3の2 王都ヴァチカーナ(前編)




「そろそろ着くぜ、準備はいいか?」


「だぶんーーだいぢょぶーでーずー」


 私は船酔いを克服できないまま王都の港に到着してしまうようだ。ルナ君はペリコに乗って空から心配そうに私を見ているが、決して降りてはこない。うん、帰りは陸路で決定だ。


 王都の港とは言っても、城下街までは徒歩だと鐘二つはかかるらしく、居酒屋と宿、それと大きな船が着くあたりには物資を保管する倉庫がたくさん並んでいる倉庫街の村になっていた。ふと大きな船からの積み下ろし場所を見てみると、ナプレの港町と同じような交通ルールを適用しようとしているが、道が狭くて上手く行っていないようにも見える。建築隊のミケロさんが整備しなおしたいと言っていたのもうなずけるね。


「そうなんだよ、俺たち船乗りも船着き場に関しちゃナプレの港町の方がはるかに使いやすいんだ。それでも昔は我先にと船にたかっていたのを、船乗りと荷運びたちが自主的にナプレの港町のルールを真似して、ずいぶんまともになったんだぜ」


「そうなんですね、あのルールはルナ君が作ったんですよ、しかも前町長襲撃の罪で無償奉仕の期間に」


「ははっ、そうだったのか!お嬢ちゃんたちは色々とすげえな、ゼル村もずいぶんきれいになったって聞いてるけど、俺も今度の連休にでも行ってみるかなぁ」


「ゼル村は観光地としても色々考えているんです!ぜひ行ってみて下さいね、食堂の料理とても美味しいですよ!」


「そっかそっか。それよりまだ気持ち悪いんだろう?ちょっと宿で休んで行った方がいいんじゃねえか?」


「いいえ、シンくんで走って風に当たった方が治ると思います。それに徒歩で鐘二つってことは、ナプレの港町とゼル村の距離くらいですよね?シンくんとペリコなら鐘一つもかからずに着いちゃうと思いますから、そっちでゆっくり休みますよ」


「その狼も鳥もすげえなあ、二人なら絶対に王都で上手くやっていけるよ。それじゃ頑張ってな!」


 船乗りの人が出港するのを見送ってから私たちは居酒屋で食事をしようと店に入る。


「へいらっしゃい!」


「あのー王都への旅の者ですけど、おまかせの食事を二人分と、そのあとで適当な肉を焼いたものを二人分おみやげでお願いしていいですか?それと王都までの簡単な道順も教えてもらえると嬉しいです。あ、馬車は使わないで徒歩で行きます」


「子供二人で旅してるのか?感心だな、ちょっと待っててな」


 しばらくして料理を運んできてくれると、まずは王都への道順を教えてくれた。なんでも大きな河の上流が市街地に繋がっているので、どんなに迷っても間違うわけがないとのことだったので安心だ。それと王都の名前を聞き、私は色々なことを確信した。


「王都の名前かい?そんなことも知らないのか、ヴァチカーナって言ってな、今から何代も何代も前の女王様の名前らしいぞ」


「そうなんですね、王国には国の名前はついてないようですけど、それはなぜだか知ってますか?」


「ずっと昔の貴族の時代は家名が国名になってたらしいけど、戦争があってから王族も村人もみな同じように名前だけを名乗るようになったらしくてな、そんで、その時どきの王様の名前がそのまま国の名前になるんだよ。今の国王はブルネリオ様って名前だから、ブルネリオ王国だな。でもよ、王様が変わるたびに国の名前が変わって年寄りなんか混同しちまうから誰も正式な王国名で言わなくなったのさ、王族ですら言わなくなっちまったからな」


「なるほどー。色々教えてもらってありがとうございます!」


 薄々感じていたが地名から推測するに、ここはきっと地球のヨーロッパあたりの位置と考えて間違いはないだろう。さっきまでいた海は地中海だよね?地名が似た感じになるのはアルテ様の上司の創造神が地球をモデルに作った星だからだろうか?非常に気になるので創造神とやらに会って話を聞いてみたいが、月の裏側にいるので私から会いに行くのはきっと無理だ。


 以前アルテ様に地球と地形や地名が似てるんじゃないかと聞いたら「わたくし何も知らなくて・・・」と悲しい目になってしまったので、それ以上聞けなくなってしまった。地形が全く同じとは思えないが、世界地図が漠然と頭の中に浮かぶのは助かる、自分が向いている方向がわかるだけでも大きな違いだろう。いつか東の果てにあるはずの日いづる国を探して旅してみたいものだ。


「お姉さま、考え事ですか?」


「あっ、ごめんごめん、この星の地形はどうなっているのかなーって考えてたの。私まだ船に酔ってて食欲ないから、あんまりたくさん食べられないや。残したら悪いからこれもシンくんに食べてもらおうかな」


「ぼくだけペリコに乗って逃げちゃってごめんなさい・・・」


「あはは、いいんだよ気にしないで。でも、これからも船に乗ること絶対にあるから、ルナ君も慣れておいた方がいいかもよー」


 食事は半分くらい残してしまったが、シンくんが元気に全部食べてくれた。ごめんね残飯処理させちゃって。


「それじゃ、しゅっぱーつ!」


 シンくんが高速移動するときは、私は馬に乗るような姿勢ではなく、完全に身を任せて抱き着く感じになる。シンくんは私がしっかりと抱き着いたこをと確認すると、一気に走る速度を上げる。


