第39話王都動乱8

 次の日になって、俺はセリスと一緒に馬車に乗ってツリーベル学園に向かう。


 俺は念のため馬車に揺られつつ索敵で周囲の警戒を行うが、貴族街を出ると人が多すぎて怪しいも何もわからない。


 貴族街を出て馬車に揺られること十分程度で大きな門がある学園につく。


 門の前には多くの馬車が止まっていて、そこから生徒だと思われる子供たちが降りてきた。


 馬車から降りてくるのが貴族、歩いて登校してくるのが平民てことで間違いなさそうだ。


 貴族の子供の側には立派な鎧を着た護衛、皮鎧を着た冒険者風の護衛と思われる人が付き添っている人もいる。


 その人達が俺と立場が同じナイフ持ちなんだろう。


 俺みたいにスーツ的なの着ている人なんかいないんだが・・・これはどういうことだ?


 俺たちの乗った馬車が前の馬車に続いて止まると俺たちは馬車を降りる。


「なあセリス。護衛でスーツ着ている人なんて見た感じいないんだけど、俺はスーツじゃなきゃダメなの?」


「あれは貴族の見栄というやつです。護衛がみっともない姿じゃ恥ですからね。護衛には見栄えの良い物を与えるのです。ナインにはサイズがありませんし、初心者Aセットでしたっけ?あれはちょっと護衛として舐められてしまいます。それにスーツを着崩した今のナインも、休日の騎士って感じでかっこいいですよ」


 にっこり笑って言われても・・・休日の騎士じゃダメなんじゃないのか?


 まあ今さら言っても着替えるのは難しいので俺達は学園の門を潜り道を進んでいく。


 綺麗だな、白い校舎で、今俺たちが歩いている道は石畳で周りには花々が咲いている花壇がある。


 観光地の庭園に足を踏み入れたんじゃないかと錯覚するほどだ。


 そういえば確か貴族の長男以外が通う学園って事だからセリスも剣術の授業もやるのだろうか?魔法は高威力のものが飛んできたって言ってたからあるんだろうけど、騎士になるための授業とか。


「ここではどんな事を勉強するんだ?貴族社会のルールなどはわかるけど、武器の扱いとかも習ったりするの?」


 庭園とも言える校舎への通路を通りながらセリスに聞いてみる。


「一般教養と武器、魔法の実技は必須になっています。と言っても、実技は素質の問題もありますので触りだけでできなくても問題ありません。さらに学びたい人のみ、選択で専門の講義を行います。」


 魔法が苦手な人もいるだろうし、貴族の女性は武器なんて持つことは少ないもんな。


 本当に知識だけあれば良いって感じか、すっごい暇そうな感じがしてきたぞ。


 少し歩くと校舎の中に入る、その間・・・かなり注目されているというか、そこら中から見られているな。


 着崩したスーツに片手剣を腰に挿した、自分たちよりも年下の不思議な人物が歩いているからな。


 護衛には見えないし、生徒じゃない、あれ?俺ってかなり変なヤツだと思われてるかも。


 注目はされるが誰も話しかけてはこない、そんな状況でセリスと俺は学園長室の前にたどり着いた。


 コンコンコン


「セリスです。護衛を連れてきたので登録と紹介をいたします」


「入ってくれ」


 俺とセリスは学長室に入ると、そこは執務室のようになっており小柄な老人が座っていた。


「おはようございます、学園長。私の護衛として登録するEランク冒険者のナインです」


「はじめまして、学園長。Eランク冒険者ナインです」


 俺は軽く挨拶をすると学園長と目が合う・・・うんわかってる、何で子供?って顔してる。


「ようこそナイン・・・それで、本当にいいのかね?君はまだうちの学生より若いように見えるが・・・Eランク冒険者なのかね?」


 学園長は遠慮がちにちょっと戸惑ったように確認してくる。


「ナインは立派なEランク冒険者です。年は若いですが能力に疑問の余地はありません」


 セリスがそう言うも納得していなさそうなのは見てればわかる、子供がEランクだの護衛だの言ってるからな。


「まあいいでしょう。ではここに署名を」


 俺は学園長が出してきた書類を一通り読むとサインする。


 内容としては、風紀を乱ださないように、授業の邪魔をしない、学園の生徒と問題を起こさないなど普通のことが書かれていた。


「一つお聞きしたいのですが、俺はまあ見ての通りこの年で冒険者で護衛です。年齢で侮られて絡まれるということも多々あります。そういう場合は、学生であっても冒険者の流儀に沿ってボコボコにしてもいいのでしょうか?俺の仕事は護衛なので、侮られてちょっかい掛けられると非常に困りますし。」


