第211話 査定結果
「…………」
「…………」
ソラの衝撃発言に、この場にいる誰もが固まっていた。
………………………………………………………………は?
それは口をあんぐりを開けたままの姿勢で固まる俺も同様で、恥ずかしそうにもじもじとしているソラを見ることしかできなかった。
その中でただ一人、何を考えているのかわからない行商人は、
「…………本当か?」
探るような声音でソラへと尋ねる。
「本当にその男は、その……君の想い人なのか?」
その射貫くような視線を受けてもソラは、怯むことなくよく通る声で行商人にハッキリと言う。
「本当です。この人は、私の大事な家族になる人です」
「……そうなのか?」
そう言いながら行商人が目を向ける先は俺だ。
「お、俺は……」
「コーイチさん、私たち家族、になるんですよね?」
答えを迷う俺に、ソラが俺の手を握って真っ直ぐ目を見つめながら呟く。
ことさら家族という単語を強調して言ってくれたのは、きっと俺に対する気遣いなのだろう。
本当に、ソラは優しくて気が利く子だと思う。
俺はソラにしかと頷いてみせながら、震える声で行商人に向かって話す。
「はい、本当です。俺とソラは……家族になります」
「………………そうか」
俺の答えを聞いた行商人は興味なさそうに小さく呟くと、ゆったりと手を下ろして再び腕を組んでの仁王立ちへと戻る。
同時に、俺に向けて放っていた殺気も止めたのか、
「…………ぶはっ!?」
俺は全身にまとわりついていた重りから急に解放され、大きく息を吐いてその場に崩れ落ちる。
「コ、コーイチさん!?」
俺が倒れると同時にソラがやって来て、手を伸ばして起こしてくれる。
「大丈夫ですか?」
「あ、ありがとう。でも、さっきのは……」
「すみません。ご迷惑でしたよね?」
「い、いや、そんなことないよ」
肩を落とすソラに、俺はかぶりを振って否定する。
「ただ、ちょっと驚いただけだよ。その……まさかソラに恋人だなんて言ってもらえるなんて思わなかったから」
「…………嫌ではないのですか?」
「嫌じゃないよ。むしろ光栄なくらいさ」
頬を赤く染めて見上げてくるソラに、俺は笑顔で返す。
実際、これだけの美少女に恋人宣言されて嬉しくない男なんていないだろう。
例えそれが、行商人から俺を助けてくれるための方便だとしても、ソラの気転がなかったらと思うと、ゾッとしない。
「……でも、まさか本当にソラに助けてもらうとは思わなかったよ」
「フフフ、約束しましたからね?」
ソラはいつものように口に手を当てて上品に笑ってみせる。
「だって私たち、家族ですから。大切な家族を守るのは当然ですよ」
「……ああ、そうだね」
家族……意図せず一度は捨てたはずのその存在のありがたさを、ここにきて身を持って思い知るとは思わなかった。
「俺もいつか、ソラの身に危険が迫った時は、命を賭けてでも守ってみせるよ」
「はい、ありがとうございます」
そう言って俺とソラは笑い合う。
この仲睦まじい様子を他人が見たら、正に本物の恋人のようではないだろうか。
なんてな……などと思っていたが、
「お前たち、あたしの知らない間に恋人になっていたのか?」
意外にも、身近に本気で信じてしまう状況がわかっていない人がいた。
その後、絶句して固まるシドに先程のソラの発言が本気でない旨を簡単に説明して、俺は持参した麻袋の中身を行商人に見せた。
「…………ふむ」
散々俺のことを訝しんでいた行商人であったが、遺品を前にした途端、商人の顔になったのか、俺たちが拾ってきた物を一つ一つ丁寧に鑑定していく。
そうして待つこと数分、
「待たせたな」
鑑定結果が出たのか、行商人から声がかかる。
行商人は、算盤のような木製の丸い玉が並んだ計算機と思われるものを指で弾きながら、鑑定結果を告げる。
「今回の量だと、銅貨十枚といったところだな」
「えっ……」
報酬額を聞いた俺は、自分の耳を疑う。
あれだけ臭い中を苦労して進み、いつ魔物に遭うかもしれない危険を冒しながら拾ってきた遺品が、たったの銅貨十枚だって?
「う、嘘ですよね?」
納得いかない結果に、俺は思わず行商人に詰め寄る。
「お、俺……前に薬草採取の仕事してたんですけど、その時は薬草一籠で銅貨六十枚だったんです!」
「お、おい、コーイチ。止めるんだ」
背後からシドの焦ったような声が聞こえるが、俺は無視して続ける。
「地下での仕事は地上の仕事より儲かるんじゃないんですか? 確かに成果は少なかったかもしれませんが、それでも薬草採取より少ないなんておかしいですよ!」
銅貨十枚なんて少額の報酬では、とてもじゃないがミーファが望む肉なんて買えない。
きっとこの行商人は、俺とシドが地上で相場を知らないと踏んで、わざと報酬額を少なくしているに違いない。
「俺たちの苦労を……愚弄するな!」
完全に頭にきていた俺は、無謀にも行商人に掴みかかる。
だが、行商人に向かって伸ばした手は、どういうわけか空を切る。
「…………えっ?」
一体何が起きたのか?
そう理解するより早く、
「フッ!」
耳元で短く息を吐く声が聞こえ、俺の視界が空転する。
「あがっ!?」
次の瞬間、俺の体は地面に縫い付けられていた。
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