第122話 アニスミアでのお花摘みの女子会。
真秋が席を外し、女子3人でリビングに集まっている。
3人が話し合うに当たって前提である悠子と瑞希二人で話した時の事を先に知る必要がある。
時はねこみみメイド喫茶アニスミアでお花摘みに行った時に遡る。
月見里瑞希のスマホでコスプレ写真を見ていた時、ふとした時に病院での真秋の寝顔写真が一瞬表記された。
瑞希はビクっとし慌ててバックし他の写真に切り替えたが真秋も悠子も目にした事は間違いない。
言及される事を恐れたのか、瑞希は一旦席を立ちトイレに籠る事で言い訳を考えようとしていた。
しかし直ぐに悠子がトイレに来たことで瑞希は個室に籠って考えるという選択肢は遮られてしまう。
※以下瑞希視点となります。
☆ ☆ ☆
「あの……瑞希さん。さっきのお兄ちゃんの写真って……」
やっぱり見られていたのね。なんて言い訳をしたら良いのでしょうか。
「差し出がましい事を言うと思いますけど、瑞希さんもお兄ちゃんの事を?」
ドキっとした。心の内を言い当てられたようで。
そして私は知っています。何度かイベントで会っていてる時に聞いていた悠子ちゃんが言う【お兄ちゃん】の事を。
好きな人がいるけれど、私にはその想いが叶う事はない。その人にはいつ結婚してもおかしくない幼馴染で婚約者がいる事を。
そしてある時その相手はプロポーズを成功させ子供も出来たとも。
その時の悠子ちゃんは嬉しさと寂しさと悲しさを同居させていたのを覚えています。
「私は……今こうなってしまってお兄ちゃんが大変なのはわかってますけど……あの時、二人が中学卒業と同時に正式に付き合う事になった時に押し込めたこの想い……」
「もうしまっておく事は出来ません。有体に言えば、再燃してます。でも今の私が想いを伝える事は出来ません。」
「お兄ちゃんとお姉ちゃんの事は聞いてますよね?」
私は頷いた。以前病院で聞いた、幼馴染で婚約者の彼女が浮気をし、あまつさえニュースにも出ていた喜納という男との間に出来た子供を托卵しようとしていた事を。
中々に酷い話です。
「私はあのお姉ちゃんの妹だから、見た目が似ているという事はお姉ちゃんを思い出させてお兄ちゃんを苦しめるだけだから。」
「少しでも違って見えるように髪型変えたりしてはいるけど、私は高校時代のお姉ちゃんに似てるみたい。写真を見ると悔しいくらいに実感します。」
何か諦めたような表情で容姿について語っているのがわかる。似ているというのは確かにわかる。
何故なら……あの裁判の傍聴に行ったから。やつれていたから綺麗とかまでは思わなかったけれど、悠子ちゃんと姉妹だなというのは理解出来た。
「それでもこの湧き上がる想いは、重いかもしれないけどいつまでも閉じ込めておくことは出来ない。前は出来なかった、想いを伝えるという事を今度はいつか伝えたい。」
「それが近いうちでなくても。そしてそれまでの間に別の人が現れるかもしれない。お兄ちゃんが誰を選んでもそれは構わないし仕方のない事だと思う。」
「私はお姉ちゃんの事が世間に知れて、近所からも学校でも私自身に謂れのない事で噂になったり嫌な事を言われたりしてます。」
「一度は部活の仲間達が味方になってくれる事があったり、他の話題が出たりで収まったけれど、お姉ちゃんの裁判や子供を両親が引き取るとかして……」
「私の居場所はなくなって……深雪ちゃんと部活の仲間達とかしか味方がいなくて。それでも押しつぶされながら現実と戦って。」
「もう無理、耐えられないといった時にお兄ちゃんを頼って。最初は突き放されたけど、それでもやっぱり助けてくれて……」
「毎日、いつでも、いつかこの張り裂けそうな胸の内を曝け出したくて……」
「でも最近はお兄ちゃんのおかげで少し心が軽くなってきてるんです。依存してしまうくらいにお兄ちゃんで一杯で。」
「本音を言えばお兄ちゃんの隣にはずっといたい。でもお姉ちゃんの事があるから簡単に想いを伝える事も出来ない。」
「病院から戻ってきた後のお兄ちゃんは少し晴れやかな感じをしてました。一晩入院と聞いたから悪いイメージを抱いていたんですけどね。」
「付き添ってくれた人が良い人だったんだなって思いました。まさか瑞希さんだとは思いませんでしたけど。」
「あの写真は、その時のですよね。」
私は悠子ちゃんの言葉に黙って頷いた。
「普通の人は見ず知らずの人の寝顔なんて撮りませんよ。少し気になる人でも流石にそんな写真を撮るなんて3割もいないと思います。」
「瑞希さんとお兄ちゃんの接点は知りません、あの日の飲み会で一緒になったという事くらいしか。」
「という事は答えは一つしかないと思います。瑞希さんも私と同じように前からお兄ちゃんの事……」
そこから先の言葉は悠子ちゃんから発する事はなかった。
それ以上言わせるのは酷だと思ったし少し卑怯だと思ったから。
「私も黄葉さんの事、以前からお慕い申しております。言い回しが古風なのは……照れ隠しと言いましょうか。言い慣れてないので赦して欲しいです。」
「初めて出会ったのは高校3年の甲子園予選で対戦の時。試合は私の母校のコールド勝ちではありましたが。」
「彼、黄葉さんは最後まで諦めておりませんでした。彼の打った打球がファールとなって私の近くにバウンドしてキャッチしました。」
「実は私も小学生時代は野球チームに入っていましたし学生時代はソフトボールをやっていたのでボールの扱いに関しては素人ではありませんでした。」
「だからこそキャッチ出来たのでしょうけど。でも打った彼は危険だと思ったのでしょうね、スタンドの私に向かって頭を下げていました。」
