第8話 正体不明
翌日、授業前にいつも通り朝練をしてから教室に向かうとすでに櫻がいた。いつもは職員室に教室のカギを取りにいくのだが、今日はもうすでにカギがなく、誰が最初に来たのだろうかと思ったが、櫻だったようだ。昨日もそうだったのだが、朝が弱いはずなのに珍しい。なにがあったんだろうか。
よくみると今日は眼鏡をかけているのだが、おかしなことになぜか椅子の上で正座をしている。
「おはよう、ソウ」
俺の気配に気づいたのかこちらを振りむかずに声をかけてきた。
「ああ、はよ」
なんの意図なのだろうか、なにかひっかけなんじゃないかと内心、びくびくしながら応えると上目遣いでこちらを睨んできた。えーっと、昨日しでかしたことといえば、勝手に笹木野さんとの約束を取り付けたくらいかな。あとは結局、お前の思い通りの図にならなかったことぐらいか? あれ、でもあれってお前も分かりきっていたことだよな?
「ねえ、ソウ。私
うーん。謝っていないことかぁ。そうなるとやっぱり、笹木野さ――
「私のパンツのこと」
そっちかぁ……――っていうか、覚えていたのか。うん、たしかにあのあと謝罪するのを忘れてたからな。
「すまない」
さすがに悪いと思ってたので、素直に頭を下げ、謝罪した。一発くらい叩かれるかと思ったが、別にいいよとすぐに許してくれた。
「それよりもさ、なんだか見張られてる気がするんだけど、気のせいかなぁ?」
コイツが見張られてるってどういうことだ。いや、意味自体はわかるんだけど、見張ってる奴をすぐにとっちめることなんて簡単だろうが。
「いや、わからないな」
だけどもコイツがそう言うならば、間違いないだろう。
「ところで、笹木野さんと今度、会うことになった」
「そう。いってらっしゃい」
「うん――ってお前も行くんだぞ?」
いってらっしゃいと言われてうかつにも頷いてしまったが、櫻もと言われている。置いていくわけにはいかないだろう。
「えぇーっ」
ちぇと舌をだす櫻。まだそのあたりは子どものときからの癖が抜けきれてないなぁ。
「あの人苦手なんだよなぁ」
そうだった。コイツ、笹木野さんのことがすっごい苦手なんだよね。それはそうと思いだしたことがあった。
「なぁ櫻。ひとつ聞いていいか?」
するとなぁに? と首を傾げる。なんだろうか、この小動物的なのは。
「身長百四十センチほど、華奢、濃い目のメイクだが切れ長の瞳、フリルの付いたスカートが似合いそうな三苺家もしくは紫条のオンナを知ってるか? 多分、年齢は
昨晩見た女の特徴をつらつら並べていくとうーんと首を傾げた。三苺家と断定したのは木刀の持ちかた。木刀を持ち慣れていない持ちかたで、それも近接戦闘が得意な家柄というわけでもなさげだった。
「私の知ってる限りではいないなぁ。あのあとに会ったの?」
くるりと首を回して考えた櫻だけど、ソウがそう言うんなら気のせいじゃあないかと苦笑してる。
「ああ。ちょっと体ならしに屋内練習場に向かうときな。まあ、俺の気のせいかもしれん」
櫻はああ言ったが、間違うときだってある。
「とりあえず、何事もなければいいね」
「だな」
正体がわからなかったものの、何事もなければいい。そう俺らは願うことにした。
数週間後の実技中に左腕にうっかり切り傷を作ってしまった俺は久しぶりに保健室にお世話になっていた。
「ねぇ、総花くん。なにか隠しごとしてない? ここのところなんだか様子がおかしいんだけど」
甘えた声を出すのはあの茜さん。
「そうですね、してるかもしれませんね」
冗談まじりでそう返すが、彼女は取りあわずに真剣に答えて頂戴と反対に問いただされた。
「ええ。脅迫状が届いてるんです」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます