第120話 一緒じゃなくても……
「…………マジかよ」
「し、信じられない…………です」
俺が武器を持てなくなったという話を聞いた雄二たちは、揃って言葉を失っていた。
不意を突いたとはいえ、魔物相手に臆することなく立ち回って倒せたという二人の喜びは完全に霧散していた。
せっかくの楽しい雰囲気を壊してしまったことを悪く思いながらも、俺は努めて明るい声で話す。
「確かに戦えなくなったのは残念だよ。だけど、俺の中で心の整理はもうついてるから安心して欲しい」
「そんなことあっさりと言われても……なあ?」
「ええ、突然のこと過ぎてどうしたらいいのか……」
流石にいきなり納得してくれと言われても、どう処理していいかわからないようだった。
「と、とりあえず一つ確認してもいいですか?」
混乱する頭をどうにか動かそうと、泰三がこめかみに手を当てながら質問してくる。
「僕たちの最終目標ともいえる混沌なる者を倒すという話はどうなるのですか?」
「それについては一旦保留だな。完璧に諦めたわけじゃないが、現状では考えないようにするつもりだ」
戦う力は失ったが、混沌なる者を倒すという目標までは諦めたくない。
だが、俺には最早その力はないだろうから、叶えるにしても先ずは戦場に立てるだけの胆力を付け、サポート役に徹するということになるだろう。
「そうですか……ならいいです」
最終的な目標だけは変わらないと知り、泰三はどうにか納得してくれたようだった。
「待てよ。俺からも一つ確認したいことがある」
すると今度は、不満そうにこちらを睨んでいる雄二が手を上げて質問を投げてくる。
「浩一がサポートに回るしかないというなら強制はしない。だが、冒険者ギルドと自警団、どちらに所属という話はどうなるんだ? 今のお前ならどちらからも要らないと言われたら、どうするつもりなんだ?」
「ああ、それについても既に決めてある。俺は、冒険者ギルドと自警団。そのどちらにも所属するつもりはないよ」
「なっ!?」
「本気……ですか?」
「ああ、本気だ」
驚く親友二人に、俺は深く頷きながら続ける。
「だからさ、雄二も泰三も無理しなくていいんだよ」
「……どういう意味だ?」
「そのままの意味だよ。雄二は雄二の、泰三は泰三の所属したい方にそれぞれ所属すればいいということさ」
「何だよそれ……つまり、俺たちの友情はここまでってことかよ!」
「そうじゃない」
怒りで思わず立ち上がる雄二に、俺はかぶりを振りながら続ける。
「俺たちの友情が終わるなんてことはないさ。ただ、それは別に三人一緒じゃなきゃ成り立たないなんてことはない。違うか?」
これまでも別にずっと三人一緒で行動していたわけじゃない。
俺と泰三が同じ会社に入ったのも、何も狙って一緒の会社に入ったわけじゃない。
同じ大学に通っていたわけでもないし、入社試験の時も互いの存在は認識していなかった。ましてや入社式の時も互いの存在に気付かなかったくらいだ。
そんな一度はバラバラになった俺たちでも、なんだかんだでゲームを通じて再び集まり、こうして異世界にまでやって来たのだ。
「俺は二人が別々の組織に所属したぐらいで関係が変わるとは思わないけど、周りに合わせなきゃいけない時があるかもしれないだろ? そんな時、未所属の俺がいれば気まずくならずに済むかもしれないだろ?」
「それは……」
「心配しなくても、俺は俺でやるべきことを見つけるからさ。どちらを選ぶか、じゃなくて自分のやりたいことをやろうぜ。だってさ……」
俺は一日の労を酒を酌み交わしてねぎらう酒場の人たちを見ながら、親友二人に笑いかける。
「俺たち、その為に異世界までやって来たんだろ?」
「浩一……」
その言葉に、雄二の顔から怒りが急速に引いていくのがわかる。
「そう……ですね」
俺の言葉を聞いた泰三が、微笑を浮かべながら雄二に話しかける。
「この世界に来てから僕たちずっと一緒にいましたけど、こうして人里にまでやって来たのですから、ステップアップする時が来たのかもしれませんね」
「泰三はそれでいいのか?」
「はい、おそらくですが自警団と冒険者ギルド、どちらかに決めて所属した場合、何かしらの遺恨が出ると思うんです。だから、それぞれが希望の道を進むというのが最善だと思うんです」
「………………わぁったよ」
泰三が俺の意見に賛同したことが大きかったのか、雄二は諦めたように大きく息を吐く。
「確かに、所属する組織については、俺も思うところがあったからな。個人の好きなようにするというのは文句はない……ただな?」
「ただ?」
「別々の道を進んでも、毎日の夕飯ぐらいは三人で食おうぜ……なんていうか俺たち、運命共同体だろ?」
そう言って雄二は恥ずかしそうに顔を背ける。
「…………」
「…………」
そんな雄二を見て、俺と泰三は互いに顔を見合わせると、
「フッ……」
「プッ、フフフ…………」
我慢できないといった様子で笑い合う。
「あっ、こら! 笑うことないだろ!」
声を上げて笑う俺たちに、赤面した雄二が抗議の声を上げる。
「それで、俺の提案をどうするんだよ」
「そりゃ勿論……なあ?」
「ええ、反対する理由なんてありませんよ。これからも一緒にご飯を食べましょう」
雄二の提案を、俺たちは快く受けることにした。
こうして俺たち三人は、それぞれの道に進むことになった。
雄二は冒険者ギルド、泰三は自警団。そして俺は……未定だ。
だが、道は違えども互いを大切な親友だと思う気持ちは変わらない。
この関係は、これから先もずっと、長い間続くはずだから……。
この時の俺は、それを信じて疑わなかった。
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