6の17 魔物の巣
住人奪還すべく少し急いでハルピュイアの巣までたどり着くと、そこには小型ハルピュイアが何十匹もいた。ハルコがカタコトでなんかの号令を出すと、私たちから離れた位置へ移動して整列した。この子たちも一応言語は理解できるのかな。
「人質みたいになってる人、救助に参りました。もうハルピュイアと話はついているので安心ですからね」
「そうなのか・・・じゃあ俺たちは神都に戻るのか」
連れて行かれた人は話どおり男性三人で、べつにロープで縛られたりしているわけでもなく、文化的とまでは言わないが普通の生活をしていたように見える。
「あれ・・・なんかここにいるの嫌ではなさそうですね」
「ああ、仲良く暮らしていたぜ。俺は独り身だからそう思うかもしれねえけど、こいつは嫁さんと子供が心配だそうだ」
「・・・まあなんだ、ここでの生活のことは俺たちだけの秘密ってことで」
「・・・そうだな、神に誓うぜ」
なんかバツの悪そうな顔をしていたので、私は徹底的に問い詰める。というか、だいたい予想はできているのだが、本人たちの口からしゃべらせないと意味がない。
すると、リーダーっぽい人が重い口を開いて説明してくれた。
「────…‥・・・というわけだ」
「つまり、ここでの生活は酒池肉林であったと」
「あんた若いのに話が早いな、ハルピュイアたちは決して俺たちに危害を加えるようなことはなく、どこからともなく餌を運んできてくれていたんだぜ。さすがに生肉は食えねえから俺たちで焼いてたら、ハルピュイアは手がねえだろ?だから火をおこして肉を焼くってことをしたこと無かったみてえなんだ。それで、焼いた肉を一緒に食うようになってからはずいぶんと仲良くなってな、その・・・なんだ、若い娘さんに言うのもアレなんだが・・・夜の営みの方もけっこう積極的でな、人族の女みてえに、いきなりキレたり、謎の不機嫌になったりしねえし、正直言ってここは過ごしやすかったぜ」
この世界の人は、だいたいが腰にサバイバルナイフを携帯している。ハルピュイアがその爪で獣を捕まえてくれば、みんなでさばいて焼いて食べようとするのは当然のことだろう。
「なんか、わかるような気がしてしまう自分が悲しいです・・・」
「あとよぉ、あの羽根にくるまって眠ると、すげえ柔らかくて暖かくて、そりゃもう夢見心地ってやつなんだぜ」
「なにそれ私もしてみたい!今日はハルコと一緒に寝る!」
「ナナセ・いっしょ・ねる・うれしい」
小型ハルピュイアも多少の意思疎通ができるみたいだし、どっかから餌を持ってきてくれるし、たぶんエルフが元になっているからか顔や身体は全員とてつもなく美しい女性だし、超高級羽毛布団付きだし、いい事ずくめだ。妻帯者に関しては気の強い奥さんに謎の不機嫌で毎日キレられたりしていたのだろうか?私も最近はキレやすい若者なので気をつけなきゃ・・・
「でもまあ、さすがにここに住むわけにも行かねえよなぁ」
「なんかハルコの話によると、ハルピュイアは絶滅の危機に瀕してるみたいなんですよ、だから人族と交配して子孫を残そうとしていたみたいですね。実際その交配が成功するとは思えませんが、独り身の方は別に好きにしてもいいんじゃないですか?神殿長からは許可をもらえると思いますよ、私が保証します」
「そうなのか!?あんたいったい何者なんだ?神都じゃ見ねえ顔だよな、なんか変わったばあさん連れてるし」
「私はブルネリオ王国ナゼル町長のナナセです。山の泉で土地の守り神様と知り合ったんですけどハルピュイアを躾けてくれるそうなので、もう連れ去られたりしないですよ、むしろこれから共存の道を模索していくところなんです」
「わしゃ妖精族のベルじゃ、ナナセと一緒に旅しておる」
「町長ってことは・・・王国のお姫様だったのかよ!?こりゃ失礼な態度をとって申し訳ねえです。助けに来てくれたことのお礼も言ってなかったっすね!ありがとうございます!ナナセ姫様とベル様!」
「あはは、そんな立派な感じじゃないので気にしないで下さい。ひとまず神都へ戻りましょうよ、奥さんがいる人に関しては絶対内緒にすることを大人の約束しますから安心して下さいね」
こうして私たちは小型ハルピュイア集団を引き連れて神殿まで戻ってきた。連れ去られた人たちにはすでにツガイっぽくなっている相手がいるようで、その相手に肩のあたりを掴まれて飛んで戻ってきた。
神殿の屋上に到着すると、お供え物に囲まれたイナリちゃんが、どこからともなく運ばれてきた柔らかそうなソファーにペリコと並んで腰を掛けており、果実らしきものをもぐもぐしていた。
「ただいまぁー!なんか巣は平和な感じでしたよ。連れ去られた人たちは明日にでもまた神殿に集合してもらいましょうよ」
「そうですね、連れ去られた恐怖と極度の緊張でお疲れでしょうから、癒やしを与えます──【ディ
「「「ありがとうございますアギオルギティス神殿長!ナナセ姫様!」」」
「なっ!何ですかアギオル様!そのかっちょいい詠唱っ!」
・
私はマリーナさんと一緒に解放された街にお買い物にやってきた。
「なんだかナプレ市に似ていますねぇ、やっぱ港があるから魚介類が豊富そうです」
「ナプレ市というのはナプレの港町でしょうか?」
「そうですよ、町から市に昇格したんです。ナゼルの町っていうのも前身はゼル村なんです。ひょんなことからゼル村の村長さんと結婚することになってしまって、それでゼル村を引き継いだんです」
