第530話 不埒な予知夢
ソラとの間にちょっとした気難しい時間が流れた後、今日はこのまま解散する流れになると思われたが、
「あの、コーイチさん。少しよろしいでしょうか?」
ソラが神妙な顔で相談を持ち掛けてくる。
「実は……私、ついさっきまで、夢……おそらくですが、予知夢を見ていたのだと思います」
「おそらく?」
「その、すみません。私でもどうしてこんなことになったのかわからなくて……」
「そう……なんだ」
力なく肩を落とすソラを見て、俺は首を動かして仄かに照らされている天井を見ながら考える。
ソラが見る予知夢がどのような形で見る夢なのかはわからないが、これまで彼女が自分の予知夢に付いて、おそらくなどという曖昧な表現をすることなどなかったような気がする。
それに、ソラが予知夢を見る時は、多くが彼女に取って望ましくないことが起こる時であるので、情報の取り扱いには細心の注意を払う必要がある。
ただ、現在進行形で困っているソラの悩みに応えるためにも、予知夢の内容を聞いておく必要があるので、とりあえず彼女が見た予知夢について尋ねる。
「その……話し辛いかもしれないけど、夢の内容を聞いてもいいかな?」
「はい、私もコーイチさんに意見を聞いてみたいと思っていたんです」
そうしてソラは、自身が見たという予知夢について話し始める。
「実はですね……」
「うん……」
一体どんな予知夢を見たのだろうと身構えていると、
「場所は……暗い部屋の中で、コーイチさんが沢山の女の人に囲まれていたんです」
「ほう……」
てっきりソラの話がメインかと思ったが、まさか俺の話だとはおもわなかった。
しかも、沢山の女性に囲まれていると……………………悪くない。
俺の話となると俄然、興味が湧いてきたので、もっと詳しく状況を聞いてみることにする。
「それで……俺の周りにいる女性はどんな人だったの?」
「それが、皆さんとっても…………卑猥な格好をしてまして…………」
「ひ、卑猥?」
「はい、布面積がとっても小さな……殆ど裸の格好をして、皆、コーイチさんを誘惑するんです」
「ほうほう……」
てっきり怖いお姉さんたちに襲われる話かと思ったが、なかなかどうして魅力的な展開ではないか。
俺の人生において……というか普通に暮らしていて、複数の女性からアプローチされるなんてことまずありえない。
そういうことがあり得るのは、一部の美形、もしくは人気絶頂の芸能人や溢れんばかりの富を得た大金持ちだけだろう。
一応、この世界において俺は自由騎士という特別な才を持つ人物ではあるが、モテるのはアニマルテイムによって惹かれてきた野生動物だけで、人間には効果はない。
そんな俺が複数の女性、しかも扇情的な衣装に身を包んだ女の子たちにモテモテになると聞かされて、平静でいられるはずがなかった。
「それで、言い寄られた俺はどうしたの?」
「むぅ……何だかコーイチさん、嬉しそうじゃありませんか?」
「そ、そんなことないヨ?」
「本当ですか?」
「本当だって……ほら、チャントハナシヲキカナイト、サキニススメナイデショ?」
「…………まあ、いいですけど」
俺の棒読みの演技をどう思ったのかはわからないが、ソラは唇を尖らせながら夢の続きを話す。
「夢の中のコーイチさんは、今と同じように鼻の下を伸ばしてだらしない顔をしていました」
「いっ!? お、俺……そんなにだらしない顔をしてる?」
「…………知りません!」
俺の問いかけに、ソラは気分を害したかのようにそっぽを向いてしまう。
「その中には恥ずかしい格好の私と姉さんもいたのに……コーイチさんったら、私たちに見向きもしてくれないなんて……酷いです!」
「えっ、なにが酷いって? ごめん、よく聞き取れないかった」
そっぽを向いたソラが何かをブツブツ呟いていたが、最後の台詞以外は何も聞き取れなかったが、何度問いかけても、もう一度話してくれる気はなさそうだった。
……まあ、ソラが何と言ったかはともかく、俺にとんでもないモテ期が到来するのは間違いなさそうなので、この未来は是非とも変えたくない。
と、普通ならそう考えるのだが、ソラが見る予知夢は決まってバッドエンドとなるので、素直に喜んでばかりもいられなかった。
俺は「コホン」とわざとらしく咳払いを一つして気を取り直すと、改めてソラに問う。
「それで、きっとそこから俺に不幸が訪れるんだよね?」
「…………」
「ソラ?」
ある程度の覚悟はしているので、隠さずに話して欲しいのだが、どうしてかソラは夢の続きを話そうとしない。
もしかして、俺の態度に失望して先を言いたくなくなったのかと思ったのだが、
「実は……そこで予想外のことが起きて、予知夢が途切れてしまったんです」
ソラは困惑したような、それでいて何処どなく嬉しそうな複雑な表情をして、俺の手を握ってくる。
「その……今から変なことを言いますけど、信じてもらえますか?」
「あっ、うん……それはモチロン」
ソラがくだらない嘘を吐くはずがないことは百も承知なので、俺はすぐさま頷く。
「何があっても驚かないから、話して欲しい」
「はい、その実は……女の子に囲まれているコーイチさんに話しかけようとする私の前に、コーイチさんが現れたんです」
「……はい?」
「ですから、コーイチさんに話しかけようとする私の前に、別のコーイチさんが現れたんです」
ソラによると、突如として現れたもう一人の俺は「この夢は君にはまだ早いよ」と甘い声で囁くと、彼女を抱擁して頭を撫でながら子守唄を歌ってくれたという。
まるでソラの全てを熟知したかのような絶妙な力加減の撫で心地と、心に染み渡るような歌声に、彼女は抗えるはずもなくあっさりと眠りに落ちてしまったのだという。
「でも、変なんです。その時の歌は、小さい頃に母様が歌ってくれた歌で……コーイチさんが知るはずがない歌だったんです」
「母様ってレド様のことだよね………………って、あっ!?」
ソラのその一言で、さっきまで忘れていたレド様との会話の内容の一部が、脳裏に電撃的に蘇る。
「な、何かわかったんですか?」
俺の態度から何かを察したソラが繋いだ手に力を籠めてくる。
「あっ、うん……」
一瞬、レド様のことをソラに話すかどうか迷ったが、いずれ彼女も知る事実になるだろうから、この機会に話してしまうのもいいのかもしれない。
「実はね……」
俺は覚悟を決めると、自分とレド様の関係、そしてソラとの繋がりについて詳しく話していった。
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