第545話 情報を求めて一番人気のお店へ
それからシドたちは烈火の如く感情を激しく高ぶらせながらも、馬を気遣いながらできるだけ急いでルストの街へと入った。
無数の石を組んで築かれた呆れるほどに大きな城壁を超えて街の中に入ると、そこには見渡す限り石で造られた建物が並んでいた。
門番にオルテアに薦められた宿の場所を聞き、無事にチェックインして身軽になったシドたちは、陽が傾きはじめたルストの街へと浩一たちを捜索するために出た。
先ずは人の多い場所に行こうというシドの提案に従い、目抜き通りへと出たところでソラが忙しなく首を動かしながら呟く。
「す、凄い人ですね」
「そうだな。グランドの街の夕暮れ時も人が多いと思ったが、ここはその比じゃないな」
ソラの呟きに呆れるように周囲を見るシドの目に映るのは、通りの向こうまで続く人、人、人の波だった。
着ている服も違えば、肌の色も違う。さらには人、獣人、背中に羽根の生えた有翼人や、どっしりとした体形のドワーフと思われる人物、さらにはシドの全く知らない、初めて見る名前も知らない種族もいた。
きっと浩一がいたら、目を輝かせながら喜ぶんだろうな。そんなことを思いながら、シドは隣に立つおしゃれ着のロキに尋ねる。
「どうだ。コーイチとミーファの匂いはわかるか?」
「わふっ!」
シドの質問に、ロキは元気よく応えながら鼻を天に掲げ、スンスン、と周囲の匂いを嗅ぐ。
人の何倍もの嗅覚を持つロキの鼻ならば、これだけ多くの人がいても特定の人物の匂いを嗅ぎ分けられるかもしれない。
そう思われたが、
「…………キューン」
流石に無理があったのか、ロキは肩を落として切なそうに鳴く。
「そうか、ロキの鼻でも無理か」
こうなることを予想していたシドは、申し訳なさそうに項垂れるロキを慰めるように、頭を優しく撫でながらうどんを抱くソラに尋ねる。
「いきなり手がかりが無くなったわけだが……これからどうする?」
「そうですね。やはりここは冒険者の基本に立ち返ってみてはどうでしょう?」
「冒険者の基本だ?」
「ええ、つまり……」
ソラは手を上げると、多くの人々が吸い込まれるように入って行くジョッキの形をした看板が掲げられている建物を指差す。
「情報収集といえば酒場と相場が決まっています。あそこなら、もしかしたらコーイチさんたちを見た人がいるかもしれませんよ」
「あたしはああいう場所はあまり好きじゃないんだが……まあ背に腹は代えられないな」
シドは頭をガリガリと掻きながら渋々頷くと、落ち込んでいるロキを励ますようにポンポンと頭を叩きながら笑いかける。
「せっかくだから、情報を集めるついでに腹一杯食べよう。ロキも、今日はたらふく肉を食っていいぞ」
「わふっ?」
「まあ、明日から頑張ってもらわなきゃならないからな」
「……わんわん!」
シドの言葉にロキは「任せて!」と謂わんばかりに元気よく応えると、早く行こうとシドの背中をぐいぐいと押し出す。
「……やれやれ、現金なことだ」
ロキの変わり身の早さに呆れながらも、シドは隣に浩一がいないことに一抹の寂しさを覚える。
――全く、あたしをこんな気持ちにさせるなんて……コーイチの奴、本当に何処にいっちまったんだよ。
「……姉さん?」
「ん? ああいや、何でもない。早く行こうか」
不思議そうな顔をするソラに、何でもないと笑いかけたシドは、仕事終わりと思われる男たちが次々と吸い込まれる建物へと向かっていった。
「いらっしゃいませ」
酒場と思われる建物の入口に向かうと、地肌にエプロン姿という直視するのも憚れる格好をした女性が出迎えてくれた。
「ようこそラドロ様のお店へ。初めてですか?」
「あ、ああ……初めてだけど、あんたどうして裸なんだ?」
「えっ? いやだお客さん、私、まだ裸になんかなってませんよ」
受付の女性はいたずらっぽく舌を出すと、その場でくるりと回ってシドに背中を向ける。
「ほら、ちゃんと中に着てますよ」
そういう女性の背中には、確かに胸部と下半身を隠すような下着、もしくは水着と思われる布があった。
だが、その面積はお世辞にも広いとはいえず、下半身を隠す布は殆ど紐同然で、形のいいお尻がほぼ露わになっていた。
「なっ、ななっ……」
素肌を晒しているのは受付の女性のはずなのに、何故かシドの方が顔を赤くさせる。
それを見た女性は、まるで獲物を見つけたと赤い舌でチロリ、と自分の唇を舐めて妖艶に笑う。
「フフッ、お姉さん可愛い。今日はどういったご用件で? お食事ですか?」
「そ、そうだ。ここは食事もできるのか?」
「できますよ。このお店はルストの街でも一、二位を争う人気店ですからね。美味しいお酒に絶品料理の数々をお手頃価格で提供させていただいてますよ」
「そうか、では二人と……こいつ等も同席しても構わないか?」
そう言ってシドは、ロキとソラに抱えられているうどんを指差す。
「一応、人を襲わないようにキチンと躾けてあるが、店に入っても問題ないだろうか?」
「大丈夫ですよ。むしろこの近辺でペット同伴でも入れる酒場はここしかありませんから、お客様、ラッキーでしたね」
「こいつ等はペットではないのだが……まあ、入れるのなら頼む」
「はい、お二人様にペット二匹……一匹と一羽ですかね? ご案内しま~す」
受付の女性は店の中に向かって元気よく声を上げると、シドたちに中に入って来るように手招きする。
男性を魅了するように、お尻をフリフリと振りながら歩く受付の女性を見て、シドとソラは顔を見合わせて微妙な表情を浮かべるが、他にロキたちが入れる店がない以上、ここに入るしかないと腹を括ると、ルストの街で一、二位を争う人気だという酒場へと入って行った。
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