1の33 町長の呼び出しと王族事情
私はナプレの港町の町長さんに呼び出されてしまった。強盗退治のお礼をもらえるらしいけど、なんとなくそれだけではない気がする。もらえるものをさっさともらって、とっととゼル村へ帰りたい。
「ナナセ、怖い顔になっているわ、どうしたの?」
「あっアルテ様ごめんなさい、考え事してました」
ありゃ、顔に出ていたみたいだ。私はアルテ様に心配ばかりさせているので、そんな顔をされてしまうと胸が痛む。ごめんねアルテ様。
「ルナ君たちも待ってるし、早く戻りたいですね」
「ええ、そうね。それにゼル村まで戻る旅だって、何が起こるかわかりませんからね」
そうこうしていると、この町で一番立派な屋敷にいついた。護衛もたくさんいる。そのまま町長室の前まで案内され、扉を開けてもらった。
「失礼しまぁす・・・」
おそるおそる扉の奥を覗くと、若い男性が立派な椅子から立ち上がった。アルテ様より上に見えるけど成人前くらいかな?あ、この世界の成人は二十歳ではなく十六歳だから大学生くらいって感じか。
「遅いぞ!女二人連れてくるのに何しているのだ!」
私たちを迎えに来てくれた護衛の人が怒られてしまった。なんか感じ悪いね、これは礼儀正しく親切だった護衛の人をかばわなければ。
「お初にお目にかかります町長さん、こちらの護衛の方は、私たちが宿を出る準備を、外で待っていてくださったのです。準備に時間を取ってしまい、申し訳ありませんでした。」
「ふんっ!まあいい、お前が剣士ナナセなのか?なんだかずいぶん小さな子供だな。私は国王第二王子サッシカイオだ。楽にしろ」
ありゃ、若いと思ったら王子様だったのね。村長さんしか知らない私は、町長さんはもう少しおじさんかと思っていたので少し驚いたけど、この感じ悪さはやはり長居するべきではないことを確信させたよ。
「お前らは街の小悪党を捕えたようだな。礼を言うぞ、奴らには手を焼いていた」
「もったいないお言葉です。」
「まあ、その場に護衛がいればお前らが戦う必要もなかったがな、私の護衛、特に護衛侍女は実に優秀だ」
「存じております。私も運がよかっただけです。」
護衛の人が優秀だというなら、戻って理由も聞かずいきなり怒ったりするなと思う。私はあまり王子の顔を見ないように頭を軽く下げたまま適当に丁寧っぽい言葉で返事している。
「それでだな、お前に・・・」
「お断りします。」
「おい!まだ何も申していないではないか!」
「失礼しました、私に何でしょうか。」
相手が感じ悪いのだ、こちらも感じ悪く対応する。
「今回の褒美として、私の第二婦人にしてやる。お前はまだ子供だ、成人したらすぐに王室へ迎えてやるので感謝しろ」
はぁあぁあ?出会って速攻プロポーズですか?しかもそれが褒美って、どんだけ王子が偉いと思ってるのさこの人は。私なんてバックに神様と無類の強さを誇る吸血鬼がいるんだからあんたなんてこれっぽっちも偉いと思ってないし、あんたみたいな感じ悪い人のしかも第二婦人なんてこっちからお断りなんだから、勘違いしないでよね!ふんっ!・・・っと、いけないいけない、こんなこと言ったら王子の立場を笠に着ているこの人と同類になってしまう。落ち着け私。
「大変魅力的なお誘いですが、お断りします。」
「なっ!なんだと!?」
「まだまだ未熟な私にはもったいないお話でございます、サッシカイオ王子でしたら、私のような田舎の小娘ではなく、もっと良いお話がたくさんおありなのでは?」
喧嘩腰にならないように、丁重にお断りした。実際、王子様のお嫁さんになりたい!と考えている若い女の子は多いはずだ。なぜ村娘の私なのか?疑問だ。
「確かにお前はまだ子供だからな、ではそっちの侍女、お前でもいいぞ、王室へ来い」
── カッチーン! ──
私の中で何かキレる感覚があったことだけは覚えている。
「ちょっと待って下さい!アルテ様は私の尊敬する先生です!侍女などではありません!だいたい「お前でもいい」とは失礼がすぎます!その言葉を訂正し、謝罪しなさい!」
私は怒鳴りながら無意識に剣に手をかけてしまった。護衛の数人が慌てて私の左右に立ち剣を抜かないように肩を抑える。
