避けられない宿命の血
第20話 お取引には現金のご用意を
「つーかーれーたー」
机の上にべそりと倒れこむ櫻。短い髪の毛が四方に広がる。それを見て行儀悪いなぁと思いながらも、実際俺もあの兄妹とのやり取りはしんどかったから、それをとがめる気にもならない。
なにより茜さんや薔さんがここにいながらもなにも言ってこないところを見ると、二人もあの人たちにはしてやられたのだろう。
「結局、あいつらだったんだな」
「そうみたいね」
『どうやらボクたちの思惑通りに動いてくれてなによりでした』
慇懃無礼で櫻の両親を殺した男はそう笑っていたらしい。
あの男は日本国憲法やそれのもとで施行されている刑法や民法では処罰されない。それは武芸百家との約定があるから仕方のないことだ。
でも、遺族の感情はまた別物だ。
あの男の告白により、櫻はたぶん精神的に参っているだろう。
それに加え、殺した相手の娘がいるこの立睿高校に入学しようとしているもんな。俺だったらあの場で半殺しにしそうな気がしたけど、コイツはしなかった。いや、できなかった。
なにを言われたか知らないが、きっとロクなことじゃないだろうな。
「ねぇ総花」
「なんだ?」
櫻がそういえばと起き上がる。この精神的疲労をはね飛ばすようななにかを思いだしたようだ。
「そういえば文化祭の件だけど」
「ああ」
って、ぶっちゃけどーでもいいことだ。というか、この疲労のあとでよくそんな話ができるな。茜さんも薔さんも少し尊敬のまなざしで櫻を見てる。
櫻が人手を増やすことを拒否
→茜さんが薔さんに尋ねる
→薔さん勘違いする
→正気に戻った薔さん、爆弾発言かます
→茜さん、その爆弾発言をさらに威力を大きくする
そもそも数時間前ってたしか、こういう流れだったよな。もう無駄な精神力を使いたくないんだけど、いやそもそも巻きこまれたくないんだけど。
無理デスヨネ。
「
「へぇ」
諦めの境地にいた俺だけど、櫻の言葉に現実に引きもどされる。なにを企んでいるのやら。
「でさ、ソウと一緒に揚げたこ屋さんやりたい」
「なんでまた」
いや、なにか出品したいと言ってくると思ってたけど、少し斜め上の展開だ。なぜまた『揚げたこ』屋さんなんだ。もうちょっと可愛らしいものじゃないんだ。
「たしかにコストも抑えられるし、集客率もいいだろうな」
櫻の問題発言に先ほどまで呆れかけていた薔さんがそう言う。というか、なぜこの人、
いや、できる人なんだろうけどさ。
その変わりようには茜さんも引いている。
「で、ついでにタピオカミルクティーでも売れば抜群じゃない?」
「……――」
「いいかもな」
今度こそ絶句するしかなかったが、薔さんもノリノリだ。この人はこんな遊びごとにノル人なんだ。新たな発見とともに薔さんを観察してると、いつの間にか茜さんが近くに来ていた。
「総花君」
「なんでしょう?」
警戒心とともに返事すると、あらあら警戒しちゃってると笑われる。なんで、警戒しただけでネタにされなきゃいけないんだよ。
「総花君はこの提案に反対なの?」
「いいえ」
全く反対するつもりはない。でも、櫻、お前、もし模擬店を出したとして、たったの二人で回すつもりか?
そう思っているだけ。俺の否定にじゃあさともう一度、茜さんは尋ねてくる。迫力がある。
「人の問題ですよ」
「人って、人の数のこと?」
「ええ」
茜さんはそうねぇと考える。
「櫻ちゃんは人数を増やすのが嫌。でも、店を運営するのには人手が必要」
「そうですね」
「じゃあさ」
そう言って、茜さんは身をこちらに乗りだす。
怖いんですけれど。
少し後退った俺に大丈夫、取って食ったりしないからと嫣然と微笑む。
怖い。
「私と薔、流氷さんが店番すればいいわよね?」
「はぁ!?」
唐突に言われたその提案は本当に突拍子もないことそのものだった。いや、一生徒のために普通、理事長まで来るか?
「というか、
「うん」
茜さんの即答にどういうことだと詰問すると、だってさぁと笑う。
「君たちをここに来るように仕向けたのは理事長よ。普通だったら、あんなチープな果たし状なんてまともに取りあわないでしょ?」
言われてみればそうだ。なんであの人は俺達が襲撃
「だからこそ代償ってわけじゃないけど、あの人には二人のために働いてもらわないと、ね?」
うん、この人は理事長相手でも容赦ないな。
笑顔でうんうんと言っている茜さんが満足するならばそれでいいや。
「じゃあ、総花君は責任者でお願いね」
「はい??」
茜さんは大爆弾を落としていく。
「だって、櫻ちゃんはきっと総花君の言うことしか聞かないし、薔は顧問だけれど、総花君につき従っている櫻ちゃんよりも総花君の言うことを聞くと思うよ? それに私と理事長はそもそも部外者だから、櫻ちゃんと薔が聞く人じゃないと聞けないからねぇ」
ナ ン デ ス ッ テ。
平社員がある企画を提出したら、直属の部長から社長、そして
正直、面倒だなぁ。帰省をするどころか、寮の自室に本部と称してこのメンツが入り浸りそうな未来しか浮かばねぇな。
「……――わかりました」
茜さんの見えない圧力に負けた。
でも、それは楽しいのだろう。楽しんでやるさ、全力でね。
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