7の33 光の四戦士
レオゴメスとの面会を終えたアデレちゃんは、少し精神状態が不安定になっちゃっていたので、その日は何も聞かずに一緒にお風呂に入り、一緒のベッドで暖かい光を盛り盛りで眠った。アデレちゃんと二人きりで眠るのは数か月ぶりだったので、なんだか嬉し恥ずかしな気持ちで抱きしめてあげた。
翌日、寝不足だったアデレちゃんと揃って寝坊すると、アルメオさんがやたら興奮して部屋にやってきた。お姉ちゃん発言の続きかな?
「ナナセ様っ!アデレード様のおかげで、昨晩レオゴメス様が国王陛下にすべてを自供しましたっ!事件が大幅に進展しましたよ!ナナセ様の言うとおり、オレが事情聴取なんてしなくて良かったです!」
「おおっ!すごいじゃん!アデレちゃんどんなテク使って吐かせたの?やっぱカツ丼?」
「えっ?お父様にはカツ丼だけで良かったんですのっ!?」
「ごめんなんでもない!とにかくホシはオチたんだね!」
アルメオさんの説明によると、ガリガリに痩せ細って起き上がることさえできなくなっていたレオゴメスは、寝転がったままベルおばあちゃんとアデレちゃんに上手く説得されたらしく、「生きてこの牢を出るのだ」と言いながら、今朝から必死に歩行練習を始めたそうだ。
「お父様、見る影もなかったですの。でも、そうやって目標を持って下さったなら、もうしばらく安心ですわ・・・よかった・・・」
「アデレちゃん、何だかんだ言っても、やっぱりレオゴメスのことが心配だったんだね。私もなんだか安心したよ」
さて、お父様の次はおじい様だ。
セバスさんは私とペリコが付きっきりで看病していた影響もあり少しは元気になってくれたので、アデレちゃんのお母様であるシャルロットさんとお手伝いさんの二人に声をかけ、気分転換で二泊三日程度のナプレ市の温泉旅行に無理やり行かせることにした。
お手伝いさんは王国一の使用人であるセバスさんと旅ができるということで、「こ、光栄ですっ!」と興奮していた。義理の隠し娘であるシャルロットさんも「ピストゥレッロ様にお会いできるのが楽しみだわ!」と、芸能人の追っかけのようなテンションだったので大丈夫だろう。
ピステロ様にはあらかじめペリコにお手紙を運んでおいてもらったので安心だ。何十年も王城で休みなく働き続けていたセバスさんには、ナプレ市の温泉でのんびりして心身ともに疲れを癒やしてもらいたい。アデレちゃんが出した有給休暇の正しい使い方だね。
・
王都でアデレちゃんとボケボケ過ごしていた翌日、イナリちゃんが獣化した状態で王宮の私の部屋の窓から乗り込んできた。っていうかここ四階くらいの高さだよね、イナリちゃんって壁を垂直に登っちゃえるんだ。あの足に発生してる青緑色のお皿おそるべし。
「光の四戦士の登場なのじゃ!かっこいいじゃろう!褒めるのじゃ!」
「何そのかっちょいい部隊名っ!褒める褒める!もみもみ」
光の四戦士とかいうどこかで聞いたことある部隊は、イナリちゃん、アルテ様、リアンナ様、アリアちゃんの四人組だった。ハルコがリアンナ様を背負い、アリアちゃんは赤ちゃん抱っこの紐でハル=ツーにくくりつけられ、一番重そ・・・ナイスバディなアルテ様が獣化したイナリちゃんにしがみついて王都までやってきたらしい。身体の小さなハル=ワンは相変わらず荷物持ちのようで、ほどなくしてこの部屋の正しい出入り口からゾロゾロとやってきた。
「ナナセ!わたくしたちも一緒に来たのよ!」
「このお部屋、懐かしいわ、アリアニカのお部屋はそのままなのね」
「ナナセおねえちゃん!あたしせんしになったんだよ!えっへん!」
そういえばこの部屋の前住人はリアンナ様とアリアちゃんだったっけね。ベルおばあちゃんの部屋はアリアちゃんが住んでいた頃と同じく、メルヘンチックなまま使っているので懐かしく思って当然だ。アリアちゃんはナゼルの町の孤児院にたむろしているイナリちゃんの影響を受けて無い胸を張ったエッヘンのポーズをしている。
これは教育上よくなさそうだ。
「イナリちゃんだけかと思ってたのにみんなで来ちゃったんだ!?」
「わらわ一人で来いとは書いてなかったのじゃ」
「確かに・・・」
さっそく全員からおかなすいた攻撃を受けたので、久々に行商隊直営の食材屋さんにやってきた。変わった食材をオススメしてくれるラヌスさんは行商に出ているようで、交代でプルトが店番をしていた。
「プルトじゃん!久しぶりだね!」
「おおっ!ナナセの姐さんっ!王都にいらしてたんっすね、お久しぶりっす!姐さんの考えたリバーシってゲームは、移動中に重宝しました!在庫も全部売れっちまいましたよ!」
「やったぁ、あれがどんどん売れてくれると学園に通ってるアデレード商会の子たちのお小遣いになるから助かるんだよねー」
「へっ?あのボードゲームは子供が作って売ってるんっすか?」
「そうだよー、せめて学園の食堂でおいしいお昼ご飯を食べられるようにって始めたんだ。なんかすでに大人の職人より儲かっちゃってるみたいだけどっ!」