「その時に誠実な人だなと思ったのが気になるきっかけとでも言うのでしょうか。」
ライナーで変に回転のかかった硬球を、数度のバウンドを介したとはいえ素手で捕る私も大概だとは思いますが。
「学校が違いますからね。気にはなってもそれ以上どうしようもありません。」
この先を話すにはとても勇気が要る。
この話は出来る事ならしたくはない。告白する時に黄葉さんに話すだけに留めたい。
「3度目の出会いは先日の飲み会です。まさか卒業して6年、再会できるとは思ってもいませんでした。」
「悠子ちゃんと同様、想いは胸の奥にしまっておきましたから、再会出来た時はいつポロっと漏らしてしまうかわかりませんでした。」
「飲み会の時に吐いてしまった彼の姿は私の職業柄放っておけるはずもなく、看病していたら友人の一人と黄葉さんの友人の一人も病院まで付き添いしてくれました。」
「二人は次の日仕事があるからと面会時間が過ぎたら黄葉さんが帰しましたけどね。私は偶然とはいえ職場だったものですからそのまま付き添いました。」
「その時に色々話を聞かせてもらいまして、結婚破談とかを知りました。」
「そうしたら……しまっておいた想いが暴走して……安らかに寝ている黄葉さんを思わず……撮影して保存してバックアップも取って、日々の活力の元にしてしまいました。」
「でも、これだとなぜ私が黄葉さんを好きかという理由は語れてないですよね。重要なのは2度目の出会いの事……」
「黄葉さんが私……月見里瑞希だと認識して会ったのは3度目の飲み会だけです。他の2回は個人と特定したものではありません。」
「言ってみれば私が一方的に会ったと認識するのが正しいと思います。だからこそ余計に飲み会の時に初めましてだったのかも知れません。」
「2度目の出会いの事は……まだ誰にも話せません。心の準備が追い付いていません。ごめんなさい。」
そして私は悠子ちゃんに向かって頭を下げる。
悠子ちゃんは首を横に振って気にしないでくださいと言ってくれる。
「私には高校卒業前に親がいなくなりました。今言えるのはそれだけです。」
私がお花摘みに行くと席を立ってからかれこれ15分になろうとしています。
あまり長いと色々心配をかけてしまいそうですね。
「瑞希さん……言いたくない事は無理しないで良いと思います。」
私はその言葉に微かに頷く事で答える。
「大事なのは、私も瑞希さんもお兄ちゃんの事が好きだという事です。」
その言葉にも私は頷く。
「そこで女子同盟を組みませんか?」
悠子ちゃんから突拍子もない提案がされるた。
同盟?どういうことでしょうか。
「告白は自分のペースでいつしても良い。過度なスキンシップもお兄ちゃんが本気で嫌がらない程度なら可。」
「お兄ちゃん、お姉ちゃんみたいに裏切る人や陰で悪い事言う人に敏感になってます。センサー?みたいなのですかね。」
「それにかからない事は前提ですけど、例えば腕を組むとか、あ~んするとかなら大丈夫なのではないかと思うのです。」
「そうやって私達を少しずつ意識してもらうのです。女性に対するリハビリにもなると思うのです。」
「最終的に選ぶ……というか好きになるのはお兄ちゃんの自由なので私達かそれ以外の人かわかりませんが……」
「お兄ちゃんにまた恋愛をして欲しいと思うのです。その手助けが出来ればいつか振り向いて貰えると信じて。」
「だからこその同盟なのです。お兄ちゃんの事が好きであれば、変な事もしないでしょうしね。」
変な事とは……きっと裏切ったり、托卵のような悪魔の所業の事を言っているのでしょう。
「わかりました。同じ人を好きになった者同士……戦友と書いてライバルと読むというやつですね。」
そして私達は同じ黄葉真秋という男性を好きになった者同士、真の意味で友達となりライバルとなった。
このトイレの入り口のドアを開けた時から戦いは始まるんだ。
私が唯一した恋愛。片思いだったけれど初恋だった。
消えたと思っていた初恋だったけれど、その炎はまだ消えていない。
初恋継続中なんだ。
私と悠子ちゃんは同時に扉に手を当て、開く。
新しい戦いの扉を……トイレの扉だけれども。
☆ ☆ ☆
席に戻ると「恋愛CHU!」が流れていた。
今の自分達の気持ちとその歌詞のせいか、二人共顔が赤かった。
そして少し前の事を思い出す。
そういえば 二つある個室の内一つの個室が閉まったままだったなと。
鍵のところは赤い表示のまま変わる事はなく。
もしかすると出るに出られなかったのではないかと思う。
中の人には申し訳ない事をしたなって思います。
あんな話が聞こえてきたら、誰だって居心地は良くない。
人の恋愛話なんて聞かされて、重い話もあったしどうして良いかわからなかったのではないでしょうか。
携帯を弄って遊んでいた……とかなら別ですが。
☆ ☆ ☆
今日は良い一日でした。
ライバルが悠子ちゃんだというのは正直心苦しいですが……
それでも「あ~ん」は出来ましたし、帰りに腕も絡めちゃいました。
あんな事したことないので心臓はバクバクドキドキでしたが。
それに……同じアパートに住んでいたなんて……灯台下暗しでした。
そういえば一つ気になる事が……
悠子ちゃん、黄葉さんとそのまま階段を上がって行ったような?
――――――――――――――――――――――――――――
後書きです。
会話ばかりでいかん。
精進せねば。
月見里さんの語れなかった2回目の出会いと親がいなくなた云々はいつか別の機会に。
次は3人の女子会となります。多分。
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