第65話ダンジョンコア6
ダンジョンコアから声が聞こえてくる、それも頭の中へ直接、コアの声だということがわかってしまう。
男の様な女の様な性別も年齢もわからない不思議な声。
「俺はナイン、お前はダンジョンコアでいいんだよな?」
「我はダンジョンコアとお前たちが呼んでいる物だ」
やはりか、ダンジョンコアには意識の様なものがあると考えられていたが、ここまでハッキリと意思の疎通が出来るとは思わなかった。
「ダンジョンコア、長いからコアと呼ぶけど、コアは何でここにいる?」
「我はここでマスターの命に従い、ダンジョンを作っているだけだ」
「マスターとは旧リースフィア王のことか?」
「マスターはシュベルト・リースフィアだ」
シュベルトはダンジョンコアを手に入れた旧王のことだな、間違いなくこのダンジョンコアはリースフィアに繁栄をもたらしたものだ。
「ダンジョンを作っているとはどういうことだ?ダンジョンはどこにある?」
「異なことを言う。ここがダンジョンだ、ダンジョンはこの国の領土全て」
そういうことか・・・旧リースフィア王、めんどいからシュベルトにするか、はこの国の領土全てをダンジョンにすることで豊穣をもたらした。
ダンジョンの中は俺はまだ見たことないが草原が広がっていたり、太陽があったりいろいろなものがあると聞く、そういう機能を使って資源が枯渇せず、土地も枯れない領土を作ったのか。
「あの結界はコアが張ったのか?」
「そうだ、マスターから誰も入れない結界を張れと命令された・・・だがナインは入ってきた、お前は何なのだ?マスターですらここまで私と会話することはできなかった」
「何者って言われてもな・・・ただの冒険者だ。それに何で俺がコアと意思疎通ができるのかは俺にもわからないよ」
う~ん、さてどうするかな、接触はできたしもうこれでいいんじゃなかろうか?
「じゃあ俺はもう行くよ。お仕事頑張って。」
俺はコアから離れようとするとコアが止めてくる。
「まて、ナインはそれでいいのか?我を手にすれば力が手に入るのだぞ。マスターが亡くなっているのは我もわかっている。次のマスターはナインがなれるのだぞ」
「え?どうしようかな、ダンジョンコアって個人が持つことは世界中で禁止されているから、見つかるとまずいんだよね。それにたいして何かしたいってわけでもないし。」
マスターか・・・これはよくあるダンジョンマスターフラグですかな?
でもダンジョンマスターになったからと言ってダンジョン経営しようとは思わないんだよな。
いや待てよ、ダンジョンを運営して何かの異世界ものみたいに女冒険者や女騎士を捕まえて、あ〜んなことやこ〜んなこととか・・・いやないな。
ダンジョンマスターの誘惑にダンジョンマスター物のテンプレを色々考えてみる。
「なら知識はどうだ?我の知識は世界の知識であると言える。」
知識か、それはちょっと欲しいかも。
「マスターになると、何か制限とか受けるのか?俺の知っているのだと、ダンジョンから出られなくなるとか、ダンジョンコアが破壊されると死ぬとかあるんだけど」
「いや、それはない。我を自由に使う権利、ダンジョンを作る義務のみだ」
俺は義務について詳しく聞いてみたが、特に大したことじゃなかった。
シュベルトが行ったように、どこかに設置してダンジョンを作る、ただそれだけだそうだ。
一度マスターに登録されると、マスターが生きている限りは別の人物が触れても何も起こらないらしい。
でもここから持っていくと、この国の資源はゆっくりとだが枯渇していき元の環境に戻る、かと言ってマスターになったのにここに置いていくのも意味がない。
マスターが死んでも他の誰かがマスターにならない限りはダンジョンコアは命令されたことをずっと行い続ける。
シュベルト王が死んでもダンジョンコアがリースフィア王国を潤し、誰にも触れられないように部屋に結界を貼り続けていたのはこれが原因だろう。
ちなみにマスターにならないのなら世界の知識とやらは教えてくれないそうだ。
どうしようかな・・・まあいっか、ダンジョンコアが持ってけって言っているし、持っていっちゃうか。
「よし、じゃあ俺がマスターになるから後でちゃんと知識をくれよ。」
「では我に手を触れろ。」
俺はダンジョンコアに手を触れる、するとまた、何かが繋がっているような感覚に陥る、ちょっと気持ち悪い・・・。
ダンジョンコアが光だす、その光が触っている手を通して俺の身体に広がっていく。
ふっと光が消えると、リースフィア王国中にパリンとガラスの割れるような音が響き渡った。
「・・・」
「・・・」
「おい、この音まずいんじゃないか?現状を確認するぞ。ここはリースフィア王国の地下で、俺は侵入者でダンジョンコアを今から持ち去ろうとしている、所謂、客観的に見ると賊に見えるだろう、いや賊だな。それでだ、国中に変な音がなったのはコアを通して俺にもわかった。そうなるとどうなる?」
「この音の原因を突き止めるためにみんな起きる。だが仕方ない、この音は必然だ」
「そして今日はダンジョンコアのお披露目で、おまけに襲撃もあった。」
「ならばすぐにここに現在の王が来るであろう」
まずいまずい、俺はコアをアイテムボックスにぶち込むと急いで地下を抜けるために走り出す。
部屋の扉の結界はもう消えており、全速力で地下への出入り口へ向かっていく。
索敵を使うと・・・ここで一番関わってはいけない自由の翼が動きだしていることがわかる。
今のところは、城の上の方にある古城迷宮のダンジョンコアの場所に集まっている。
よし、最優先はあっちのダンジョンコアだよな。
地下から出ると、俺は昼間露店で買っておいた安物の女性用の香水を二本地下に放り込む。
「ストーンバレット」
落ちた香水の瓶を魔法で破壊して匂いを撒き散らし、扉を閉める。
これはもしものための獣人対策だ、強い匂いをぶっこんでおけば少しの間は追跡能力を誤魔化すことができるかもしれない、知らんけど。
倉庫から俺が飛び出すと、気配のいくつかがここに向かってきているのを感知する。
これは王とその護衛と自由の翼の面々だろう、まずはここから離れることを考えよう。
「リジェクト・ケージ」
倉庫の出入り口に結界を貼る、これで少しでも倉庫の中を警戒してくれれば良いのだけど。
念のためアイテムボックスから仮面を取りだして被って正体を隠す、見つかってしまうと確実に全世界に指名手配されて人生が詰んでしまう。
俺はダンジョンの最奥でダンジョンマスターとして魔物と一緒に一生を過ごすのなんて御免だ。
俺は自由の翼が来る方向から離れるように逆方向へ走り出す。
いいぞ、警備もこの倉庫に集まってくるのは王と共にいる奴らだけだ。
他の警備はここの倉庫の重要度が低いと考えられているみたいで、ここに集まる様な指示は受けてないのだろう、逆に離れて行っている。
王城の出入り口はすぐに固められてしまうから、早めに抜け出したい。
俺は気配を探りながら、逆に走っていく警備兵達に見られないように距離をとってついて行く。
俺が城門についた時には周囲は明かりで照らされ、警備が固められて城門を出ることも、こっそり城壁を登ることも難しい状態だった。
俺は近くにある建物の影に隠れると、どうしたものかと考える。
魔法で城壁を吹っ飛ばして強引に脱出するか?それともどこかに潜んで一日、もしくは数日様子を見るか?
城壁を吹っ飛ばすにはヴェリアス・レイを使った魔王城の壁に穴を開けた方法を使うしかない、六色魔法陣はあの時のまま弄ってないので使えるだろう。
威力が強いから斜め上に撃てば町に被害はないだろう、だが確実に追っ手が来るんだよな。
たぶんどの国にもいるだろうと思われる国の子飼いの優秀な奴らが。
ツリーベル城の脱出と違って時間が経ち過ぎているから上手く逃げ切れるかわからない。
なら数日潜伏する?
これはもっとキツいかもしれない、自由の翼のポレルが優秀なのは有名だ。
期間が長ければ長いほど見つかる可能性が高くなるだろう、見つかってしまったら詰みだ。
腕輪を二つ外して殺す気で戦わなければ自由の翼の四人を相手にするのは難しいかもしれん。
それに今の俺は多分ほとんどまともに戦える時間は少ないだろう、仮に勝ってもそこからが保たない。
よし、強引に行こう。
俺は人のいない所を確認するとギリギリまで城壁に近づく、そして五式の指輪に魔力を通す。
「ヴェリアス・レイ」
六色魔法陣が形成され、六色の魔法が混じり合って一つの光となり、一瞬で城壁を貫通すると光が空に向かって伸び、光が消える。
ちゃんと見てみると、これビームだな、ガ○ダムで出てくる高出力の太いビームにしか見えない。
同時に俺は走り出す、警備の兵は崩れ落ちる城壁の一部を見て呆然としている、今のうちだ。
俺は城壁が崩れ落ちた部分の土煙を突っ切って思いっきりジャンプする。
堀を飛び越えて着地すると同時に真後ろに魔法を放つ。
「エアロ・ボム」
俺に気がついて追ってこようとした追っ手が魔法に当たって吹っ飛ばされ堀に落ちていく。
よし後はどこかに隠れちゃえばいいだろう。
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