3の7 王都で知り合った子供たち
「ルナ君はどっか行きたいところある?」
「ぼくは武器の修理ができるお店を探したいです」
夕方まではけっこう時間がある。私とルナ君は行ってみたい場所がバラバラだったので、それぞれ自由行動することにした。
「私は学園のあたりを見てみたいから、夕方に西の門で待ち合わせしようか。街の中でペリコに乗っちゃ駄目だよ」
「はいわかりました、お姉さまも気をつけて下さいね」
学園の位置は南東と言ってたので、私は城を出てからなんとなく左前の方向に足を進める。街並みはとても綺麗で、建物も三階建てのものや大きな石造りの神殿なども見える。ゼル村やナプレの港町とは景色が全く違い、これがこの世界の都心なのだろう。
歩いている街の人も綺麗な服を着ているし、侍女を従えているような高貴そうな人もちらほらと見かける。完全な村娘の服装の私は少々恥ずかしいが、無理して溶け込むこともないかな。
「ねえシンくん、いい匂いがするねえ」
「がうがうっ!」
旅人向けの飲食店があると聞いていたが、美味しそうな食べ物の匂いがしたのでその方向へ吸い寄せられるように向かうと、そこでは甘い匂いをさせたクレープのような食べ物を売る店や、何かの肉のかたまりを丸ごと焼いて店頭で削ぎ切りするケバブのようなものを売る店がいくつか並んでいた。
「なんか原宿みたい・・・」
「がう?」
私はケバブのようなものを売る店の列の一番後ろに並び、肉のかたまりを眼鏡で凝視する。美味しそうだからパクるのだ。
(ふむふむ、羊だけじゃなくて鶏も牛もイノシシも入ってるっぽいね、味付は私もよく知らないカレーのスパイスみたいなのは使ってないから、これなら再現できそうかな?こういうのなら野営とかでみんなと食べれそうだし良いよね)
ほどなくして私の順番になった。
「ひとつくださいっ!あと果実水もひとつ」
「おまたせお嬢ちゃん、辛いソースはかけるかい?」
「じゃあ少しだけお願いします」
この世界にしてはわりと柔らかめのパンに、刻んだ野菜と肉を一緒に挟んだものでパニーニみたいな感じだった。私は純銀貨一枚を払い、店の前の広い道に無造作に置かれているイスとテーブルに腰をかけた。石畳のテラス席って感じでとても優雅だ。
「ふうー疲れた。慣れない船旅だったし、王様に謁見とか緊張したし、アルテ様の癒しもないし、これから頑張れるかなあ」
私は座ったとたんに疲れがどっと出たが、シンくんは元気に尻尾を振って早く食べたそうにしている。ひとまず果実水を一口飲んでから、先にシンくんにパニーニをちぎって食べさせてあげて、その後に私もかじってみる。
「ちょっと味が薄いねえ。もぐもぐ。でもお肉は美味しいね」
「がうー。むしゃむしゃ」
ゼル村は私の調味料大人買いの影響で味付がずいぶん現代日本っぽくなってしまったが、王都への船旅の途中に寄った居酒屋でも味付は薄かった。よく言えば繊細なのだが私には物足りない。王都では塩コショウこっそり持参するのが必須かもね。
私は食べながらあたりをキョロキョロと見まわす。ゼル村で建て替えた新しい神殿に似た建物や、きちっと手入れされた芝生の公園などがある。ケバブ屋さんもクレープ屋さんもぽつぽつ人が並んでいるが、すごく忙しいといった感じでもなく、とても優雅な雰囲気が心地よい。
そこに私と同じような村娘風の服を着た女の子と、ヴァイオ君が狩りに行くような服装の男の子が手を繋いでやってきた。歳はアンジェちゃんやエマちゃんと同じくらいだろうか?なんだかとても親近感が湧く。
「ねねさまねねさまっ!僕あの甘い匂いがするやつ食べたい!」
「ソライオ、お姉ちゃんお金持ってないから買えないわよ」
「でも食べたい食べたい!こんなチャンスめったに無いのに!」
なんだか微笑ましい光景が展開されている。この姉弟はしばらく店の前をウロウロしていたが、弟が渋々クレープを諦めたらしくガッカリしながら芝生の公園の方へ歩いて行った。その姿を見ていた私はムズムズが抑えきれず、気づいたらクレープ屋さんの列に並んで三つほど買ってしまっていた。
「ねえそこの二人、私いっぱい買ったから二つあげよっか?」
しょんぼりしていた弟君の目が輝く。
「ええっ!いいの?欲しい欲しいっ!」
私が弟君の方にクレープを手渡そうとすると、お姉ちゃんがサッと体を割り込ませ妨害する。
「しっ知らない人から食べ物を貰うわけにはいきませんっ!ソライオ、あとでセバスとロベルタに怒られるわよ!」
ん?セバス?いかにも執事って感じの名前だね。でもこの姉弟はそんなお金持ちっぽい子供には見えないし、もう少し仲良くなってから聞いてみようか。
「私ゼル村から来たナナセ!もうこれで知り合いだねっ!ほらソラ君、クレープきっと甘くて美味しいよぉー?」
私は強引な自己紹介をし、再びソラ君の方にクレープを手渡そうとするとお姉ちゃんがまた阻止してくる。お姉ちゃんガードが堅いなあ。
「どっ毒とか入ってるかもしれませんからっ!」
「ええー?今買ったばっかりだしそんなの入ってないよぉ、私が一口食べてみればいい?もぐもぐ・・・甘いー!美味しいー!シンくんにも一口あげるね!」
私は少しちぎって尻尾を振ってるシンくんにも食べさせてあげると跳ねまわって喜んだ。犬って普通甘いもの喜ぶっけ?
