第180話 再び闇へ
「がぼぼ……がぼがぼ……」
頭から水路へと落ちた俺の鼻に容赦なく水が入り、死ぬほど苦しい目に遭うが、読み通り水路はかなり深く、どうにか死なずに済んだ。
水没した勢いのまま沈んだ俺は水中で態勢を整えると、下流へと流されないように岸まで泳ぐ。
着衣のままの水泳はかなり苦戦したが、どうにか岸へと辿り着く。
「ゲホッ……ゲホゲホ…………し、死ぬかと思った」
もし、俺が橋の欄干に足をかけて飛び込もうとしていたら、その前に確実に男たちに取り押さえられていただろう。
「…………でも、もう二度とやりたくない」
あんな捨て身同然のダイブを毎回行うのは、命がいくらあっても足りない。
今回はたまたま上手くいったからよかったが、次も上手くいくとは限らないのだ。
それに、まだ安全を確保できたわけではない。
俺は自分の体に異常がないのをサッと確認すると、橋から飛び降りた本当の目的を探す。
「…………あった!」
程なくして見つけたそれは、橋の通路の真下にある地下水路へと入る鉄柵の扉だった。
俺が地下から出てきた場所も橋の真下だったからもしやと思ったのだが、どうやら他の橋も同じような構造になっているようだった。
水路の入口を塞いでいる扉を触ってみると、幸運にも鍵はかかっていない。
ただ、水路の奥は闇が広がっており、この先が何処へと繋がっているかは全くの未知数だ。
一切の灯りを持たずにこの中に入って果たして迷わずに出口へ辿り着くことができるかどうか……、
「だけど、迷っている暇はない」
今この瞬間にも、もしかしたら男たちが橋の下へと降りて来て俺を探しに来るかもしれないのだ。
「…………ゴクッ」
大丈夫。視界は効かなくても、アラウンドサーチを使えばエンカウントすることだけは避けられるはずだ。
俺は自分自身にそう言い聞かせると、キィッ、と錆びた音を立てながら鉄柵の扉を開けて地下水路へと入っていった。
橋から浩一が落ちたのを見た男たちは、慌てて欄干へと飛び付いて下を見ていた。
「お、おい! 落ちちまったぞ!」
水路に落ちた浩一は、沈んだまま浮かんでくる気配がない。
男たち受けたクエストは、どのような形であっても構わないので、浩一の体を持って帰ること。
それを水路に流されてしまって見つけられませんでしたでは、男たちが依頼人から何を言われるかわかったものじゃない。
簡単な依頼と高を括っていた男たちは、一様に慌て出す。
「ど、どど、どうするんだよ?」
「落ち着け! まだ死んだと決まったわけじゃない」
「そうだぜ。とりあえず流れに乗って反対側に来るはずだ」
その言葉に、男たちは慌てて橋の反対側へと移動して欄干から身を乗り出す。
「…………」
だが、いくら待っても浩一体が流れてくることはない。
「ど、どうなってんだ?」
「そういえば……」
そこで男の一人が、何かを思いついたかのように仲間たちに話しかける。
「確かこの下に、地下水路に入る扉がなかったっけ?」
「――っ、そういえば」
「それだ!」
その言葉に男の一人が弾けるように橋の上から水路へと飛び降りる。
豪快に水飛沫を上げながら、すぐさま水面へと顔を出した男は、
「あった!」
橋の下の扉から中へと続く濡れた痕を見て、顔を醜悪に歪める。
「馬鹿め。地下は迷路みたいに入り組んでいるんだ。何も知らない奴が入ったところで、暗闇で迷って死ぬのがオチだぜ」
一寸先も見えない地下水路に入った時点で、もう捕まえたのも同然と、男はほくそ笑みながら橋の上の仲間たちに声をかける。
「まだ、そう遠くには行っていないはずだ。誰か、灯りを持ってる奴はいないか?」
「ここにあるぞ!」
その言葉に、すぐさま応える声が上がる。
「念のためにと持ってきておいたんだが、思わぬところで役に立ったな」
「よくやった。くれぐれも水に濡らすなよ」
「わかってるよ。今すぐそっちに行くから待ってろ」
男たちは一つしかないカンテラを濡らさないように協力して橋の下に降ろすと、
「さあ、狩りの時間だ」
犬歯を剥き出しにして獰猛に笑いながら、五人の男たちは浩一が消えた地下水路へと入っていく。
戦う力を持たない、ましてや明かりも持たない一般人を捕まえるのは朝飯だ……そう思っていた男たちだったが、
「…………一体、どうなってやがんだ!」
地下水路に入って一時間、簡単に見つかると思った相手は、どれだけ奥に進んでも見つけることができないでいた。
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