第29話仄暗い闇の中で8

 転移魔法陣が輝き辺りを明るく照らす、光が収まると俺の周りを数人のフルプレートの兵士さん達が武器を向けて囲んでいる。


 魔王城の地下の転移魔法陣を守っている魔族さん達だ。


「こんにちは。魔王様に会いにきました。」


 俺が挨拶をすると武器を下ろしてくれた。


 俺は魔法陣を降りると地下から上に向かって歩き出す、まずはリルのところに行くか。


 いきなり魔王様のところに行くのは失礼だと思うし、仕事中とかだったら迷惑になってしまうからな。


 廊下を歩きながらメイドのサキュバスさん達に会釈をしながら歩いていく。


 ここ最近は俺を見ても角とか尻尾を隠さなくなっている、もう大丈夫だと思われているんだろう。


 コンコンコン


 リルの部屋の着いてノックをするとエヴァさんが開けてくれた。


「こんにちは。リルに会いに来ました。」


「いらっしゃいませナイン様。どうぞお入りください。」


 エヴァさんが横にすっと道をあけて部屋に通してくれる。


「ナイン!やっと来てくれた。お母さまのご用は終わったの?」


 勉強中だったのかリルは椅子から立ち上がると嬉しそうに俺に駆けよると抱き着いてきた。


 そういえば魔王様に用を頼まれて急遽外出ってことにしてあったんだっけ。


「これから報告しに行くところ。先にリルに会いに来たよ。リルは元気にしてた?」


 そういうとリルは嬉しそうにニコニコしている。


「うん。ちゃんと勉強も頑張ってるんだから。」


 俺はリルに連れられてソファーに座るとエヴァさんがお茶を入れてくれた。


 リルがどれだけ勉強を頑張っているかを聞きながら、俺もゴブリン事件をリルに話してあげる。


 すると俺の話を聞いていたエヴァさんが眉を潜める。


「九万匹以上のゴブリンの巣穴ですか。そんなものが存在するのですね・・・一国の軍隊を超える数、地下にそれを維持できるような食料があるとは思えませんが」


 エヴァさんは顔に手を当てて不思議そうな顔をしている、やっぱりみんな思うことは同じだよな、どうやって九万匹ものゴブリンが暮らしていたのか。


「そうなんです。なので人が寄り付かない場所で繁殖して、そこと繋がってもいるんじゃないかと言われているけど、色々おかしなことだらけで、今は高ランクの冒険者が調査を開始したところなんです。」


「ナインは行かないの?」


 リルは不思議そうに何で俺が参加していないのか疑問に思っているようだ。


「俺は、そうだ、Eランクに上がったんだよ!だけどまだランクが低くて参加できないんだ。それに、そんなダンジョンでもない大きい洞窟なんて怖くてあまり行きたくないかな」


「そっか、なら行かないほうがいいよ。ナインが全部やらなきゃいけないことじゃないんだし。それにランクが上がったのなら今日はお祝いだね!」


 そうなんだよな、人工勇者として作られてイレギュラーと言われて、こう何でも俺が変な意味で特別みたいな感覚でいたけど世の中には上には上がいる。


 この世界には冒険者ランクってのがあり、それによってできることとできないことが決められている、単に強いからってだけじゃダメなのだ。


「入るぞ。」


 俺たちが話をしていると魔王様が入ってきた。


「ナインが来ていると聞いたのでな。どうだ?上手くやれたか?」


「ありがとうございました、魔王様。おかげで何とか間に合いました。そしてEランクに上がったので、報告とちょっとご相談が」


「ほう、もうEランクとは早いな。して相談とはなんだ?」


 魔王様は俺とリルのいるソファーの向かい側に座り、リラックスした体勢で聞いてくる。


 俺はゴブリンの巣の調査から立て続けに受けた緊急依頼の事を話した。


「Eランクに上がるのが早かったのはその為か。納得だな。そしてゴブリン九万匹か・・・」


 魔王さまは目をつぶると考えるように沈黙する。


 前にちょっと思ったことだが、何で魔王様は冒険者のことにそこまで詳しいんだ?町に行ってることは聞いてるし実際会っているけど。


「私が知る限りでは一例しかないが、魔窟かもしれんな」


 少しの沈黙ののち魔王様が魔窟という単語を出してくる・・・魔窟、初めて聞く言葉だな。


「魔窟とはなんですか?初めて聞きました。ダンジョンとは違うんですか?」


「ダンジョンのなり損ないと言われている。ダンジョンには最深部にダンジョンコアがあるのは知っているだろう?魔窟とはダンジョンコアがダンジョンを作る前に、何かしらの要因でダンジョンコアが失われ、だがダンジョンコアに集まっていた魔素がそこに留まり続けると稀にできると言われている」


「今回のゴブリンの増殖もそれだと?」


「あくまでも一例しか知らんのでなんとも言えんがな。その一例は、何を血迷ったか出来立てのダンジョンコアをオーガが食らってできたと言われている。オーガがそこに留まり、その洞窟が広がり人型の魔物が大量に生まれた。と記録に残っている」


 そんな事が・・・ゴブリンが大量に生まれたのはゴブリンがダンジョンコアを食った可能性がある、そうなると通常では考えられない数のゴブリンが洞窟に生息していたことのつじつまは合うか、ダンジョンコアがゴブリンを作っていた・・・。


