7の13 隠し事はできない



 結局、長旅から帰ってきたばかりで疲れていたその日は、モルレウ港で仮眠しただけの寝不足状態だったので夜ふかしなどできず、なぜかゴブレットとペリコとレイヴの巣になっていた私のベッドへ吸い込まれるようになりながら一緒に眠った。


(アルテ様とイナリちゃん仲良くおしゃべりしてるかな・・・ベールチアさんとアデレちゃんも仲良くおしゃべりしてるかな・・・zzz)



 翌日、ぼんやりと目が覚めると、横にアルテ様がいたので頭をからっぽにしてむぎゅりと抱きつく。優しく頭をなでなでしてくれたのですぐに元気が出てきた。今回の旅は私と一か月くらい離れていたけど、アデレちゃんがいつも一緒にいてくれたおかげでアルテ様は不安定にならずに済んだそうだ。私もイナリちゃんとベールチアさんと抱き合ってハルコの高級羽毛布団に潜り込んでいたから寂しくなかったけど、なんだか浮気している旦那さんような気分になったので余計なことは言わずに黙っておいた。


「アルテ様おはようー、イナリちゃんとたくさんお話できましたか?」


「ええ、とても可愛らしい神様だったわ。でもね、日が暮れた頃にアデレさんとベールチアさんが二人とも嬉しそうに血まみれで神殿にやって来たから驚いてしまったのよ」


「あはは、刃と刃で語り合っちゃったんですね」


「わたくしとリアンナ様の治癒魔法ではすべて治せなかったの。でもイナリ様が「わらわに任せるのじゃ!」と言って傷一つ残らず治してくれたのよ、わたくしも光魔法の修行を頑張らなくっちゃ」


「そりゃあイナリちゃんはたぶん世界一光魔法が上手いはずですからね。私も色々と教わったんですけど、なんかいっつも魔法で遊ぶ感じになっちゃってあんまり効果は上がってないんです、ハハハ・・・」


「それでね、ハルピュイアたちが眠ってからベル様も神殿にいらしてね、今回のナナセの旅のことを全部聞かせて下さったのよ、ハルピュイアの羽根の中でみんなで仲良く抱き合って眠っていたって聞いて、わたくし羨ましくなってしまったわ、これはやきもちかしら?」


 浮気はバレていたようだ。


「あ、あ、アルテ様も明日からハルコと一緒に寝ましょうね!」


「そうね、とても楽しみだわ。それとね、アデレさんはベールチアさんが本当の母親だって知って、とても喜んでいたのよ。アデレさんを優しい光で包んでいる姿を見て、わたくし涙が出てしまったわ」


 そっちの隠し事もバレてしまったようだ。


「アデレちゃんがショックを受けるんじゃないかと思って、それ一応隠していたんですけど・・・」


「ベル様は困っていたけど、イナリ様が嬉しそうに教えて下さったわ」


「そうなんですね・・・私の苦悩はなんだったんだろう・・・」


 この後、ロベルタさんの朝バーガーをもぐもぐしてから、みんながたむろしていると思われる神殿にやってきた。どうやら私はかなりの寝坊をしたようで、すでにほぼ全員が集合していた。


「姫ぇ、わらわはもうお嫁に行けないのじゃぁ・・・アルテミスに、アルテミスにぃい、のじゃー」


「ちょっとアルテ様っ!イナリちゃんに何したのっ!?」


「わからないわ、素敵な九本の尻尾を一本づつ丁寧にモミモミしていたら気持ちよさそうにしていたので、さらに一生懸命もんで差し上げたくらいかしら?」


「それがダメなのじゃー!」


「ごめんなさい、わたくし獣人のことは何も知らなくて・・・」


 アルテ様がしおらしくしながらも手をワキワキさせていたのを見逃さなかった。


「あはは、なんかだいたいわかりました。アルテ様はたぶん気にしないでいいと思いますよ。モミモミ」


 隣接する孤児院の様子を見に行くと、すっかり歌のお兄さんが板についたベルモがベールチアさんにペコペコしているのを見かけた。そうだった、ベルモはベールチアさんと一緒に襲ってきたんだ。


 なんでもベールチアさんは、サッシカイオのお嫁さんであるリアンナ様と娘のアリアちゃんをとても大切にしていたそうで、昨日は三人でけっこう話し込んでいたらしい。アリアちゃんは王宮に住んでいた頃の知ってる人に会えたことを純粋に喜んでいたそうで、ベールチアさんの方もサッシカイオを連れて逃亡してしまったことをリアンナ様に謝罪できてスッキリしたと言っていた。


「ナナセの姐さん!おはようございます!ベールチアさん、なんか姐さんみたいな優しい雰囲気になってるじゃないっすか!」


「そうですわ、アイシャお姉さまはナナセお姉さまにそっくりですの」


「なっ・・・アデレちゃんはベールチアさんのことをアイシャお姉さまって呼ぶことにしたの?」


「お母様と言うよりも、なんだかお姉さまって感じがしますの。あたくしにはお母様が二人もいて、お姉さまも二人もいて、とってもお得な気分ですの!」


「ナナセさん、私も感謝の気持ちでいっぱいです。何十年と苦悩の日々を過ごしていたのが嘘のように、今は晴れ晴れとした気分です。これがまさしく闇が晴れた状態ではないでしょうか」


 アデレちゃんは妙に前向きなところがあるけど、今回もそれがいい方向に出たようだ。ベールチアさんはずっと心に引っかかっていたアデレちゃんにようやく会えて、悪魔化を完全に封じ込めることができたようだ。私も一つ悩みが減ってスッキリしたよ。


