第11話 ???
気が付くと、俺は真っ白な空間にいた。
上も下も、右も左もわからない何処までも続く純白の世界。自分が立っているのか、宙に浮いているかも定かではないまるで水中で当てもなく漂っているような……だが、呼吸は苦しくはないという何とも言えない不思議な感覚。
どうして自分がここにいるだろう。何かをしていたような気がするのに、自分の思考がまるで定まらない感覚に、これは夢なのかと思う。
夢ならばこのまま寝てしまおう。そう思って目を閉じるが、瞼の裏までも白い絵の具で塗り潰されてしまったかのように変わらず白の世界しか映らない。
こうなると眠ることも儘ならないので、どうしたものかと定まらない脳みそを緩慢に動かしながら辺りを見渡すと、白一色の世界に突如として赤い色が灯る。
色が付いた水が湖面に落ちるように赤色は徐々に広がり、やがて赤い花の蕾となる。
蕾は徐々に大きくなり、花弁が一枚、また一枚と花が咲くようにめくれると、中に隠されていたものが露わになる。
「…………女の子?」
そう、それは人だった。しかもまだあどけなさが残る、少女と呼んで差し支えない見目麗しい女の子が一糸纏わぬ姿でいたのだ。
「えっ……ど、どうしよう」
いきなり目の前に裸の女の子が現れ、俺はどうしたらいいものかと戸惑う。
見てはいけないと目を逸らそうとするが、この空間内では俺の意思に関係なく体は自由に動かないし、目を閉じようと努めてもどういうわけか少女の姿が消えることはなかった。
裸の少女にどぎまぎしていると、少女の目がゆっくりと開いて目が合う。
クリっとした大きな瞳を持った少女が不思議そうに小首を傾げるので、俺はあたふたしながら必死に言い訳を並べる。
「あっ、いや……これはだね。別に見たくて見ているわけじゃ……」
慌てふためく俺に、少女は特に気にした様子もなく小さくかぶりを振ると、
「…………」
何事が呟く。
「えっ、ごめん。聞こえないよ」
だが、紡がれた言葉は余りにも小さく、果たしてそれが日本語なのかどうかもよく聞き取れない。
「ねえ? 何て言ったんだい。もう一度言ってくれないか?」
俺の問いかけに、少女は悲しそうに微笑んで静かにかぶりを振る。
どうやら俺の声も、彼女には届いていない様だった。
こうなるとどうやってコミュニケーションを取ったらいいのかと思っていると、
「…………」
少女が口を大きく開いてパクパクと開閉させる。
一体、何事かと思ったが、
「そうか読唇術か!」
少女の意図に気付いた俺は、目を凝らして彼女が伝えようとしていることを読み取ろうと試みる。
そうして読み取れた言葉は、
「ごめん……なさい?」
それは謝罪の言葉だった。
「えっ、それはどういう……」
少女に言葉の意味を問いかけようとするが、突如として抗い難い眠気が襲ってきて、俺は堪らずその場に膝をつく。
「うっ…………ああ…………」
必死に眠気に抗おうとするのだが、俺の意思とは関係なく瞼が下がって来て再び体が宙に浮くような浮遊感に襲われる。
意識を失う直前、少女の顔が今にも泣きそうだったのを見た俺は、何故だかわからないが、どうにかして彼女を笑顔にしてあげたいと思った。
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