6の18 神殿合宿(前編)
「ただいまー!アギオル様、小型ハルピュイアたちの服と、あとアクセサリを作りたいので、どこか作業できる場所をお借りしていいですか?」
「それでしたら地下に工具室がございますから、そちらをご自由にお使い下さい。マリア=レジーナ、案内してさしあげて下さい」
色々な買い物を終えて帰ってくると、さっそくアギオル様に許可をもらって地下の工具室にやってきた。ここには細工道具やら裁縫道具やら、他にも農具や建築作業で使いそうなものまで何でも揃っていて、かたわらにはけっこう広い作業台みたいなものがあった。まずはそこに布を広げる。
「黒い塗料で適当に模様を付けます」
「ほほう、これは動物のような模様の服になりそうですね」
「その通り!これはトラ模様ですっ!」
私が作っているのはトラ模様のビキニだ。黄色い布に黒い塗料で適当に線を引いていく。私は服なんて作ったことがないで完成度は低そうだが、上は後ろで縛るだけ、下は横で縛るだけの形にちょきちょきとカットしてからまつり縫いだか、かがり縫いだかをして補強する。こういう作業は小学校の家庭科の授業以来だが、自分で言うのもなんだが下手くそだ・・・マリーナさんが手伝ってくれている方は早くて綺麗なものが完成している。こんなことになるならアルテ様にお裁縫を教わっておけばよかった。
けっこう布が余ったので、それを使って鳥の脚部分を隠すようなレッグウォーマー的なのものも作ってあげて完成した。
「あはは、私の方は時間かかったわりに完成度低いですね。マリーナさんはとても器用ですねぇ、やっぱり王国の護衛侍女っぽいです」
「お褒めいただいて光栄です。神殿では裁縫も頻繁に行いますので、嫌でも慣れてしまうものなのですよ」
次は貝殻に数字を入れて行く。ただ書けばいいと思ったが、それだと塗料が簡単に落ちてしまいそうだったので、細工道具の彫刻刀みたいなやつで削ってから、その溝に塗料を流し込むことにした。
「これは私の方が早くて綺麗ですね!同じようなネックレスを何個か作ったことがあるんですよ!」
「素晴らしい完成度ですね、私どもはアクセサリとは無縁の生活を送っておりますもので・・・」
神殿の人は装飾品禁止なのだろうか?なんか禁欲生活みたいな印象もあるが、マリーナさんの場合は神様に近いところで働きたいと自分からやってきたような意志の強い人なので関係ないだろう。
なんやかんやで一日仕事になってしまった。完成した服とネックレスを屋上へ持っていくと、ベルおばあちゃんが人族の世界のマナーなどの講義をしていた
「すごい!なんか学園の教室みたい!これ黒板とチョークじゃん!」
「グレイス神国は神殿で子供の教育に力を入れておるそうなんじゃよ、書いて消せる板は便利じゃのぉ」
ベルおばあちゃんはふわふわ浮きながら黒板に文字を書き、魔法を使う杖を指示棒みたいにして、今日はハルピュイアたちにお金の数え方や暦なんかのルールを教えているようだ。なんか微笑ましい。
キリの良さそうなところで私は教壇に立ち、ハルピュイアたちに服とネックレスを配布する。年齢順にしようと思ったが、私には全員同じように見えるので自己申告で列を作ってもらうことにした。
「いいですかー!みんなは人族と同じように暮らして行くために、まずは服を着てもらいます。みんなの綺麗な身体は、今後は人族の前では隠さなきゃ駄目ですからねー!」
「「「ナナセせんせ、わかった」」」
順番にトラ模様のビキニを着せてあげてから、飛ぶのに邪魔にならないように、わりとタイトな感じでネックレスを首にくくりつける。
「けっこう言葉もうまく話せるようになってきたねぇ。みんなは人族と同じように暮らしてもらいたいので、今日からハルピープルと名付けます!一番はハル=ワン、二番はハル=ツー、その次は・・・」
なぜそのように命名したくなったのかはよくわからないが、名前をもらった子たちはすごく嬉しそうに、さっそく自分の名前を言えるように何度も何度も間違いながら練習していたのが可愛い。
「ナナセ、ハルコ、も、ネックレス、ほしい」
「あそっか。ハルコにも何かあげないとねぇ・・・そうだ!ブルネリオ王国の金貨で作ってあげる!ちょっと時間かかるから明日ね!」
「姫、わらわにも作るのじゃ、ハルコとお揃いがいいのじゃ」
「あはは、わかったよ。マリーナさんにも作ってあげよっか」
「私は聖職者として・・・」
「まったくお固いなぁ。ねえねえアギオル様ぁ!土地の守り神様とお揃いの首飾りなら、巫女の人にプレゼントしてもいいですよね!」
「それは素晴らしいことです、わたくしも欲しいくらいですよ!」
「じゃあアギオル様にも作ってあげますっ!そうだ、ベルおばあちゃんも一つくらいネックレスしてみようよ」
翌日、再びマリーナさんと街まで買い物に行き、質の良さそうな皮を買ってきた。そのまま工具室へ向かい、ブルネリオ王国の純金貨にゴリゴリと穴を二つ開けて、左右から純金貨を引っ張るような感じのチョーカーを五つ完成させてみんなに配った。
「姫!気に入ったのじゃ、可愛いのじゃ、ありがとうなのじゃ!」
「ハルコ、みんな、と、おそろい、うれしい」
「わしもこのようなものは付けたことがないので嬉しいのじゃよ」
「ナナセさん、まさか守護神様とお揃いの装飾品を身につけることができようとは、夢にも思っておりませんでした。深く感謝致します!」
どうやらアギオル様にも好評のようだ。あまり表情の無い感じのハルコが笑顔に見えるのが嬉しい。マリーナさんに至っては顔を真っ赤にして若干震えている。そんなに嬉しいの?