「ねえねえ、お姉ちゃんの方は名前なんていうの?」
「ねねさまはティナネーラって言うんだよ!」
「こらっソライオっ!」
お姉ちゃんの方は名乗る気はなかったようだ。
「ティナちゃん、毒なんて入ってないのわかったでしょ?これ食べないならうちのシンくんに全部あげちゃうよー?なんかすごい喜んでるしー」
めっちゃ尻尾を振ってるシンくんにあげるふりしてしゃがみ込むと、「えっ?あっ・・・」と言いながら片手を差し出してきた。
「嘘だよー、はいっソラ君、こっちはティナちゃん、みんなで食べよ?みんなで食べた方が美味しいよ?」
「やったー!ナナセありがとう!」
「しっ仕方ないから頂きますっ!今回だけですからねっ!」
私の分はもう一口かじってから空中にポイッと投げる。シンくんがジャンプして見事に空中キャッチしてむしゃむしゃ食べる。
「すっごーい!今の僕もやってみていい?」
「シンくんすごいんだよー、でも狼なのにソラ君は怖くないの?」
「怖くないよ!ナナセとすごく仲良しみたいだし!」
「ソライオ、危ないことは駄目なのよ?」
あっ、どこかで聞いたことのあるセリフだ。ティナちゃんはソラ君のことがとても大切で心配なんだね。
「ティナちゃん大丈夫だよ、シンくんには乗ったりもできるんだから。私、西の港からシンくんに乗って走って来たんだよー」
「獣に乗るのですか?信じられません・・・」
視界の先にはすっかりシンくんと仲良しになったソラ君がクレープをちぎっては投げ、ちぎっては投げて遊んでいる。この公園は広いので元気に走り回っているみたいだし、しばらくほおっておいていいだろう。私はティナちゃんに話しかける。
「二人は姉弟なんだよね?この王都に住んでるの?」
「はい、私とソライオは実は双子なのですよ、他にお兄さまが二人いますが、女の子は私だけなのです。だからしっかりしなきゃいけないと思っているのですが、弟はとてもわがままで・・・」
確かに見た目よりはるかにしっかりした女の子だ。言葉遣いやしぐさを見ると、きちっとした教育を受けていそうな感じがする。
「さっきセバスとロベルタに怒られるって言ってたけど、たぶんご両親じゃないよね?ティナちゃんはちゃんとした教育を受けていそうだし、その二人は怖い先生か何かなの?」
「ええ、えっと・・・そうです!怖い先生なのです。私もそうですけど、ソライオは毎日こっぴどく叱られているのですよ。今日はセバスとロベルタの目を盗んでソライオと二人で抜け出してきたのです。きっと戻ったらお説教ですよ・・・ははは・・・」
「そうなんだー。どうせならおうちに戻るまでいっぱい遊ばなきゃね!ねえねえ、私、今日王都に来たばっかりだから色々と探検したいんだけど、どこか面白いところに連れてってくれない?夕方の鐘まで時間があるんだ」
「私もあまり街のことは詳しくありませんが、そうですね、でしたら一緒に商業地区のお店でも見に行きましょうか」
「やったー、よろしくねティナちゃんっ!」
ようやく心を開いてくれたティナちゃんと握手すると、ソラ君とシンくんを呼び戻す。二人をシンくんに乗せて芝生を走り回らせてみると、意外と上手く乗りこなしているのに驚いた。
「二人ともすごいねー、最初からそんなに上手く乗るなんて」
「あっははー!楽しいー!シンくん速ーい!」
「すごいのはシンくんですよ!馬より全然乗りやすいですっ!」
その後、学園と神殿の場所を教えてもらってから、三人で仲良く北西の商業エリアに向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます