2の34 ご相談とご報告とご連絡




「それでは三人は無償奉仕にお戻り下さい」


「あンたたちっ!しっかり罪を償うンだよ!」


「「「姐さんに迷惑かけないよう頑張りやす!」」」


 私は罪人三人に発破をかけ、仕事に戻らせた。エマちゃんとアルテ様に任せっきりになっちゃうけど、他のみんなも監視もしてくれるだろうし、あまり心配はしていない。三人が部屋から出ていくのを確認すると、私はオルネライオ様に姿勢を正して色々な報告を始める。


「オルネライオ様、折り入ってお願いがあります。私を王都の学園へ入学させて下さい。この村で頑張ってるみんなのために、私が始めてしまった色々な事業の基礎を学びたいと思ってます」


 オルネライオ様は笑顔で私の手を取り、とても嬉しそうな声で答えてくれた。


「ナナセさん、わたくしはあなたの多彩な才能に深く感銘を受けています。お願いするのはわたくしの方であり、ゼル村だけでなくすべての王国民のためにも、ぜひとも学園で領主教育を受けて下さい」


「あっ、いや・・・領主教育もなるべく頑張りますけど、農業や畜産、それに工場も任されてしまったので製造についても学びたいと・・・それと一番大切なのは剣術ですっ!仲間を守れる強さを身につけたいのですっ!」


 誤解されては困る。最初の予定では剣術しか学ぶつもりはなかった。他のお勉強は仲間が生活に困らないように最低限の知識を得るためのものなのだ。


「そうおっしゃらずに。ですが無理強いすることでもありませんね、わたくしはこれから他の村や町も回らなければなりません、本来であれば王都に同行して手助けをしたいのですが・・・」


「そうですよね、話が急すぎますよね。お忙しいオルネライオ様に無理を言ってごめんなさいです・・・」


「いえいえ、ナナセさんの事はすでに国王にも色々とお話してありますから急ということはありませんよ。しかし同行できないので・・・そうですね、国王に書状にて知らせることとします。そちらを持参して王都の門の護衛兵に渡して下さい。学園は四月からなので、あまり時間はありませんよ」


「ご配慮ありがとうございます、準備と言っても何を持って行けばいいのかわからないですけど、幸いオルネライオ様から多くの報酬を受け取っております、生活用品などは王都で買い揃えようと思います」


「わかりました、後ほど書状を作成し護衛に持たせますので少々お待ち下さい」


 こんなギリギリでも入学できるのはありがたい。入学試験的なものは免除ってことでいいのかな?というかこれ裏口入学かしら?まあ受かってしまえばこっちのものだし、入ってから頑張ればいっか。


 それよりも大事な報告がある。


「書状の件はよろしくお願いします。ところでサッシカイオの話をしなければならないのですけど、彼は私たちとの戦闘で気を失ってしまったので、会話らしい会話はベールチアさんとしかしていないんです」


「そうですね、そのお話を聞いておかなければなりませんでした。ベールチアの様子はいかがでしたか?」


「はい、闇魔法を剣にまとわせるような圧倒的な戦い方でした。しかし闇に飲み込まれてしまったようで、戦闘中に悪魔化しました。その時のベールチアさんは憎しみだけを私にぶつけてくるような、とても会話が成立するような状態ではなく、その勢いでルナ君が斬られてしまったのです」


「闇に飲まれたと?彼女は魔法を使っていたのですか・・・どうりで大きな剣を軽々と扱っていたわけです。よく皆さんはご無事で戻られましたね」


「はい、悪魔化したベールチアさんは異常な戦闘力で私を追い詰め、あと剣一振りで殺されるという場面でシンくんに助けてもらいました。シンくんが手首に噛みつき剣を振り落とすと、そこに光をまとったペリコが特攻してベールチアさんの闇を消し去ったのです」


「光と闇ですか・・・あの鳥にそのような力が?」


「はい、ただのペリカンではありません、七色に輝く“神鳥”と言っても過言ではなく、私もその姿はその時に初めて見ましたし、その後にペリコがそうなったこともありません。闇を消されてしまったベールチアさんは悪魔化が解け正気を取り戻し、元の冷静そうな護衛侍女になりました。サッシカイオは気絶したままでしたけど、ベールチアさんが小脇に抱えていたので捕縛するのは難しかったです」


「なるほど、それでベールチアは何と?」


「闇に飲み込まれた自分の命は長くないと。そして恨みや憎しみがなければ自分は平穏でいられると。なので周りに人のいない場所へ身を隠し、残りの短い人生を静かに暮らすと言っていました。ルナ君が大けがをして私も手負いだったのでそれ以上の戦闘は難しく、やはり捕縛するのは無理でした。ごめんなさい」


