第474話 お家を探そう
「この前の雨……」
「うん、ザーザーってすごくふったひあったでしょ? そのとき、うどんのいえ、あめでながされちゃったんだって」
そうしてミーファは、たどたどしい言葉ながらも、一生懸命にうどんの身に起きたことを話す。
うどんは牧場の北にある森の中にある河のほとりで穴の中に巣を造り、家族と一緒に暮らしていたという。
そこは木々に囲まれた河の近くということもあって、気温があまり上がることなく年中通して涼しく、また外敵に襲われることも殆どなかったので、うどんたちは毛皮を着替える時に色を変える必要がなかったようだ。
餌も豊富で、何不自由なく家族と暮らしていたうどんだったが、季節外れの大嵐に巻き込まれ、河が氾濫して巣はあっという間に濁流に飲み込まれてしまった。
家こそなくなってしまったがうどん一家だったが、危険を予測してあらかじめ避難していたので、誰一人欠けることなく無事に嵐を切り抜け、壊れてしまった巣を新たに造ろうとしていた。
だが、そこでうどん一家の生活を脅かす招かれざる客が現れる。
「さいしょはうどんたち、なかまがふえてよろこんだんだって」
だが、それは見た目はうどんたちと似た凶悪な魔物だった。
「もしかしてそれって……」
「うん、ぼー…………なんとかだって」
「ヴォーパルラビットね」
ミーファに補足説明をしながら、ニーナはうどんの身に起きたおおよその流れを理解する。
突如として現れたヴォーパルラビットによって生活圏を荒らされたうどん一家は、仕方なく生まれ故郷を捨てて新たな地を求めて移住を決意する。
だが、保護色とならない白い毛皮は、他の肉食動物たちの格好の的となり、うどん自体も何度も危ない目に遭いながらこの近くまでやって来たという。
「そうだったんだ。これまでよく頑張ったね」
うどんの冒険を聞いたニーナは、優し気な笑みを浮かべながら白いウサギの頭を撫でる。
「もし、よかったら、これからもウチにいてもいいんだよ?」
「いいの?」
「うん、ウチには他にも居場所がなくなった子たちがいっぱいいるからね。パパに話せば、うどんのこともちゃんと面倒見てくれるよ」
「ほんとう、やった!」
ニーナの言葉を聞いて、ミーファは喜色を浮かべてうどんにそのことを伝える。
だが、
「……えっ、いやなの?」
意外にもうどんはニーナの提案を拒否する。
「ど、どうして?」
絶対に受け入れてもらえると思っていたニーナは、困惑したようにうどんに尋ねる。
「別にうどんだけじゃなくても、家族も一緒でいいんだよ? ここなら大好きなオリーブもたくさん食べられるのよ?」
「あのね、ニーナちゃん……」
詰め寄ってくるニーナに、ミーファはうどんの頭を撫でながら誘いを断った理由を話す。
「うどん、ここはあついからいやだって」
「あっ……」
「それにうどん、こわいっていってる」
「怖い?」
「……うん、うどんのおとうさん、ひとにころされちゃったんだって……だからミーファたちはへいきでも、ほかのひとにあいたくないって」
「…………そっか」
先程ミーファに捕まった時、うどんが泣き叫び、めちゃくちゃに暴れたことをニーナは思い出して小さく頷く。
あれは、自分の目の前で殺され、人に連れ去られた父親のことを思い出し、自分も同じ道を辿るのではないかと恐れたのだ。
今はこうしてミーファたちが危害を加えないとわかったからおとなしくしているが、二人以外に出会った時、特にうどんを見て奇異の目で見てくる者と出会った時に、このウサギが冷静でいられる保証はないだろう。
それに、この夏でも毛色が変わらないウサギを見て、物珍しさから命を狙われるという可能性も大いにある。
そうなった場合、幼いニーナや、暴力沙汰にはとんと疎い両親たちでは、とてもじゃないがうどん一家を守ることはできないだろう。
「う~ん……」
そこまで考えたニーナは、ならば自分にできることはなんだろうと考える。
「パパやコーイチさんは頼れない……でも、ロキなら大丈夫かな? となれば私たちにできることは……」
おとがいに手を当てて、あれこれと思考を巡らせたニーナは、幼い自分たちにもできると思われることを口にする。
「だったらさ、私たちがうどんの新しい家を探す手伝いできないかな?」
「ミーファたちが?」
「うん、ロキにも手伝ってもらってさ。この辺りでうどんたちが静かに暮らせる場所を、さがしてあげるのはどうかな?」
「…………うん、いいかも」
ミーファはコクコクと何度も大きく頷くと、ニッコリと笑いながらうどんに話しかける。
「ねえ、うどん、ミーファたちがうどんのいえさがし、てつだうのはいい?」
「プッ」
ミーファの問いかけに、うどんはコックリと頷きながら短く返事を返す。
「それならいいって」
「決まりだね」
ニーナは嬉しそうに頷きながら指をパチン、と鳴らす。
「じゃあ、早速……」
今すぐにでも動き出そうとニーナが立ち上がったところで、ミーファの耳がピクリと反応し、同時に腕の中のうどんも忙しなく首を巡らせる。
「……もしかして、誰か帰ってきた?」
流石に何度もミーファの様子を見て来たニーナも、彼女の行動から何が起きたのかを理解していた。
「このタイミングだとパパとコーイチさんかな?」
「うん、あとはロキもいっしょ……ニーナちゃん」
「わかってる。うどんのこと、隠さなきゃだね」
ニーナは立ち上がってミーファへと手を差し伸べる。
「でも、どこにいくの?」
「う~ん、とりあえず涼しいところに行こう。その方がきっとうどんも楽だろうからさ」
「わかった」
そうして手を繋いだ二人と、一羽のウサギはそそくさと倉庫を後にした。
それからほどなくしてリックが現れ、倉庫の異変に気付いて慌てて浩一たちを呼ぶのであった。
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