第134話 本日の成果は?
「あの……もしかしてですけど」
言われた魔物の脅威がわからず、キョトンとしている俺に受付嬢は冷や汗を流しながら尋ねてくる。
「コーイチさん、イビルバッドが何か知らないのですか?」
信じられない者を見る目で見られてしまったが、ここで嘘を言う理由もないので、俺はかぶりを振りながら素直に答える。
「……知らないです
「そ、そうですか…………」
受付嬢はカウンターからガクッ、とずり落ちそうになりながらも、すんでのところで踏み止まり、ズレ落ちた眼鏡を直しながら説明を始める。
「イビルバッドとは脅威Aと判定される非常に凶悪な魔物なんです」
受付嬢によると、イビルバッドは全長が二メートル以上にもなる超巨大な蝙蝠で、夜になると大空を舞い、闇に乗じて獲物を捕食する凶暴な魔物だという。
「この魔物の恐ろしいところは、空を飛んで何処からでも襲いかかってくることなんです。しかも、街の中にまで入って来て外を歩いている人を攫うんですよ」
「ま、街の中にまで……ですか?」
「ええ、しかもその巨体に似合わず信じられないほど素早くて、剣を一振りする間にあっという間にいなくなってしまうんです」
それ故、イビルバッドを討伐できるのは、このグランドの街でも数えるほどしかおらず、目撃情報が入る度に、ジェイドさんかクラベリナさんが討伐に赴くほどだという。
「そんな凶悪なイビルバッドを倒してしまうなんて、流石は自由騎士様です」
「えっ? いやいやいや、俺がそんな化物、倒せるはずありませんよ」
「では、このイビルバッドの眼球はどうやって手に入れたのですか?」
「そ、それはですね……」
別に正直にロキが持って来たと言ってもいいと思うのだが、変に勘繰られてミーファと会っていたことが露見するとことである。
全員、というわけではないだろうが、獣人たちに対して誰が敵意を持っているのかがわからない状況では、ミーファたちの話題を振るのは危険なような気がする。
ロキ、君の手柄を横取りするようでゴメンよ。
俺は心の中でロキに謝罪すると、偽りの理由を述べる。
「実は、拾ったんです」
「拾った……のですか?」
「はい、実は俺、広域を索敵できる能力があるのですが、それに反応があったので見に行ったところ……」
「イビルバッドの眼球を見つけたですか?」
「はい、だから俺はこれがそんな貴重なものだって知らなかったんです……といっても、信じてもらえないかもしれませんが」
「いえ、信じますよ」
受付嬢はゆっくりとかぶりを振ると、優しい笑みを浮かべる。
「自由騎士様には、それぞれ特別なお力があると聞いています。コーイチさんの力でこれを発見したのなら、それは天の恵だと思います」
では、これはお預かりしますね。と言って、受付嬢は俺に払う報酬を受け取りにカウンターの奥へと消える。
「お待たせしました」
数分後、受付嬢は黒色の木製のトレイを持って現れる。
「これが、本日のクエストの報酬となります」
「え……」
そこに積まれていたのはいつもの銅貨……ではなく、カンテラの淡い光の中でも鮮やかに白く輝く硬化、銀貨だった。
しかもその枚数は一枚や二枚じゃない。
十ずつ積まれた銀貨が一、二、三…………全部で八つ、つまりは銀貨八十枚もある。
俺の今までの一日の稼ぎが銅貨五~六十枚。銅貨百枚で銀貨一枚と同等の価値だから、これがいかに破格の値段なのかは言うまでもない。
俺はニコニコと笑顔でトレイを差し出してくる受付嬢に、腫れ物でも触るかのようにおそるおそる銀貨を指差しながら質問する。
「こ、こんなに、いいんですか?」
「ええ、イビルバッドの報酬は規定で七十五枚と決まっていますから。今回、コーイチさんがソロで活動していたのと、お持ちされた薬草と併せまして少し色を付けさせていただきました」
どうやらソロで活動すると危険手当が付くとかで、通常より多く報酬がもらえるようだ。
だが、そんな制度があっても普通は命あってのものだから、ソロで活動するような人間はまずいないそうだ。
まあ、そんな誰も使わないような稀有なシステムの恩恵にこうして与れるのは非常にありがたい。
「それじゃあ、失礼します」
「はい、どうぞお納めください」
俺は恐縮するように頭を下げながら積まれた銀貨を手にする。
いつも同じぐらいの枚数の銅貨を報酬として貰っているのだが、それより遥かにずっしりと重い手応えに、俺は大金を手にしたという実感が湧いてきて、表情が自然と緩むのを自覚する。
「フフッ、コーイチさん。嬉しさが顔に出ていますよ」
そんな俺を、受付嬢は口元に手を当てて上品に笑う。
「でも、今日で全部使ってしまおう。なんて考えは駄目ですよ。キチンと計画を立てて使って下さいね」
「あっ、はい……わかってますとも」
言われなくても、自分の経済状況がある程度見えているので、無駄遣いをするつもりは毛頭ない。
ただ、今日の晩飯ぐらいは多少豪華にいっても文句は言われまい。
俺は雄二たちの驚く顔を想像しながら、受付嬢に挨拶する。
「それでは、お疲れ様でした」
「はい、お疲れ様でした。またのご利用お待ちしております」
深々と頭を下げる受付嬢にこちらも会釈で返しながら、俺はクエストカウンターを後にした。
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