「そっか、良かったぁ。じゃあさ、私もアイシャ姫って呼ぶことにしますよ。『ベールチア』って光を消しちゃうような意味なんですよね?次は姫君としての闇を晴らしてベルシァ帝国に光を当てましょう!」


「帝国ですか・・・失念していました」


「アイシャお姉さまをここに連れてきて下さって、本当にありがとうございますの。やっぱりお姉さまはとても頼りになりますの」


「私も二人がすぐに仲良しになってくれてうれしいよ。剣の稽古はどうだったの?嬉しそうに血まみれだったって聞いたけど・・・」


「アイシャお姉さまは剣の腕がすごすぎますの、範囲がとても広い敵全体への通常攻撃とともに、二本の剣で素早く二回攻撃しますの!」


「あはは、そういうお母さん、他にもなんか知ってる気がするや」


 そんな話をしていると、可愛らしい小さな光を人差し指の先に発生させたアリアちゃんがテケテケと走り寄ってきた。


「ナナセおねえちゃん!あたしもおかあさまのひかりできるようになったんだよ!みてみて!」


 アリアちゃんは私に向かって指をぷいっと一振りし、可愛らしい光の玉をぽよーんと飛ばしてくれた。効果はアイシャ姫と一緒くらいだろうか?ほんのりと暖かく、なんだかとても優しい気持ちになった。


「おい姫!アリアニカとアデレードはわらわが光魔法の回路を開いてやったのじゃ!はやく褒めるのじゃ!」


「すごいよ!さすがイナリちゃんだよ!この際だから町の他のみんなも治癒魔法を使えるようにしちゃってよ!」


「それは無理なのじゃ。アリアニカはリアンナの光をいつも浴びていたからできたのじゃ。アデレードは言うまでもないのじゃ」


「なるほどぉ・・・ありがとね、さすがイナリちゃんは神様だよ!」


 イナリちゃんがふんぞり返って無い胸を強調している。なぜか孤児に大人気のイナリちゃんは、すごいすごいとみんなにたかられて鼻高々になっている。このまましばらく孤児院に放置でよさそうだね。


「さて・・・」


「そうですね・・・」


 私はアイシャ姫の目を見ると、それが国王陛下へ引き渡しに行くサインであったことを理解していた。間違いなく地下牢に入れられてしまうことになるし、オルネライオ様との裁判がどれほど長引くかもわからない。つまり、アデレちゃんとアイシャ姫は、せっかく母娘なのか姉妹なのか、ちょっと不思議な関係を築くことができたのに、早くも年単位のお別れとなってしまうかもしれないのだ。


「アデレちゃん、私たちにはあまり時間がないの、理解してくれる?」


「・・・お姉さまは残酷ですの、ぐすっ」


「アデレード、私はナナセさんを信じています」


「あたくしだって信じていますわ!でも・・・でも・・・」


「オルネライオ様に先手を取らせないためにも必要なことなの」


「・・・えぐっ」


「アデレちゃんがどこまで知ってるのかわかんないけど、とりあえず王都までは一緒に来てもいいからさ。そうだ、私はセバスさんのお話を聞きに行くから、アデレちゃんはケンモッカ先生のところへ行って、できるかぎりたくさんの情報を集めてくれる?」


「あたくしでもお手伝いすることができますの?ひっく」


「ケンモッカ先生は私が行くよりアデレちゃんが行った方がいいかもしれないね。もしかするとセバスさんもアデレちゃんが話を聞いた方が色々と話してくれるかもしれないし、あれ?レオゴメスもアデレちゃんが行った方がいいのかな?とにかくそんな状況なの今」


 よくよく考えてみたら、私よりもアデレちゃんが動き回った方が真実に近づけるかもしれなかった。ぽっと出の田舎の村娘の私ではなく、血縁関係があるかもしれないアデレちゃんに動いてもらおうか。


「なんだかとても責任重大ですの・・・」


「だよねぇ・・・」


「ナナセさん、アデレードとナナセさんが一緒であれば、それは倍ではなく、何十倍の力になるのではありませんか?救って頂こうとしている私が言うことではないかもしれませんが・・・二人で一緒に訪ねて行ってみてはどうでしょうか?」


「そっか、そうだよね。私もアデレちゃんが一緒にいてくれた方が暴走しないで済むかも。私さぁ、なんだかカチンと来ると自分でも何言ってんのかわかんなくなるほどの暴言を吐いちゃうんだよね・・・」


「お姉さまは王国で一番おっかない女性の上位四人ですから暴走すると危険ですの」


「ちょっとっ!」


 こうして探偵ナナセはアデレード助手を従えて、いよいよ殺人と逃亡の容疑者アイシャール姫を王城へ連行することになった。





あとがき

諜報員に剣を投げつけて捕まえたり、国王陛下の御前で父親を怒鳴り飛ばしながら往復ビンタしたり、悪魔化してしまった王妃殿下を美しい上段回し蹴りで気絶させちゃったりと、王城内の役人にとっては間違いなくアデレードさんもおっかない女性の上位に喰い込んでいることでしょう。


ここに来て主要キャラの名前変更、ナナセさんはずっとベールチアさんと呼んでいたので少し混乱する方がいらっしゃるかもしれませんが、アイシャール姫にはけっこう強くスポットライトを当てているので問題ないですよね……どうぞお許し下さい。


さて、夏休み大量更新はここまでで、次話から中5日のんびり更新に戻します。

おかげさまでかなり多くのPV、ハート、作品のフォローを頂きました。本当にありがとうございます、これからも頑張って書けそうです!


それはそうと、8月31日が終わっていってしまう物寂しさは、いくつになっても変わりませんね。

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