第43話王都動乱12
俺は警戒を解かないまま黒フードに近づいていき宣言する。
「俺はお前の生き死にに興味がない。だから武装解除をしてこちらに従うならポーションを渡す。ちょっとでも反抗的な雰囲気を感じたら即殺す。」
黒フードに警告をするが黒フードは動かない。
ダメかな、貴族街で怪しい姿で俺に斬りかかってきたんだ、正当防衛ということで死んでもらったほうが良いかもしれない。
まあ先に魔法で後ろから撃ったのは俺だし、同じような怪しい姿をしてるのも俺なんだが、そこは勝者の権利ということで。
俺の雰囲気が変わったのを感じ取ったのか黒フードが慌てたように口を開く。
「わかった。従うから命だけは助けてくれ」
そういうとゆっくりと武装を解除していく、声からすると男かこの前の黒フードと同じ人かな。
俺がやっておいてなんだが腕の傷で手が動かしにくいのか本当にゆっくりと、外套、仮面、武器を外していく。
よくあるパターンだと、ここで油断した俺に襲い掛かってくるなり、隠していた飛び道具で攻撃してきたりするものだが・・・何もしないのか?
俺の期待を裏切るように着々と装備を外し腰のアイテムボックスも外してちょっと顔つきの悪い程度の平民みたいな男になる。
「さて、質問です。お前、いやお前の主人の目的は何?お前はこれからどうするつもりだった?ちなみにある程度見てたから嘘をついた時点で信用できないとして殺します、嘘はついてないけど言わないだけだからセーフとかも腹立つので殺します。」
俺の言葉に顔を引きつらせると黒フードは渋々答えていく。
「目的は、セリス・ツリーベルの事故死に見せかけた暗殺と、それによる戦争の回避。俺は今からサンターナ侯爵の所へ行く・・・ああ、いや、手紙を届けに行く所だった。手紙の内容は知らない、本当だ。」
・・・は?セリス・ツリーベル?ツリーベルって言ったら王族の家名だろ、貴族だとは思っていたがまさか王族か?
だから王の温情で生かされているって、俺も少しは王族を知っているはずだがセリスの名前を知らなかったのは何故だ?
「セリスについて知っていることを話せ。そしてなぜ、暗殺が戦争回避につながる?」
俺は動揺を隠し、隠せているかわからないがせっかく手に入れた情報源だ、存分に喋ってもらおう。
「セリスの魔眼は制御できないのは知っているよな?元の魔力もあってその力は絶大だ。王都の一部を破壊したことによって貴族連中に脅威とみなされた。だが、平民との子供であっても王の子だ。当時は魔眼の封印と家名のはく奪で事は済んだ。」
平民との子供だったのか、話からすると当時は家名があったみたいだから、平民との子供と言ってもそれなりの待遇だったのだろう。
平民との子供なら俺が知らなくても納得だ。
「だがアース大陸同盟が魔王軍に敗北し勇者が死んだことで風向きが変わってきた。いつ召喚できるかわからない勇者に頼るよりも、使える戦力を使おうという意見が出てきた。初めは小さい声だった。聖教国と帝国が主導のアース大陸同盟と勇者ですら勝てない魔族に、攻め込まれているわけでもないのにこちらから攻め入るのは無謀であると結論付けられそこで止まってたんだ」
だろうな、あれで勝てないんだから可能性はかなり低いし、参加した国は国力が落ちているはずだ。
大きいところが軒並み参加していたおかげで、人族同士の戦争にもなっていないある程度落ち着いている。
「そこに貴族の粛清が起きた。ここで今まで止められていた主戦派の貴族が息を吹き返してきた。中立だった貴族、主にセリスを危険視していた貴族をとりこんで、王城内の権力争いに食い込んできた、セリスの軍事利用を掲げてな、制御できようができなかろうが魔族領に放り込んでしまえばいい。今の流れは主戦派だ。たぶんそれで決着がつくと予想されている、だから・・・」
「セリスが軍事利用されるのは確定しているから今のうちに殺しておこう、ということか。」
「そうだ、国力が落ちている中で自分の利益しか考えてない主戦派連中が台頭してきた。国力を回復させるのが最優先とする保守派は魔族と戦争なんてしたくない、セリスがいなくなれば主戦派が掲げている使える戦力がなくなり、セリスを危険視する貴族も抑えられる。要は権力争いの駒としてセリスは使われている。」
なんてことだ・・・。
セリスを暗殺したいのは権力争いで劣勢の保守派、セリスを殺すことによって主戦派の結束を崩し、戦争につなげる理由を断ち切る。
主戦派は王城内での権力が欲しい貴族と、セリスを危険視し魔族との戦争で使い潰そうと考えている貴族ということか。
「今までは王の威光が強かったからセリスは無事だったが、ここ最近では権力争いで外に目が向いていない。今のうちにセリスを始末することで権力争いに主戦派が勝ったとしても、すぐに瓦解すると踏んでいる。だが、セリスが生き残っていれば、権力争いが終わると同時に主戦派にとりこまれ、暗殺は容易にできなくなるし、国が戦争に傾いてしまう。」