「ななナナセ様、わわ私ごときがっ、イナリ様とっ、おおお揃いなどとっ、恐れ多いのではありませんでででしょうかっ!」
「あはは、そんなこと言ってマリーナさんすっごく嬉しそうじゃないですか。別にいいでしょ?イナリちゃん」
「当然なのじゃ!マリーナはいつも泉に貢ぎ物を持って来てくれていたから好きなのじゃ!」
「よかったね!マリーナさんっ!」
「はいっっ!ありがとうございますっ!」
普段落ち着いた感じのマリーナさんだが、頬を染めた子供のような笑顔で、イナリちゃんとお揃いのチョーカーを大切そうに両手で握っていた。いいよね笑顔、私も自然に笑顔になっちゃうよ。
・
翌日、私はようやくイナリちゃんに光魔法を教えてもらうことになった。本来の目的を見失いかけていたが、このために遠い異国まで空を飛んでやってきたのだ。
「姫は回路などほんのわずかしか開いておらんかったのじゃ」
「ええっ!それじゃ今まで使ってた治癒魔法は何だったのぉ?」
「知らぬのじゃ、おそらく姫の特異な体質によって集められた魔子を強引に操作しておったのじゃ」
どうやら私は、ちゃんと使えていると思っていた治癒魔法は魔子が集まってくる体質によって力技でやっていたみたいだ。アルテ様の真似してやっている暖かい光を実演して見せてみると、光子が治癒魔法と同じような働きをすることで偶然か必然かわからないが、結果として治癒の効果があったらしい。
「この暖かい光は感情に絡みついているらしいんだけど、イナリちゃんもできるのかな?ちょっとハルコにやってみてよ」
「きっと姫とアルテミスとやらのオリジナル魔法なのじゃ、練習してみるのじゃ、わらわも使ってみたいのじゃ」
「大丈夫、人族のリアンナ様って人も娘さん相手に練習して使えてたから。自分が大好きな相手で練習するといいと思うよ」
「わらわが人族なんぞに負けることなどないのじゃ!」
「そういえば他にも見てもらいたい魔法があったんだ。ねえねえ、これはこれは?光魔法っぽくないんだけど。えいっ!」
── ビリビリーっ ──
「すごいのじゃ!姫は雷を生めるのじゃな?」
「これもアルテ様が見せてくれたのを真似してやってるんだけど、何度も使ってるから威力も増してるんだよ。でも風魔法かもしれないし、光魔法かもしれないし、よくわかんないの」
「光魔法は光や音や、あと一部の水の動きなどの“波形”を作るものを操作できるのじゃ。姫が放った雷もその部類じゃと思うのじゃが、空気を魔子が摩擦しておるようにも見えたのじゃ・・・これもおそらく姫とアルテミスのオリジナル融合魔法なのじゃ」
「融合かぁ、なるほどね。なんかイナリちゃん急に頭いい人みたいになったね。確かに光は波形だし電気も電波にできるし。音を操作できるってことは、私の眼鏡の原理も光魔法が使われているのかなぁ?」
「姫は失礼なのじゃ、わらわはちゃんと紡ぎ手やってるのじゃ。その眼鏡は創造神様が作ったものなのじゃよな?この世界の魔法だけでは説明がつかぬ絡繰りを使っていそうなのじゃ」
「確かに・・・ガラス通すと文字が変わるとか説明できないよね。ねえねえ、イナリちゃんが泉の住処を隠してたのはどういう魔法なの?たぶん幻影を見せてるんだろうけど、私も使えるようになるかな?」
「なにを言っておるのじゃ。姫はすでに幻影魔法を使っておるのじゃ」
「ええーっ?私が?もしかしてみんなに見えてる姿と本当の姿は全くの別人で、実は死霊みたいな世にも恐ろしい存在なの?」
「違うのじゃ。姿は見たままちっこい小娘なのじゃ。ふむぅ・・・どうやらその首輪の宝石で口の動きが自然に見えるようになっておるようじゃ。眼鏡も首輪も両方とも奇妙な絡繰り道具なのじゃ」
「おお!なるほど!私まったく気付いてなかったそれ!」
私は日本語をしゃべっているが、このチョーカーのおかげで声帯をどうにかこうにかして相手に通じる言語が発声されている。よくよく考えてみたら口の動きだけ日本語だったらおかしいよね。創造神装備のチートさを改めて思い知ったよ。
「泉にかけておった幻影魔法は見ている者と逆側を映し出すように見せかけておるのじゃ。設置型の魔法じゃから宝石を使ってるのじゃ」
「ふむふむ。ってことは魔子さえあれば、例えば自分の背中側の景色を見ることもできるの?えっと、幻影魔法が映し出すべき景色を、私の目の前に映し出して、私が見るの。なんか説明むずいな・・・」
「姫は変わった事を考えるじゃ。うーん・・・うーん・・・そうじゃ!」
イナリちゃんの頭上に電球みたいな光が灯り、人差し指を立て「ひらめいた!」のポーズをして嬉しそうな顔をしているのが可愛い。
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