「ナナセさん、あのベールチアが相手で、しかも悪魔化して襲ってきたにもかかわらず生きて戻られたのです。謝罪どころか誇っていいと思いますよ。我々は引き続き各町村にこの件を通達して回りますが、へたに戦闘などすると村が全滅するかもしれませんね・・・」


「過去にも闇に飲み込まれて悪魔になった人がいたのですか?恨みや憎しみで村や街が全滅するようなことがあったのですか?」


 そもそも悪魔族は人が闇に飲まれて発生するだけなんだろうか?最初から悪魔として発生し、悪魔的な英才教育を受けて世紀末大魔王みたいな存在になっちゃったりするんだろうか?なんか怖いな。


「戦争後二百年の王国歴史上ではそういう過去はありませんが、はるか昔にはあったようですね。伝承では神が介入し、悪魔を滅ぼしたと言われています。神殿を作り始めたのはその頃のようですよ」


 そういえばルナ君の鎌ってピステロ様が悪魔やっつけて取り上げたようなこと言ってたっけ。今度ピステロ様に悪魔の事を聞いてみよう。


「もしまたベールチアさんに遭遇したら全力で逃げますよ、もう仲間の血を見るのはこりごりです。戦うとしても、私がもっと強くなってからです」


「ええ、わたくしも全力で逃げますし、各町村にも同様の通達をしようと思います。通達ではなく厳命になるかもしれませんね、情報提供ありがとうございました。ベールチアにはくれぐれもお気をつけ下さい」


 ベールチアは人のいない無人島でひっそりと暮らすと言っていたけど、サッシカイオの方はどういう行動に出るかわからない。今後も警戒しよう。


 他にも大切な話がある。


「次は、例のベアリング付き馬車が完成しました。さっそく引いて行かれてはどうでしょうか?実際に使ってみれば、その素晴らしさが実感できると思いますし、耐久テストにもなると思います。十分すぎる料金を頂いたので、その資金を使ってこの村のベアリングを作れる工場を買ったんですよ」


「そうでしたね、さっそく使ってみましょうか。各町村に回る部隊を二つに分けて早馬と荷馬車で別々に向かい、どこかで落ち合うようにしてみましょう。それにしても普通は村の子供が工場など買わないと思いますよ、やはりナナセさんは常識では考えられないような魔法の使い方やお金の使い方に驚かされてしまいます」


「実は断れない感じもあったんですよねぇ・・・」


 これでオルネライオ様と一通りの話を終わったかな。私はペコペコとあいさつをして村長さんの家を出ると、もう一台の完成した馬車を巡回馬車として運行するための相談をしにきた。


「ねえカルス、巡回馬車の運行方法なんだけどさ、早朝の鐘が鳴ったら村を出発して、ぐるーっと畑や牧場を回って帰ってくる感じでどうかな?最初は送り迎えだけの一日二本で足りると思うけど、住人が増えてきたら最終的に早朝、朝、昼、夕、夜の鐘すべて走らせて五本にするの。あ、でも冬は陽が沈むのが早いから四本でいいかな?」


「姐さん、村長さんに巡回馬車と言われても俺は全く想像できていませんでした。姐さんの言うとおり最初はお年寄りを朝夕に送り迎えする感じでやってみます」


「うん、光曜日は休んでいいからね、むしろ絶対に休むこと。無理して働いちゃ駄目なんだからね。あとは始めてみてからみんなの意見を細かく聞いて、カルスが一番いいと思う方法で運行するといいよ。ぐるっと回るよりも北と南で一度村に戻ってから再出発するのでもいいし、馬車を二台用意して違う方向に出発するのも良いかもね」


「なるほど、荷運びがもう一人必要っすね」


「馬車が足りなかったら買い足してもいいし、道の整備が必要ならミケロさんにお願いしていいから、お金はアルテ様からもらってね」


「へい姐さん!俺なんだかやる気が出てきやした!頑張りやす!」


 私は巡回馬車にペンキを使って漢字で“七瀬観光”と書き込み、その逆側にはアルテ先生から教わって覚えたばかりのこの世界の文字で“ナナセトラベル”と書き加えておいた。


 前世でもあまり字が綺麗じゃなかった私の字は、この世界でしばらく日本語を書いていなかったせいもあり、なんだか子供の落書きのような仕上がりだった。


 でもアルテ様にしか読めないからべつにいいよね!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る