「ナナセ様は変わった経緯をお持ちですね。ゼル村の村長は王都でも名高い方であったと記憶しておりますが」
「とても素敵な村長さんでしたよ、チェルバリオ殿下。私は結婚したと言っても次の日に亡くなってしまったので、皆さんが考えるような感じの夫婦とは違うんです」
「ナナセ様を妻にとおっしゃる方は大勢いるでしょう」
「あはは、まだ未成年なのでしばらくはお断りですね」
奇妙な世間話をしながら港の近くまでやってきた。この数日間で昼夜逆転していたせいもあり、さっそく開店しているお店は少ない。ひとまず雑貨屋さんみたいなところへやってきて欲しい物を購入する。
「くーださいなっ!」
「いらっしゃい、おやマリア=レジーナ様じゃありませんか、神殿がハルピュイアを説得して下さったと聞きましたよ、ありがとうございます」
「いえ事態の収拾をして下さったのは、こちらのブルネリオ王国の王族ナナセ様ですよ、驚いたことに泉から土地の守護神様を神殿までお連れして下さったのです!もう少し状況が落ち着きましたら民の皆さまの拝謁も行いますから!」
「そりゃすごい!守護神様が神都に降りてきて下さったのは何百年ぶりなんじゃないのかい?まさか生きてるうちにお会いできるチャンスが来るなんて思わなかったよ!ありがとねナナセ様!」
「えへへ。今日は布と塗料をたくさんと、あと丈夫なヒモでできたネックレスを買いに来たんです。アクセサリの部分は字が書けるような綺麗な貝殻が付いてる感じがいいんですけど、そんなのありますか?」
「ネックレスなら鎖の方がいいんじゃないのかい?」
「けっこう運動量が激しそうな子に付けるので、ヒモの方がいいです」
「じゃあ麻のヒモを好きなように切って使うといいよ。貝殻はうちじゃなくてアクセサリ屋に行った方が良いねえ」
「わかりました、じゃそれ下さい!あ、王国の金貨って使えますか?」
「本当なら両替屋に行ってもらわなきゃなんないけど、ナナセ様は神都の恩人さんみたいだから、あたしんとこで少し両替してやるよ!」
「助かります!ありがとうございますっ!」
この街でそんなにたくさん買い物するわけでもないので、雑貨屋さんが両替してくれたお金で残りのお買い物をした。ここで買った布は当然ハルピュイアたちの服だ。腕が羽根になっているので袖を通すような服を着ることができない。やってみないとわからないが、おそらくビキニみたいな感じになると思う。
アクセサリ屋さんで買った綺麗な貝殻は小型ハルピュイアに数字を刻んだネックレスをかけてあげようと思う。同族同士なら違いがわかるのかもしれないけど人族から見ると全員同じに見えるからしょうがない。木の板でかっこいいドッグタグみたいなのを作っても良かったが、エルフ風の美人さんが多いので可愛いアクセサリにするのだ。
次に来た食材屋さんでは米と大豆を大量に買い込んだ。これは油揚げを作って、イナリちゃんへの貢ぎ物を大量生産しなければならないので大変だ。私はまだ自力で豆腐を作ったことがないので何度か失敗してしまうと思うが、そしたらまた豆腐ハンバーグのようなものでも作って振る舞おう。
「ナナセ様は買い物がお上手ですね、とても王族とは思えません」
「あはは、私は王族成分より商人成分の方が強いんですよ。村長さんが私にゼル村を任せるって理由も、他に村の資産を任せられそうな人がいなかったからっていうのもありましたから」
「なるほど、イグラシアン皇国は民だけでなく商人までも金銭のやり取りがずさんなので、私が初めてブルネリオ王国の学園にやってきた時は、王都の商店には色々と驚かされました」
「へえー、そういう国柄なんですかね?」
「一流の商人を目指しているような者は、みな王国に移住することを夢見ていますよ。ケネス=モッカ様やアルレスカ=ステラ様は商人のパイオニアと言われていて憧れの的なのです」
「ケネス!!??それってケンモッカ先生のことですかっ?」
「そうですね、王都で住みやすいようにケンモッカ様と名乗っておられるようです。私は魔道士志望で学園に通いましたが、ケネス=モッカ様の授業を受けられたことは良き思い出になっております」
そういえばシャルロットさんがケンモッカ先生は皇国の出身だって言ってたっけ。お寿司屋さんのレセプションの時に不仲だったはずのレオゴメスと一緒にやってきていたのは、やっぱり皇国スパイのことと何か関係があるのだろうか?そもそもアデレちゃんはケンモッカ先生が皇国出身だということを知っているのだろうか?
「ナナセ様、難しい顔をされているようですが。私なにか失言をしましたでしょうか?申し訳ありません・・・」
「あ、私、ケンモッカ先生のお孫さんと仲良しなんですよ。その事知ってるのかなあ?って考え事してました、すみません」
また一つ、戻ったら確認しなければならないことが増えてしまった。
あとがき
最初はハルピュイアたちが神都から酒樽や調味料なんかをかっぱらってきて、文字通り酒池肉林な感じで、連れ去られちゃった住人とかなり楽しくやってる様子にしていたのですが、なんかやっぱりドロボー行為はボツにしました……
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