第135話 メイド服でジャンピング土下座って萌える。それが実妹であったとしても。

 重なり合ってから既に10分は過ぎている。

 いい加減にこの状態を打破しないと、偶然通りかかった店員さんに見られようものなら……

 出禁になる。


 決してそのようないかがわしい行為をしているわけではないけれど、他人から見られたらそうは見えないはず。


 「や、やま……」

 

 「みずき!」

 まだそれ続いてるのね。


 「瑞希さん。そろそろ起き上がらないと、店員に見られたら追い出されちゃいますって。」

 俺の息子は起き上がらないけどなどと自虐するしかない。



 「そ、それはわかってますけど緊張とドキドキとムネムネで動けません。」

 頬から伝わる感触でそれはなんとなくわかってはいたけれど。


 「えっと、もし変なとこ触ってしまっても赦してくださいね。」

 俺は返事も聞かずに抱きしめた月見里さんを上半身の力を使って起こした。

 起き上がった結果、俗に対面座位と呼ばれる形になったけれどそれは指摘しない事にした。

 それは流石に俺自身恥ずかしいためでもある。


 そしてまだ頬は引っ付いたままである。


 「ま、まだ見ないでください。」


 言われなければ真実はわからないけど、恥ずかしいのだろう。

 確かに蕩けた顔は俺も見られたら嫌だと思う。


 後は酒の匂いとかもかな。

 それととても言い辛い事が一つあるのだけど、起き上がった反動でスカートが全捲れしてます。

 これは小澤担当のジャンルなんだけど、今日は何故か月見里さんが担当を1日引き受けたのかというくらいにエロい。


 清楚な人のこういう姿って物凄くそそると感じるのは、病んでいるとかは関係ないと思った。



 この恰好のまま5分近くが経過して、名残惜しそうに月見里さんが離れた。

 「少し後ろを向いていてください。」


 そう言われたので捲れたスカートを直すのだろうと思った。

 小澤じゃあるまいし、脱いだりはしていないだろう。


 「振りむいて良いですよ。」

 俺が振り向くと、その姿に少しホッとした。

 ごく僅かながらの可能性として後者も否定出来なかったからだ。


 「も、戻してしまって残念でした?」

 それはかなり卑怯だと思う。答えようのない問題だ。


 「って卑怯な質問でしたね。残念と言えばえっちなイメージを持たれますし、残念じゃないと言えば魅力が微塵もないのねと言われるのではないかと思いますし。」


 「お酒のせいでかなり大胆になってしまったようです。申し訳ありません。」

 初音ミクの姿で深々と頭を下げる月見里さんに恐縮してしまう。


 「いや、サービス品で知らぬとはいえしゅわしゅわを飲ませてしまったわけですし。」

 両肩を掴んで月見里さんの姿勢をなおすと俺は言葉を続けた。


 「それに普段の清楚なやま……瑞希さんと違って少し妖艶な姿も可愛かったと……」

 そして月見里さんの動きが止まったのを確認した。

 

 「続けてくれるんですね。」

 先程から本当は気付いていた。呂律の回らない口調だったのがいつも通りの丁寧な口調に戻っていた事に。

 起き上がる少し前から普通の口調に戻っていた。


 酔うのも早いけど、酔いが覚めるのも早いという事か。

 今の続けてくれるというのも、素面に戻ったであろうにも関わらず苗字でなく、名前で呼ぶ事に対してだろう。



 それからはチェイサーを頼み、普通にカラオケが繰り広げられていった。

 20代男女がアニソンや声優ソングで盛り上がる。片やコスプレをして。


 茜沢ユメルの「光」からフランシュシュの「光へ」の光コンボで幕を閉じる。

 どちらも泣ける良い曲だと俺も歌いながらうるうるきていたのは内緒の話である。


 その後は例によってアニスミアでカレンさんと七虹さんに揶揄われながらデートのようなものは過ぎていく。


 「にゃはは、一人一人奥さんとデートにゃ?満遍なく愛する旦那様は罪な男にゃ。誰一人悲しませたらだめにゃー。悲しませたら……夜中迎えにいくんだにゃー。鬼太郎のED実行にゃー。」

 

 ハーレムじゃないし、と思いながらも揶揄うカレンさんを見る。

 うん、これは単純に楽しんでるだけだ。長い付き合いじゃないけど俺にはわかる。

 田宮さんとは違う逆らっちゃいけない何かがこの人にもある。


 「ま、今は性や結婚についても色々議論されてるから、誰も悲しまないなら好きにしても良いのでは?」

 七虹さんも中々におっしゃる。この人も最近ではカレンさんのように楽しんでいる節がある。

 

 「私に彼氏が出来ないのは、そうやって複数の女子を引き寄せる男子がいるからいけないのよっ」

 立ち去り際に愚痴を投下されていった。


 いや、七虹さんも充分魅力的だとは思うんですよ?ただ、多分強気な性格についていける男子がそうそういないだけなんじゃと思う。



 「七虹ちゃんもそろそろ良い人みつけないとライバルはどんどん先に進んでるにゃー。」

 そんな七虹さんもカレンさんに揶揄われていた。



 「今日はありがとうございました。そ、それとあのハプニングはご内密にお願いします。」

 そりゃそうか。小澤のようにエロや自分を全面に押す性格ではないだろうし。


 「わかったよ……瑞希さん。それに楽しかったのは俺もだし、俺のほうからもありがとう。」

 下半身云々はともかく、心が軽やかになった気がするのは事実だし、今日の事は二人で出かけられて良かったと思う。

 

 「それではまた。」


 同じアパートの2階の階段で別れる。

 月見里さんは……いや、口に出して名前で呼んでるなら心の中でも名前で呼ぶべきか。

 酔った中での勢いとはいえ、名前で呼ぶようになったんだ。


 瑞希さんは2階の自分の部屋へ、俺は階段を昇って自分の部屋へ。


 玄関を開けると……


 「ただいま、おにーちゃん。」

 出迎えてくれたのは悠子ちゃんではなく、実妹・深雪であった。

 笑顔で出迎えてくれたのだけど、数歩下がって……


 勢いよくジャンプをするとそのまま地面にダイブし。


 「ごめんなさいお兄ちゃん。」

 見事なジャンピング土下座を決めた実妹・深雪。

 何故かメイド服で……




――――――――――――――――――――――――――

 

 後書きです。


 深雪が部屋にいるのは悠子が入れたからです。

 深雪が来訪した時は入れて良いとは言ってあります。

 今話まででは記載しておりませんが、深雪が来る事は真秋は知っています。

 流石にメイド服でジャンピング土下座をするとは思ってませんが。


 


 

  

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