 王都への道は馬車が二台問題なくすれ違えるほど広く、きちっと土が固めてあって非常に走りやすく舗装されていた。河の方を見ると手漕ぎの船が荷物を積んで移動しているのも見える。途中で何度か橋をわたると、大きな城が見えてきた。


「シンくん、お城が見えてきたよ!もう少しだから頑張ってね!」


「はっはっ、がうっ!はっはっ」


 城に近づくにつれ、だんだん人通りが増えてきたので私はシンくんから降りてルナ君にも空から降りてくるよう呼ぶ。あまり目立った行動はしたくないので、ここからはのんびり歩いて行こう。


「ルナ君は私が学園に行ってる間に、何かしたいことあるの?もしオルネライオ様に会えたらお願いしてみようよ」


「そうですね、ゼル村のときみたいに畑仕事の手伝いをするわけにも行かないと思うので、もし荷運びのお手伝いがあればやってみようと思います。あとは礼儀作法を教わって、きちっとした紳士として恥ずかしくない行動をしたいのです。オルネライオ様のような立ち居振る舞いができればいいなって思っていますが、そういうのってどこで教わるんですかね・・・」


「礼儀作法ねえ、私も見よう見真似で適当だし、私の知ってるテーブルマナーとかも、この国で正しいのかよくわからないしねぇ。やっぱりオルネライオ様に相談しようね、きっと仕事も礼儀作法もきちっと手配してくれるよ」


「王都の生活楽しみですね、お姉さま!」


「そうだね、私は覚えることたくさんあって大変かもだけど・・・」


 そんな話をしながら歩いていると、立派な城の門が見えてくる。馬車と人が別々の列を作っていて、馬車の方はきっと検疫のようなことを受けているのだろう。私たちは人が並んでる方の列に行き、一番後ろに並んでいる大きなリュックを背負った老人の女性に聞いてみた。


「ここに並んで待っていれば王都の中に入れるのですか?私、田舎の村から初めて来たので、ルールがよくわからないんです」


「おやおや、子供二人で田舎から旅してきたのかい?そりゃあ大変だったろう。ここに並んでいるのみな商人だから、色々と手続きがあるのさ。あんたらは槍を持って立ってる護衛兵に直接話をするといいよ。その田舎の村の村長さんから通行証をもらってきたかい?」


「あっ、通行証かどうかわかりませんが王族の人に書状を書いてもらったので、それを見せてみますね。ご親切にありがとうございましたっ!」


 そういえばオルネライオ様に門の護衛に書状を渡すように言われていたんだった。私はさっそく門の中まで入り、槍を持って立っている護衛兵に書状を手渡す。なんか少し怖い人たちだ。


「おい子供、通行証の提示を。」


「あのあの、王族の人に作ってもらった書状なんですけど、この中に通行証が入ってるかどうかはわからないのですが・・・」


「そこで待て、中身を確認する。」


 書状は地球にもあったロウの刻印がしてあるあのタイプで、私は中を見ていない。護衛兵の一人が書状を持って城壁の中にある門番用の事務室のようなところに入っていった。私とルナ君はシンくんとペリコが静かにしているように、しゃがみこんでそれぞれの首のあたりを撫でて待っている。


「たっ大変失礼いたしましたーっ!ささ、こちらへ、こちらへどうぞっ!お連れの愛玩動物さんもご一緒でかまいませんっ!」


 おおう!なんと絵にかいたような小者感のある人だろう。なんとなく七人衆の最初の頃を連想させる。それにしてもさすがオルネライオ様の書状だ、こっちは子供二人なんだし、そんなにヘコヘコしなくてもいいのにね。


「はい、ご配慮ありがとうございます。シンくんとペリコ、静かにしてるのよ?わかった?」


「くぅー」「くゎー」


 事務室の中に通されると、奥には接待室のようにきれいに整った部屋があり、そこのソファーに並んで座り、出された紅茶を飲む。ピステロ様のお屋敷で飲んだような高級なもののようで、とても美味しい。


「たっ、ただいま別のものが王城に先ほどの書状を届けております、国王の指示があるまでこちらの部屋でお待ち下さいっ!」


「そんなにかしこまらないで下さいっ。私はただの村娘で、オルネライオ様には大変よくして頂いた王国民の一人なんです、かしこまらなければならないのは私の方かもしれませんよっ!」


「いいえ!自分はサッシカイオ第二王子の一件でナナセ様がナプレの港町の英雄であるとの噂は聞いておりますっ!そちらのルナロッサ様も闇魔法を自在に操り、港町の護衛を全員抑え込むほどの力があるとも聞いておりますっ!なあみんな!」


 あちゃー、やっぱあの事件って王都でも噂になってるんだねえ。そりゃ憎まれ王子が犯罪者として捕まっちゃったんだから、城に勤めてる人が事情を知っているのは当然か。あんまり目立ちたくないなあ・・・こういうときはどうするべきかなあ・・・


 よし決めた、脅そう。

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