「王の力で止めることはできないのか?」
「いくら王であろうとも、多くの貴族が戦争に賛成したらそれを止めることはできないという考えだ。もうこの流れは止められない。セリスに待っているのは、すぐ死ぬか、少し猶予ができるが戦争で死ぬかの二択だ。」
最悪だ・・・たとえこの一カ月間生き延びることができたとしてもセリスは戦争の道具として使われてしまう、あの敗戦を知っていてそれでも戦争をしようと思わせるほどの強力な魔眼なのか・・・。
そこまで行ったら俺の介入できる余地はない。
俺のできること?暗殺しようとしている保守派を殺す?これは違う、これをするとセリスが戦争に利用される。
じゃあ主戦派を殺す?これも難しい。
やってやれないこともなさそうだが、現時点で国力は下がっていてさらに貴族も数を減らしている、数人程度じゃすまなくなる。
期間が足りないしできたとしても国自体が機能を停止する恐れがある。
訓練で魔眼の制御を上げさせる?できたとしても逆に制御できるなら、戦争のいい口実だ。
「知っていることは話した。俺はもうここにいようとは思わない。これが終われば逃げる予定だったしな。今すぐ国を出る」
俺はポーションを黒フードに投げて渡すと黒フードの所持品から手紙だけ回収する。
「そういえば何故今までたいした行動に出なかった?やろうと思えばできたはずだ。」
そこまでセリスが邪魔なら俺が来る前にちょっと強引にでも殺してしまえばよかったんだと思うが。
「ああそれか。キアリスってメイドがいるだろ?あれが監視してるからな。あれも俺らの同業だ。それに貴族同士の監視の目もある。学園も簡単に入れるところじゃなく時間が掛かった」
キアリスさんが護衛していたからか、俺が考えていると黒フードは装備を整える。
「約束だ。俺を追ってくるなよ。俺も二度とここには近づかない」
そう言うと黒フードは俺を警戒しながら走り去っていく。
ある程度索敵で気配を追っていたが町の外へ向かっていくようだ、もう黒フードはいいだろう。
広い暗い公園に残された俺は周りを見渡す。
木があり、ベンチがあり、所々に花壇があるが、俺のいるところは木々の近くにある運動スペースみたいなところだ。
「さて、そこでさっきから見ていたあなたは誰ですか?」
俺は一つの木に向かって声をかける、黒フードとの戦闘中に隠れるように近づいてくる気配を感知していた。
初めは黒フードの仲間かと思って警戒していたのだが何もせず隠れていたので放置していたのだ。
だが黒フードが去って行った今はそのままにするのはちょっと怖いし、情報源その二として使わせてもらおう。
木の影から人が出てくる。
「久しぶりですね、ナイン様。まさかここでお会いするとは思いませんでした。」
金髪、金目、髪をアップにしていて、黒い服に身を包んでいる。
そこには魔王城でリルの専属メイドをしているはずの、サキュバス種のエヴァさんがいた!
何で王都にエヴァさんがいるの!?
「エヴァさん!?何故ここに?」
「ちょっと用がありまして、ナイン様は何故ここにいるのですか?」
エヴァさんはリル専属のメイドのはずだ、ここにいると言うことはサキュバス隊、魔王軍第三部隊の任務に関わっているのか?
ものすごく嫌な感じがする。
「俺は依頼で王都にいるんですが・・・先ほどの話を聞いていたなら、想像はできていると思いますけど」
俺とエヴァさんは沈黙する。
エヴァさんはため息を吐くと一言。
「ナイン様、何も聞かずに手を引いてください。」
やはり・・・この件に関わっているのか、嫌な予感が当たってしまった、だが何故魔族がここで出てくる?
俺に手を引けってことはセリスに関わっている、魔眼、戦争。
「まさか魔族も戦争回避のためにセリスを狙っているのですか?」
エヴァさんは俺を見つめたまま答えてくれない。
これは本格的にまずいかも知れない。
だが俺はこの件から手を引くつもりはさらさらない。
そうなると・・・場合によってはエヴァさんと魔王様と敵対することになる。
「俺はこの件から手を引くつもりはありません。」
俺はきっぱりとこの件から手を引かないとエヴァさんに宣言する、
ハッキリ言って虚勢だ、正直ビビっている。
でもこれは引けない、十二歳の少女が必死になって掴んだ一握りの希望がナインという、俺という人物だ。
ここで手を引くということは、セリスを見捨てるということだ。
黒フードが言っていたすぐ死ぬか、少し生きながらえて戦争に利用されるか、そんなのどっちも俺には許容できない、子供にそんな選択しか残されていないなんてのは大人の勝手な言い分だ。
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