 学園長は渋い顔をする。


「今までは・・・そんなことはなかったが、もしかしたらそういうこともあるかもしれん。ほどほどに、ということでいいだろうか?」


「ほどほど、というのがよくわかりませんが、大怪我をさせない程度で無力化する、と考えていいのでしょうか?」


「なるべく怪我はさせないようにしてくれればいいだろう」


 なるべく、ね。


 これで絡んできたクソガキをボコボコにできる。


 ボディに数発入れれば黙らせられるだろう。


 俺は頷くと、セリスと一緒に学園長質を後にする。


 ここから俺はセリスと一緒に教室に向かう。


「ナイン。たぶん絡んでくる人間はほぼいないと思うわ。」


 廊下を歩いて教室に向かいながらセリスはこちらを見ずに言い放つ。


「まあ念のためにね。王都でも入った瞬間に変なのに絡まれたからさ。」


「その人はどうなったの?」


「たぶん治療院に行ったと思う。ギルドで決闘みたいな感じだったから、後のことはよく知らないんだ」


 そんな話をしていると教室に到着する。


 俺がちょっと緊張しているとセリスは扉をガラリと開けてスタスタ入っていく、急いで俺も中に入ると、一斉に視線がこっちに向いた。


 何だこの視線は、歓迎されていない感じがする・・・俺が、じゃなくてセリスの存在自体がって感じだが・・・魔眼は有名だって言ってたからな、そういうことなんだろう。


 こういう雰囲気は本気でイライラするな。


 教室は大学の階段型のような感じで、席も多くあるがそれほど広くはない。


 セリスは一番後ろの席に座り俺を手間抜きする。


「ナインも座っていいよ。席に余裕はあるから、ずっと立ってていざと言う時疲れちゃったじゃ護衛の意味ないしね」


 ありがたい、授業参観みたいな感じで一日中突っ立ってるのを覚悟してたが大丈夫そうだ。


 席に座ると周囲を見回してみた、学生がいて、壁際に数人大人が突っ立ってる。


 壁際に立っているのが武器も持っているし貴族の護衛ってことか。


 学生の数はそれほど多くない、パッと見た感じ二十人ぐらいか。


 程なくして白い髪の少女が教室に入ってきた、白髪、黒目、長い髪をそのまま流した美少女。


 彼女は俺の前を通る時にチラリとこちらを見る。


「おはようセリス。護衛を探すって言ってたけど、随分可愛い護衛ね」


「おはようシル。彼はナイン。こう見えてEランク冒険者よ。」


 途端にシルさんに睨まれる、何で睨むんですかね・・・。


「本当に?その年でEランク冒険者なの?」


「はじめまして。Eランク冒険者のナインです。」


 俺はギルドプレートをシルさんに見せる。


「プレートは本物だわ。そう、私はシルビア、Fランクよ。シルでいいわ」


 そう言うとシルも首からかけているギルドプレートを見せてくれる。


 ここにいるということはシルはセリスと同じ十二歳、見習いを卒業したてのFランクってことか。


 学生でも見習いや冒険者資格は取れるんだな。


 シルはセリスの横、俺とは反対の席に座るとセリスと話し始める。


 その間、俺は暇になったので周りの観察を再開する。


 セリスに寄ってくるのはシルだけか、これは魔眼が怖がられているのか、それとも何か事情があるのか。


 学生が全員で二十人、壁際に五人の護衛か、護衛を連れられるのは一人につき一人だけだから五人ほど身分が高い、もしくはそこそこ重要な貴族の子息がこの場にいるということか。


 俺が観察していると、扉をあけて男の教師が入ってきた。


 髪の毛は長髪で髪も目も茶色の一般的なこの学園の教師用のローブを着ている。


「それでは今日の授業を始めます。おや?見たことのない子がいますね」


 教師は俺の方を見ると、訝し気な顔をする。


 俺が何か言う前にセリスが答える。


「彼は今日から私の護衛で雇いました。Eランク冒険者です」


 セリスが答えたとたん教室がざわつく。


「あの子供がEランク?嘘だろ」


「見習いかと思ったけど・・・」


 学生は俺の方を見てこそこそ話をしだす、壁際の護衛たちは俺を厳しい表情で見る。


 完全に疑われてんな、このくだり何度も繰り返すの面倒だから誰かイチャモンつけて俺にボコボコにされに来てくれないかな。


 いい加減このやり取りにも飽きたよ。


 無意味に戦いたいとは思わないが、どうせ解決手段は戦うしかないということはもう学習済みだ。


 今の俺なら相性にもよるがBランクともやりあえると自負している。


 そこらの冒険者にゃ簡単には負けんよ。


「私は担任のロックです。そうですか、君が護衛ですか。その年でEランクとはかなり優秀ですね。うちの学生に欲しいぐらいですよ」


 煽りよる。


 ロック先生の言葉で何人かの学生が俺の方を睨んできた、さっそく目をつけられたかな。


「初めまして。Eランク冒険者のナインです。よろしくお願いします。」


 変な空気になった挨拶が終わると、教室の移動になる。


 今日の午前中の授業は体育館みたいなところでの魔力制御の訓練だ。


 必須科目ではやっても初級レベルの魔法まで、基本は魔力を制御する訓練に当てられる。


 これができないと根本的に魔法が使えないし、魔力を剣に通したり、スキルの身体強化の代わりに魔力で身体能力を上げたりすることができる。


 学生はいろいろなところに陣どって魔力制御の訓練を始めていく。


 ただ、ほとんどの生徒が真面目にやっていない・・・この訓練て重要ではあるのだが面白くないからな。


 真面目にやっているのはシルを含めた平民だと思われる子達だけだ、貴族と違って頑張って実力上げていかないと、就職先に困るからな。


「セリスはやらないの?」


 セリスは首を振ってつまらなさそうな顔をする。


「私はできないの。封じられてるから。」


 そうか、封魔の腕輪で魔力が全く使えないんだったな。


 ちょっとだけ協力するか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る