私の怒りはおさまらず、大きな声で言葉を続ける。
「だいたいあんたっ!さっきからこちらが下手に出ていればなんなのですその横柄な態度は。ゼル村の村長さんであるチェルバリオ殿下は、あんたのような何の能力もなさそうな小僧が権力を振りかざすようなことはせず、とても紳士的にこんな小娘である私たちに接してくれますよ!?王族はみなあのように親切で優秀な方が領地を治めているのかと思ってたけど、あんたは全く別のようね。この港町の住人のくたびれた顔を見たことがあるの?とても平和で充実した日々を送っているゼル村の住人の生き生きとした顔を見たことがあるの?この屋敷で偉そうにふんぞり返って高い税を取るだけで、あんたに何の価値があるっていうの?こんな町長の仕事だったらあんたじゃなくて私にでもできるんじゃないの?いや、私ならこの港町の住人をみんな笑顔にしてあげるわ。少なくともそういう努力はするわ。あんたは住人のために何かしたの?よくない噂ばかり流れて、挙句の果てに若い女を屋敷に呼んで嫁探し?バカにしてんの?はぁーっはぁーっ、それにね・・・」
「ナナセ、ちょっと言いすぎよ?」
アルテ様に優しく手を繋がれ、私はハッと我に返って言葉を止めた。そのまま護衛の人に連行され、地下牢に軟禁されてしまった。
・
「あのあの・・・アルテ様はどうなりましたか?」
「あの方ならお仲間の少年と一緒に別室にいますよ、牢ではなく客人用のお部屋です。申し訳ないのですが、護衛兵の見張りは付けさせてもらっていますが」
「そっか、よかった。護衛さんは私に対して怒ってないの?私、町長さんにずいぶん失礼なことを言ってしまったと思うけど・・・」
「いいえ!自分はとてもスッキリしましたっ!」
護衛の人は親指を立てながら気分爽快な笑顔を見せる。私も思わず親指を立て、一緒になって笑ってしまう。
「あはは、部下にもあまり好かれていないのですね、あの王子様は」
「はい、大変に苦労しております!」
この後、親切な護衛の人から色々な話を聞いた。なんでも今の国王はまだ若く、表面上は第一王子が継ぐ形になってるけど、おそらく本当に王の立場を継がせるのは孫の代になるであろうとの事だ。すでに後継者争いが発生し、第一婦人の孫、第二婦人の子、それにまだ若い第三王子もいるらしく、次の王を選定する頃、おそらく二~三十年ほど先に、ちょうどいい年ごろの男の子を育てることを狙っているようだった。国王となる条件は完全能力制で、皇太子である第一王子は第二王子と違い尊敬できる非常に優秀な方らしい。
それと、優秀な子を産ませるには優秀な母親が必要となり、第二王子は私が剣も魔法も使えることに目をつけて嫁にすると言い出したそうだ。私が断ったらアルテ様を誘ったのも魔法を使えるからだそうで、能力や神命が遺伝しやすいと言われるこの世界では、女性の魔法使いはそういう“もの”に見られているとの事。
「女性の魔法使いはそんなに少ないのですか?」
「女性に限らず魔導士は少ないですね、いたとしても各地の神殿や宮廷魔導士として若い頃から連れていかれてしまいます。ナナセ様やアルテミス様のような年ごろの魔導士の女性は、こう言っては何ですが引く手あまただと思います」
言われてみればゼル村でも魔法使えるのなんて神父さんだけだったね、しかも長ったらしいお祈り詠唱をしないと治癒魔法が発動していなかったし。
「魔法・・・あんまり人前で使わない方がいいかもしれないですね」
「いやいや、剣士ナナセ様はそれを誇っていいと思いますよ、うちの町長が特別に失礼なだけですから」
今日はこの牢屋に泊まることとなってしまった。異世界でまさかの人生初逮捕だったけど、心はとても晴れやかだ。
あとがき
ナナセさんはどうやらキレやすい若者だったようです。
王国の王子様が登場しましたが、なんかあんまり感じよくないですね。
これから先も、不思議と色々な王族に関わるようになっていきます。
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