第19話 離れられない理由
「よくやった、櫻」
櫻の近くまで行き、髪の毛をくしゃくしゃっとすると、いつもは嫌がるのに今日はなぜかすり寄ってくる。
「なにがあったんだ」
多分あいつ、
しばらくの間、頭を擦りつけていた櫻だったが、そういえばと顔をあげる。
「ねぇ。ソウは誰か好きな人はいるの?」
「……――は?」
突拍子もないことを聞かれ、答えるのに困った。
いや、好きな人はいるが、答えてもいいものなんだろうか。一応ここは皆藤家の敷地内だしなぁ。
「ううん。いないならいい」
「はぁ」
この言葉にはどんな意味が含まれているのだろうか。さっぱり意味が分からなかったが、こいつがいいと言うなら、まあいいや。
「さて、三苺苺君、これでキミは気が済んだかい?」
理事長が近くまで来ていた。
「ええ、十分です。ボクの気持ちをしっかりと彼女に伝えられましたので、これ以上、彼女の邪魔になることはいたしませんよ」
「そうか。生徒会長
「いえ」
苺の答えに俺は拍子抜けした。ここまで櫻にこだわったんだから、こいつが生徒会に入るのだろうと思っていたのだが。そう考えていると、のんきな苺の声が聞こえてくる。
「まあ、せっかくですし、立睿高校に転入させていただきますけど、組織はどうも苦手で。そうですね。せいぜい
なにに対する地下組織なんだろうか。
しかし、茜さんも薔さんも、そして理事長もまったくその意味に気づいていないようだ。
「ねぇ、総花」
先ほど離れたはずの櫻がまた近くに寄ってきた。
「なんだ?」
「私、あの女の子、見た覚えがないんだけれど」
「どういうことだ?」
野苺の方を指さす櫻。
「あの男は会ったことある。それは覚えている。でも、あの女の子は……」
「ああ、そういうことか」
俺は頷く。
「おそらく会ったこと
「えっ……――」
ちなみに俺も彼女、野苺に会ったことはないと思われる。多分、すべて彼女の妄想だろう。俺と会ったことも俺のことが好きなことも。
多分、彼女の兄、三苺苺の刷り込みによって。
「でも、それを裏付けられるような証拠は今はない。だから、黙っておこう」
「だね」
なんのために彼女まで巻きこんだのか理解できないが、いずれ種明かしができる日が近くなるだろう。だから、それまではこの平和な生活を乱されたくないものだ。
「ねぇ、総花」
「なんだ?」
そう言って顔をギュッと近づけてくる櫻。可愛いな。こういうところがお前から離れられない理由なんだよ。
「夢野に帰ったら、ニコラスおじさんのアイスクレープおごってくれる?」
「ああ、いいよ」
いつ帰れるかはわからないが、もちろんだと笑う。それくらいのことをしたって罰は当たらないよね?
突然の決闘に疲れはてた俺たちは、理事長に一言告げて先ほど荷物を置いた建物に戻った。
「さっきさ、さっさとこんな場所なんか捨てて、あの人にボクのところに来ないかって言われた」
「そうか」
ボソリと呟かれた俺は落ちついてその言葉を聞くことができた。多分、あいつらがいたら、落ちついてなんていられなかっただろう。
やっぱり面倒くさいやつらだなぁ、あいつらは。櫻にこんな置き土産なんかしやがって。
「でも、私には総花がいる。総花のおかげでいろいろ乗り越えられた。多分、ううん、絶対に総花がそばにいてくれないと私は生活できない」
「……――そうか」
そういえばどうやらすでに
「お前の両親のこと」
「うん? ああ。私は大丈夫」
どうやらあの男、三苺苺はどでかい爆弾を落としていったのにもかかわらず、今はシャキッとしてる櫻。ますます目を離せない。
これだからコイツから離れられねぇんだよ。
だれか、コイツに寄りそえる人を早く見つけねぇとな。
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