第403話 解放宣言
「そういえば……ソラはどうしたんだ?」
リムニ様にユウキの最期について報告し終えると同時に、辺りを見渡していたシドが声を上げる。
「それにコーイチの仲間の姿も見えないが、まさか……」
「姫、それについては問題ありません」
不安そうに眉を下げるシドに、クラベリナさんが恭しく頭を下げながら説明する。
「実は姫様たちが下水道へと降りて行った後、ソラ様が体調を崩されてしまいまして……」
「な、何だと。ソラは……ソラは無事なのか?」
顔を真っ赤にして詰め寄るシドに、クラベリナさんは冷静に落ち着くように手で示しながら話す。
「ご安心を、マーシェン殿が適切に処置してくださいました。そして、安静にしていただくために地上の治療院に運ぶことになりました。オヴェルク将軍とタイゾー、そしてロキをお二人の護衛にと私が遣わせました」
「そ、そうか……」
ソラが無事だとわかったシドは、安心してその場にへたり込んでしまう。
そんなシドに、しゃがみ込んだリムニ様が彼女の手を取りながら話しかける。
「シド姫様……実はソラ様を救うために、我々の方で薬を用意してあるのじゃ……じゃなくて、あります」
「えっ?」
思わず顔を上げたシドに、リムニ様はニッコリと満面の笑みを浮かべる。
「実は我が父は、オヴェルク将軍からソラ様のこと聞いておっての……おりまして」
「ああ、話し方は気にしなくていい」
妙に畏まった話し方をしようとするリムニ様に、シドが思わず苦笑する。
「あたしはもうノルン城の姫じゃなく、ただのシドだから……」
「そ、そうか、それじゃあ……」
やはり慣れない話し方に苦慮していたのか、リムニ様はホッ、と一息ついてからいつもの口調に戻って話す。
「父の後を受け継ぎ、我も各地に人を派遣して幻の薬、
「そういえば……屋敷でそんな話をしていたな」
「その節は助かった。礼を言う……」
リムニ様はシドの手を両手で包み込んで、拝むように深々と頭を下げて感謝の意を伝える。
「それで、霊薬は見つけられなかったが、各地から集めた活力を回復する薬はまんとある」
「で、では……」
「ああ、夜が明けたら、ソラ様を我が屋敷に招いて薬による治療を行おう。完治とはいかずとも、暫くは問題なく過ごせるようになるはずじゃ」
「ほ、本当に?」
「無論じゃ。むしろ、今日まで碌な支援を送れなくて申し訳ない……これも全て、我の力が至らなかったためじゃ」
リムニ様は再び頭を下げた後、顔を上げてシドの目を真っ直ぐ見つめる。
その顔は憑き物が落ちたかのようで、目にやる気満々といった活力で満ちていた。
「だからシド姫……それにここにいる皆の者よ。今こそ亡き先代の後を継ぎ、グランドの領主として、皆をこの穴倉から解放してみせると我はここに誓おう!」
「あんた……」
「これまでは大人たちの傀儡となり、自由に意見を言うことすらままならなかったが、これからは自ら意見を言って、逆に奴等を黙らせてみせる。手始めに、其方たちの解放を早期に行ってみせるのじゃ」
「のじゃって……いきなりそんなことをして大丈夫なのか?」
「貴族連中は問題ありません。そもそも、領主様に逆らって好き放題していた方が問題なのです。何、意見しようとする愚か者がいれば、私が成敗してくれますよ」
心配するシドに、リムニ様の後ろに控えるクラベリナさんが力強く頷いてみせる。
「そもそも全ての元凶は、ネームタグにあるのです。そうとわかった以上、先ずはネームタグの全面撤廃を行えば、皆の獣人に対する敵意もなくなり、ことはスムーズにいくはずです」
「それはそうだが……そう簡単に行くのか?」
懸念があるのか、シドは眉を顰めながら自分の考えを話す。
「少なくともこの街の住人は、ネームタグに依存して生きて来た。そんな生活の一部となったものを、そう簡単に手放すと思うか?」
「それについては、辛抱強く説得していくしかないでしょうな」
住民たちにネームタグを廃棄させるこれといった方策はないのか、クラベリナさんは腕を組んで唸る。
「領主様の権限を振りかざして命令させることもできますが、できるなら住民との間に遺恨は残したくないのです」
「それはそうだろう。あたしたちも地上に出た後で、住民たちから白い目で見られるのは勘弁だ。時間はかかっても、住民たちには納得してネームタグを破棄してもらいたい」
「……ありがとうございます」
シドの理解が得られたことに、クラベリナさんは安堵したように息を吐きながら深々と頭を下げる。
どうやら話はまとまったようだ。
リムニ様が一人前の領主として立ち上がってくれれば、獣人たちが地下から解放される日がくるのもそう遠くはないだろう。
静かに事の成り行きを見守っていた俺は、腕の中のよくわかっていない様子のミーファのぷにぷにの頬を突きながら笑いかける。
「ミーファ、よかったな」
「な~に?」
「リムニ様が、ミーファや皆をお外で暮らせるようにしてくれるってさ」
「んん? ミーファのおうち、ここだよ?」
まだよくわかっていないのか、コテンと可愛らしく小首を傾げにミーファに、俺は苦笑しながら話す。
「今はそうだけど、これからは外で暮らせるようになるんだよ。毎日、太陽の下で一緒にご飯を食べて、のんびりお昼寝しても怒られないんだ」
「……それって、まいにちぽかぽか?」
「うん、これからは好きなだけ……毎日だって日向ぼっこして、ご飯食べていいんだ」
「すごいすご~い、じゃあ、ミーファ。おにーちゃんがまえにくれた、ながいパンたべたい」
「長いパン……ああ、サブラージか。いいよ、シドとソラと一緒に皆でお腹いっぱい食べような」
「うん!」
満面の笑みを浮かべて首に抱きついてくるミーファを見て、俺の顔にも自然と笑顔が浮かぶ。
これからもこの笑顔を見るために、一刻も早くネームタグの問題を解決しないとな。
そう思った俺は、これからの方針について話し合っているリムニ様たちに話しかける。
「あの……ネームタグの件について考えがあるんですけどいいですか?」
そうして俺は、住民たちのネームタグの問題を早期解決できるかもしれない案を、リムニ様に話した。
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