第284話 闊歩する戦士たち

 そうして互いに紹介して総勢十二人になったパーティは、ジェイドとベアを先頭して歩きはじめる。


「いや~、共同作戦なんて痺れるね」


 悪臭漂う下水道で鼻も口も塞ぐことなく、これから向かうのは数多くのリザードマンが生息する地下墓所カタコンベであるにも拘らず、ジェイドはまるで遠足にでも行く気安さで笑顔を浮かべている。

 そんなジェイドに、ベアは気になっていることを質問してみる。


「今日の作戦に参加する冒険者は、あなたたち五人だけなのですか?」

「ジェイドだ」

「……えっ?」


 思わず聞き返すベアに、ジェイドは爽やかな笑みを浮かべて歯を光らせる。


「あなた、なんて他人行儀な呼び方しないで、気軽にジェイドと呼び捨ててくれ、ベア……いいだろ?」

「……わかった」


 ジェイドの笑顔に釣られるようにベアも笑顔を浮かべると「コホン」と咳払いを一つして改めて質問する。


「冒険者たちは、ジェイドたち五人だけが参加するのか?」


 その質問に、ジェイドはニヤリと笑って親指を立てながら答える。


「まさか、流石に今回のクエストはそう一筋縄ではいかないだろうからね。連中の寝床となる地下墓所には、複数のパーティが同時に別々の場所から侵攻することになっている」

「そうか……」


 流石にこれだけの人数では足りないと思っていたベアは、安心したように大きく息を吐く。


「……ところでベアたちの方こそ、七人しかいないのか?」

「ああ、そうだ。悪いが俺たちは七人だけだ」

「そう……なんだ」

「……何かあるのか?」


 ジェイドの決して歯切れの良くない返答に違和感を覚えたベアは、思わず首を傾げる。


「確かに俺たちは少ない。だが、獣人の中でも精鋭を連れてきたつもりだ」

「いや、ゴメンゴメン。君たちの実力を疑っているわけじゃないんだ」


 憤るベアに、ジェイドは慌てたように顔の前で手を振りながらフォローする。


「ただ、聞いていた人物がいないな、って思ってさ」

「聞いていた人物?」

「そうそう、我がギルド所属の若人を助けてくれたっていう人物……知らない?」


 その質問に、ベアは思わず渋面を作る。


「……知ってはいる。だが、今回の作戦には参加しない」

「そうなんだ。残念だな。そこにいるノイン君も、噂の彼に会いたがってたのにさ」


 そう言ってジェイドは、後ろで緊張の面持ちで立っているノインを一瞥すると、心底残念そうに肩を落とす。


「いや、本当残念だよ…………ざんね~ん」


 そう言ってジェイドは大袈裟に肩を竦めると、鼻歌を歌いながら歩きはじめる。


「…………」


 言葉の割にはあまり残念そうでないジェイドの態度に、ベアたちは何事かと仲間たちと顔を見合わせるが、気にしても仕方がないと肩を竦めて足取り軽やかに歩くジェイドの後に続いた。




 それからジェイドとベアが率いる総勢十二名からなるパーティは、地下墓所カタコンベ目掛けて行軍を開始する。


 途中、何度かリザードマンのパーティと遭遇するが、十二人はそれぞれの仲間たちと、時には種族の違いを超えて上手く連携して、襲いかかるリザードマンたちを次々と屠っていった。


「いや~、実に楽しいね」


 決して広いとは言えない下水道の通路をものともせず、器用に大剣を振ってリザードマンを二つに両断したジェイドは、顔に付いた血を拭いながら周りの様子を見る。

 今回、ジェイドが連れてきた冒険者たちは、比較的経験の浅い若い冒険者が中心で、迫るリザードマン相手に、最初はぎこちない場面も見られたが、獣人たちの見事な連携を見てそれを真似したリ、時には彼等からアドバイスを受けて、メキメキと力をつけていった。


 そんな若人の成長にジェイドは嬉しそうに目を細めると、戦闘の空気を楽しむようにゆっくりと歩を進めながら、地図を取り出して状況を確認する。


 ジェイドたちは、ベアたちと合流した分だけ他のパーティより出発が遅く、予定では地下墓所へと辿り着く頃には、既に他のパーティによる戦闘が始まっていると思われる。


 それでもここまでジェイドたちは、既に三組、計十五匹のリザードマンを討伐している。

 それほどまでに多くのリザードマンが、自分たちの足元に跋扈していることは驚きが隠せなかったが、


「……早く強敵が現れないかね」


 ジェイドは今の状況に不満を覚えていた。

 ベアによると、獣人の集落には、リザードマンの上位種の中でも最上位種に位置するリザードマンジェネラルが現れたという。

 多くの魔物を屠り、リザードマンもかなり倒してきたジェイドだが、まだリザードマンジェネラルのような特異な魔物とは対峙したことがない。


「さて、今回は何処までの奴が出てくるかな?」


 リザードマンジェネラルもかなりの強敵だが、さらにその上、殆ど伝承レベルと言われているキングリザードマンの登場もあるかもしれない。


 ここの所、難敵と言われるイビルバッドが頻繁に現れてはいるが、ギルドマスターである自分が出ることが叶わず、おいしいところを自警団団長であるクラベリナに全て持って行かれていたので、今回こそは自分が一番活躍したい。ジェイドはそう考えていた。


「精々、俺のために強敵は残しておいてくれよ」


 ジェイドは歌うようにそう言うと、振り向きざまに一本のナイフを投擲する。


「――ッグギャッ!?」


 すると、耳障りな悲鳴と共に、暗がりから一匹のリザードマンが倒れ込むのが見える。

 どうやら騒ぎを聞きつけて、新たなリザードマンのパーティが現れたようだ。


「ほら、若いの……次が来たぞ!」


 ジェイドは少し疲れた様子の見える自分の仲間たちを鼓舞するように声をかけると、獰猛に笑いながらリザードマンたちへと襲いかかった。

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