思ったが、まさかこんな要望してくるとは、な」
どうやら理事長もその内容に気分が重いようで、心なしか自信がなさげだ。
「ええ。少なくとも五人は必要だけれど、皆藤家からは一人しか出してほしくないみたいねぇ」
茜さんは残念そうに言うが、仕方のないことだった。
五位会議で設立当初から第一位の皆藤家と第二位の一松家では実力差がありすぎる。
言いかたは悪いが、『万年第二位』ということは一度たりとも第一位である皆藤家に勝てたためしがないということにもつながる。
だからこそ、櫻を確実に戻したいということが目的である榎木さんにしてみれば、このハンデとなりうる『皆藤家からの参戦をできる限り抑える』という条件をつけておかねばならない。
「伍赤、キミは大将戦で戦え」
そうきますよねぇ。
今回はとにもかくにもあちらは連れ戻したい。ということは最大の戦力で来るはず。ということはこちらもそれに応じた戦力でもって抑えないと櫻を連れ戻されてしまう。だから、この
理事長の言葉に頷く俺。そうなると
「で、伍赤と一緒に戦うのはあか――」
「ソウと一緒に戦います」
「おい、さく……――」
「私はいくら自分が『賭け』の対象になっているからといって、そこでただ見守っているだけにはいきません」
おっと。理事長の言葉を遮ってまで櫻が名乗りでる。
しっかし、
「そうか、わかった。では、キミたちを大将戦で使う」
理事長の言葉に頷く俺ら。
「……――――で、残りの四人をどうするか、だが」
こちらの
「そうねぇ。武芸科の誰かを勧誘してもいいけれど、できればあちらにとっても公にするのはよくないわねぇ」
そうだ。
今回は半ば『皆藤家対一松家』という構図になっているが、既に俺という例外がいる。しかし、これ以上、一松の内輪もめ(に近いもの)をほかの武芸科の生徒たちに公表するのは、あまりよろしくない。
榎木さんたちはきっと望まないだろう。
「なぁ、流氷さん」
それまで黙っていた薔さんが覚悟を決めたように口を開く。なんだ? と理事長が薔さんに返すと、覚悟を決めていたはずなのに、もう一度深呼吸をして話しだす薔さん。
「俺としちゃあ、櫻の
まさか。
俺は一抹の不安を覚えた。薔さんは
「だけども一番、対一松榎木という意味ではいけるヤツかもしれないのですが、いかがでしょうか?」
一瞬だけ口調がかなり悪かったが、その一瞬の中に全ての感情を入れこんだのだろう。いつもの薔さん、なにを考えているのかわからなく、でもすべての局面を見ている人はそう願う。
俺としてはできれば共闘、なんていう展開は本当は御免だけれど、それでも仕方がない。薔さんが推薦するぐらいだから、今の状態ではある意味、最後に頼れる人なんだろう。
「うーん……」
理事長もやはり難色を示したが、どうやら背に腹はかえられないようで、わかったと頷く。茜さんも無言でそっぽを向いている。
「では明日、生徒会室に来いと命令しておけ」
「わかりました」
その命令に重い表情で頷く薔さん。
「じゃああとは……どうするか……――」
「では、俺が中堅戦に出ます」
三苺苺が出たとしても残りは三枠。重複出場禁止と書いていないから、問題ないだろうと思って名乗りでると、頼むとすぐに返ってくる。
「じゃあ、あとは先鋒、次鋒、副将だわね……――――いいわ」
「なんだ?」
「私が副将戦でいくわ」
指折りながらカウントしていた茜さんがそれならばと頷く。そこに悲愴さはない。
「こないだは模擬戦だったし、総花君に武器限定されていたとはいっても負けちゃったから正直、不満だったの。一松相手に実戦っていうのもいいわね」
茜さんはふふふと笑いながらそう言う。なんだかその笑みは暗い愉悦を含んでいそうだったが、それはそれは楽しそうで多分、この重い雰囲気を飛ばすためにあえてそうしているんだろうと思ったからか、だれもなにも言わない。
「わかった。頼む」
茜さんの申し出に頷いた理事長はさて、あとどうするかと悩んでいたが、そういえばと榎木さんから届いた条件の項目を読む。
「……――薔」
「なんでしょうか?」
「三苺苺に頼む前に……も願えないか?」
理事長の言葉にまさかと全員の顔色が変わる。
「流氷さん、それって――……」
「全くですよ……」
「……――――」
「理事長……」
全員からの総ツッコミにもかかわらず、理事長は飄々としている。
「一松家相手に勝てばいいんだろ? だったら、手段は選んでいられねぇよな?」
その言葉に全員が黙りこまざるをえなかった。
それぐらい邪道というか、ある意味暴論だったのだ。でも、理事長の言葉には説得力があった。
「じゃあ、決まりだな」
一松家との《花勝負》当日。
無情にも空は快晴で、さんさんと輝く太陽のもとで五本勝負がこれから執り行われようとしているのだが……――――
「はぁ」
すっごい気が重かった。
原因は目の前にいる人だ。なんでこの人はこう簡単に敵陣営に来てるんだろうか。
「うん、それをいうならば、僕たちの方が気が重いんだけれど?」
そう言う目の前の人はすっごいにこやかだ。太陽よりもまぶしいくらいだ。『気が重い』とか
「それが本当なら、俺たちはマリアナ海溝レベルで気が重いんですけれど」
俺の言葉に、やっぱり面白いよねぇと笑う目の前の人。
この人の笑顔に騙されちゃいけない。
この人は櫻を溺愛しすぎるがために、半分冗談で俺を崖から文字通り
一部を紫色のメッシュを入れた茶髪のその人は、じゃあ、よろしくねと笑顔で俺に握手を求めてきた。
「……――――はーい」
俺のやる気のない返事に
今日は天下分け目の天王山。
さあ、いっちょ暴れてきますか。
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