「それは・・・討伐しないとまたゴブリンが大量に増えるってことですよね?」


「そうなるな。繁殖スピードはわからんが、討伐しないと同じことの繰り返しになるだろう。ダンジョンコアの能力の一部をゴブリンが使っているようなものだ。」


 ダンジョンコアもただ食っただけではどうにもならないはずだ、ただの異物、それだけだ。


 本来のダンジョンコアはゴブリンや人が食えるような大きさではないが、完全にコアが生成されていない出来立ては小さいのかな。


「今は高ランクの冒険者が洞窟のマッピングと調査をしています。コアを食ったゴブリンは他に変化はありますか?」


「多少強化されるはずだ。だが、ゴブリンはゴブリンだ。高ランクの冒険者なら問題あるまい。九万ものゴブリンを討伐した後だ、中にどれだけ残っているかわからんがCランク冒険者が複数いれば問題あるまい」


 魔王様はやっぱ冒険者に詳しいな、強さもある程度把握しているみたいだ、ギルドの調査でもしていたのだろうか?


「魔王様は冒険者に詳しいですよね?なぜそれほどまでに詳しいんですか?」


「言わなかったか?私はBランクの冒険者資格を持っているのだぞ」


 えっ?遊びに行くって冒険者やってたの?そう言われるとこの前森で拾ってもらった時に冒険者風の皮鎧着てたな、しかも地味にランクが高い。


 俺が呆気に取られていると。


「昔、遊びに行った時に変なのに絡まれてな。しつこいからボコボコにしてやったんだ。それが冒険者でな。そこから絡んでくる連中を一通りボコボコにして黙らせたら見ていたギルド関係者からスカウトされたということだ。遊びに行くにも金が必要だろう?」


 そんな事があったんだな・・・いや確かに魔王様は綺麗だから歩いてれば男が放っておかないだろう、通りで詳しいはずだ。


「そうだったんですね。通りで詳しいはずです。もしかして、魔王様と一緒なら俺も魔窟入れたりしませんか?」


「いや特例でもない限り無理だろう。今はギルドの管理下に置かれているはずだ。ただダンジョンコアのなり損ないが手に入ると知れば、各国が動き出す可能性もある。軽々と喋るなよ」


 ダンジョンコアのなり損ないか・・・確かどこかの国が多大な犠牲の上でダンジョンを攻略して、ダンジョンコアを手に入れて国に恵みをもたらせたって話があったな。


 それを特定の国に渡してしまっていいのだろうか、俺が介入する問題じゃないのはわかっているが、もしこの情報を知っているものがいたなら、確実に動きだすだろう。


 特に帝国には渡したくないな。


 そうだ・・・人工勇者計画は終わっていない。


 試験体が全滅したからって終わらないんだ。


 セバンスさんがそうであったように・・・ダンジョンコアが利用されることだってありえるのだ。


「そのコアは手に入れたとして、壊すことってできるのですか?」


「ダンジョンコアを壊すか・・・事例がないからわからんが、できなくはないだろうとは思っている。・・・行くのか?ナイン。」


 魔王様の言葉にうなずく。


 魔王様は時空魔法で『ストレージ』の魔法を使う。


 アイテムボックスの元となった魔法だ、その中から一つの布にくるまれたアイテムをとりだす。


 布をとると中から透明なガラス球に似たものが出てきた。


「これはダンジョンコアを模して作られた失敗作でな。この宝珠の中に大量の魔素を貯めこむことができるようになっている。ダンジョンコアには意思があると言われているからな、ゴブリンが吸収したことで変化が起こっていると考えられる。ゴブリンを倒したらこれでダンジョンコアの魔素を吸収して無効化したほうがいい。」


 この中にダンジョンコアが溜めこんだ魔素を移し替えるってことだな。


 外に出しておくと勝手に空気中から魔素を吸ってしまうから普段はこの布を巻いて吸収できないようにしている。


 ダンジョンコアには意思があるとされている。


 ダンジョンを広くし、魔物を生みだし、落ちている武器防具アイテムをダンジョン内で吸収し新たな物として生み出す。


「無理をするんじゃないぞ。お前がやらなくても誰も文句は言わん。私はお前が首を突っ込む必要はないと思っている。せめて身体が完治するまではな」


 魔王様が真剣な目で俺を見つめる。


「ナインもう行っちゃうの?」


 リルは俺と魔王様を見ながら、危険なことに俺が首を突っ込もうとしているのを察したのだろう、手を握って心配してくれる。


 魔王様とリルも心配してくれてるんだな。


「手遅れになるといけないからね。誰かが手に入れる前にどうにかしちゃいたいんだ」


 俺はリルの手を離し頭を優しく撫でてあげる、リルは嬉しそうな顔をするがちょっと笑顔がぎこちない。


 俺は魔王様から宝珠を受け取るとアイテムボックスにしまう。


 自分が何でもできるとは思っていないけど、戦争の芽になりそうなものがあるならできる範囲で摘み取っておきたい。


 もうあんな欲にまみれただけの戦争なんてコリゴリだ、それが人族同士だろうと異種族間であろうとも。


 結局死ぬのは前線に出てる兵士や冒険者だからな、普段から良いもの食っている貴族が最前線で戦えばいいのに。


「またすぐに遊びにくるよ。」


 俺はそう言ってリルの部屋を出て行った。


 さて、魔窟に行くのはいいがゴブリンが九万匹もいた大洞窟だからな、地図を手に入れないと目標を達成するどころか最悪遭難して帰ってこれない。


 マッピングしてるからギルドマスターの部屋にでも忍び込めば纏めた物が手に入るかな?


 俺は地下から転移魔法陣で魔王城を後にした。

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