第138話 茜……お前もか。

 「え~と、いつから?」

 となりでしれっと103号室だよと答えた小澤に向かって聞いてみる。


 「茜……」

 は?なんかこのようなやり取りを先日もしたような。


 「茜って呼んで欲しい。もしくは雌豚とかマゾブタとか。」


 「前者はともかく、後者二つは公衆の面前で出す言葉じゃないだろう。」


 「言質取った、前者はともかくと言ったね。」



 「ぐ……作戦か……」

 まんまと乗せられたわけか。


 「私としてはどれでも良いんだけどね。悠子ちゃんも瑞希さんも名前で呼んで貰ってるのに私だけ苗字というのも……」

 対抗意識かよ、まぁ気持ちはわからなくもないけど。


 「はっ?ある意味では、のけものプレーだったのかな。」


 「そんなわけあるか。無意識にプレイしてたんだとしたら相当ヤバイ奴だぞ。」


 「で、小澤……」


 「汁女、もしくは椅子女。」

 自虐なのかは知らないけど先程よりも表現が酷くなっていた。


 「悪化してない?それとも態と?そういう事言ってると貞操帯あの鍵、そこの側溝に捨てるぞ。」


 「はぅっ。ど、どうしてそこでクる言葉を言っちゃうの。」

 誰も見ていないとはいえ、小澤は再び身体をグネグネとくねらせている。

 バックに音楽をかけるとするなら「ボディコニアンはおどっている」の音楽と文字が流れるんじゃないか?


 「とんでもないマゾブタだな。どんな名医でもどんな温泉でもお前のそれは治らないだろうな。」

 はっと微笑を洩らしながら俺は指摘した。どう考えてももうノーマルには戻らないだろう。


 「いつまで経っても進まないんだが、いつからここのアパートに?」



 「女子3人が泊まる少し前から。だから翌朝帰った時には単純に2階床降りただけっていう。」


 「そうか。でもお前、1階で良かったのか?301とか空いてるし2階も空きがあったかも知れないのに。」


 「どういうこと?」



 「ほら、1階だと物騒だろ。空き巣とか物取りとか泥棒とか……一応女の子なんだしさ。」

 あれ?俺は一体なにを言っているんだ?


 「心配してくれてるんだ?大丈夫だよ。未美様が万全のセキュリティを大家さんから許可貰って取り付けてるから。」


 「SE〇OMやAL〇OKやC〇Pよりも安心だよ。なんたって電流流れるから。」

 大手警備会社より頑強てどういう事?電流ってなんだよ。


 「電流はヤバイやつじゃね?不法侵入者が死んだりしないよな。」


 「大丈夫だよ、市販されてるスタンガンと同等くらいだから。ちゃんと身をもって確認したから大丈夫。」

 昇天して違う意味でヤバかったけどとか言ってるのが漏れ聞こえてるのだけど。


 「お前本当に変わったな。高校時代の自分が見たらどう思われてたんだろうな。」


 「どうだろうね。あんな事がなければ……自分がドMだって気付けたかどうか。」

 遠い目をして明後日の方向を向いて答えていた。


 「そういや……俺、お前の……まともに見ちゃったんだよな。スイッチ入っていたとはいえ。」


 「そだねー。貞操帯脱着の時だけだけどね。」

 SO・DA・NEでラップでも歌う気か。

 

 「前に情報を聞き出すために呼んだ時は身体に色々ついてたじゃん。もう何もついてないんだな。それどころか塞がってたな。」


 「未美様が綺麗な身体でいろとおっしゃるものだから、それに今度つける時はご主人様に開けて貰ってつけなさいって。」

 なるほど、という事は結構早い段階から想定して動いていたという事か。

 恐るべしは田宮未美その人だな。


 「もっと言えば毛も綺麗になかったし。」


 「それも未美様が……毛を燃やすプレイがしたかったらボーボーにするよ。」


 「女の子がボーボーとか言うものじゃありませんっ。」

 俺は軽くチョップをドタマに落とす。


 「あたっ。もー、はいはい。黄葉君はパイパンがお好きと。」

 否定はしないけど脳内メモ帳に書き込み保存するなって。


 8月末とはいえまだまだクソ暑い中、外で何を長話をしているんだか。

 蝉が煩い。お前ら早くまぐわえとか言われている気がして……

 放送出来ないシーンは、蝉の鳴き声で誤魔化すみたいな絵面を想像しかけてしまったではないか。


 

 「それじゃ、部屋に帰るわ。」

 「それはそうと、結構無理させたからゆっくり休めよ……茜。」

 そう言って俺は階段を昇っていった。振り返る事なく自分の部屋へと。





☆ ☆ ☆

 

 「最後に名前で呼ぶとか卑怯……」

 

 「ゆっくり休めって……コレ着けてたら余計に悶々としてしまうだけだけどさ。」


 「近くて遠い2階床だよ……」

 その言葉は誰にも届かない。自分の耳にしか届いていない。


 103号室へと入った茜は、荷物を置くと風呂のスイッチを入れる。


 下腹部へと手を伸ばしてむふふと笑みを浮かべながらなぞっていく。


 「流石にあれもこれもはやり過ぎだもんね。今日の事だってまさかここまで出来るとは思わなかったし。」


 スマホを片手に文字を入力する。


 【今日は楽しかった、ありがとう。茜って呼んでくれて嬉しかった。これからは公の場では真秋君と呼ぶね。】


 そして送信ボタンを茜は押した。

 


―――――――――――――――――――――――――――


 後書きです。

 そろそろ9月に入ります。


 長い8月でした。

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