「さすがナナセの姐さんとアデレード様っす!」
そんな話をしながら食材を見て回ると、春らしい彩りのいい野菜がたくさん並んでいた。これもあれもと大量の野菜を買い込んでから急いで部屋に戻ると、春野菜の小麦麺に生ハムを添えたものを大量生産してみんなで食べた。なんだか急に大所帯になったにもかかわらずセバスさんもロベルタさんもいないので、私がひたすら食事を作り、ひたすら食器を片付け、慌てて各部屋の掃除をしながらお風呂を沸かしていると、さすがに見かねたアデレちゃんが一緒に手伝ってくれた。今日からしばらく二人で侍女見習いだ。
その日の夜は一悶着あった。
誰が私と一緒に寝るかの騒ぎになり、しょうがないのでみんなに“じゃんけん”を教え、最後まで勝ち残ったのはなんとアリアちゃんだった。私の部屋にはアルテ様とアデレちゃんとハルコと獣化イナリちゃん。セバスさんが不在なので、その部屋にはベルおばあちゃんとペリコとハル=ワンとハル=ツーとリアンナ様。そして私はアリアちゃんのメルヘン部屋で二人きりで寝ることになった。
勝ち残ったのが無邪気に喜ぶアリアちゃんだったこともあり、さすがにみんな文句を言えずにそれぞれの寝床へと消えていった。私は全身全霊全力でお姉ちゃんぶるため、ベッドに横になってアリアちゃんを腕枕しつつ頭をナデナデしながら暖かい光で包んであげる。
「ナナセおねえちゃんのおてて、あったかーい」
「ふっふっふっ、お姉ちゃんの暖かい光は【シャイニング・フィンガー】って言って、どんな敵でもやっつけることができる必殺技なんだよ!」
「わあぁ、しゃいにんひんがー、かっくいい!あたしもせんしになったから、ひっさつわざやりたい!」
「だよねだよね!やっぱ必殺技だよね!」
「ナナセおねえちゃーん、あたしのひっさつわざ、つくって!」
「お、おっ、お姉ちゃんに任せなさぁーいっ!」
えっと、アリアちゃんは指先から可愛い光の玉が出るからぁ・・・
「なになに?わくわく」
「えっとぉ、えっとぉ・・・そうだ!」
翌朝、私の腕枕から元気に飛び起きたアリアちゃんがテケテケとリアンナ様に駆け寄ると・・・
「おかあさま!おかあさまっ!あたしのせんとうりょくは、ごじゅうさんまんなんだって!わーい!」
「アリアニカ、何のお話かしら?ナナセ様に眼鏡で見てもらったの?」
「【スーパー・ノヴァっ!】えいっ!」
アリアちゃんの指先から可愛らしい光の玉がぽよーんと発射され、リアンナ様を優しく包み込んだ。それを見ていたイナリちゃんが大はしゃぎで、一緒になって光の戦士の必殺技こっごを始めてしまった。
アリアちゃんの教育上よくないのは私も一緒だね。
・
「──・・・ということで、バルバレスカの悪魔化をなんとかしなきゃ話が進まないんだ。私はたぶん近寄るだけで暴れちゃうと思うから、イナリちゃんに任せたいんだけどいい?」
「見てみなければわからぬのじゃ」
「そりゃそうだよね」
数日してから獣人の姿に戻ったイナリちゃんを引き連れてブルネリオ王様に会いに行く。私はすっかり忘れているけど、イナリちゃんは神様であることを隠すことなく公表しているので、謁見の間にいる全員がうやうやしい態度で接していた。
バルバレスカは王妃様なので、さすがに地下牢に閉じ込めておくこともできず、王城のてっぺんにある小さな部屋に、幾重にも鍵をして閉じ込めているらしい。なんか囚われの姫って感じ。
「マセッタ様が同行してくれるんですか?」
「ナナセ様がいれば問題ないとは思いますが、万が一のことがあった場合は私が対処いたします。アルメオでは不安だわ」
「そりゃ心強いですけど、なんかアルメオさんの評価って高いのか低いのかよくわかんないですね。こないだも「オレが事情聴取しなくて良かったです!」とかって嬉しそうに報告しにきたんですよ。普通はプライドに傷がつくと思うんですけど・・・」
「アルメオは地位や名誉にまったく興味を示さないわね、心の底から好青年だと思うわ。ナナセ様、お姉ちゃんになってあげなさいよ」
「あはは、検討しときます」
王城のてっぺんはけっこう高い。いかにも中世のお城っぽい石畳の螺旋階段をぐるぐるぐるぐると何周も登ると、ようやく出入り口らしき光が見えてきた。
私はあまり近づくべきではないので、ちょっと手前の階段に腰を掛けて待つことにして、マセッタ様とイナリちゃんの二人だけでバルバレスカが幽閉されているその部屋へ入って行った。
あとがき
ナナセさん、かっちょいい詠唱あきらめきれてないんですね。
さて、みなさまの年末年始のお休みはいつからいつまでなのでしょうか。
連休恒例の連続更新を12月29日~1月3日まで行います。
一気に結末まで走り抜けますので、どうぞご期待下さい!
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