第119話 茜プライスレスと登校日。
「おう。小澤。」
ひと昔前のちょっとヤンチャな兄ちゃんが片手を挙げるような感じで俺は小澤に挨拶をする。
「茜って呼んで。」
「は?なんて?」
「いや、それはもう良いから。」
呆れ顔で小澤がため息交じりに突っ込んだ。
それならばと俺は思考を凝らして挨拶をする。
「……3号。」
「はうぁっ」
びくっとなって背伸び状態となり身体をぷるぷるとしている小澤茜。
「いや、こんな人の往来で何してんだよ。」
「あ、じょ、冗談。全員が納得した状態でなら良いけど、名前呼びっていうのは良くないよね。」
全員て誰の事だ?
考えたけれど悠子ちゃん・月見里さん女性陣の事だろうけど。
3人に接点はないはずだけれど、話を聞いてもらった手前小澤には2人の存在は知られている。
「女性もカウントダウンでイくことって出来るモノなのか?」
「出来る人もいるよ。むしろイくなと言われてイっておしおきされるのが醍醐味というか……」
「あ、いや。だからこんな公道で話す内容じゃないんだけど。」
「最初にスイッチいれたのそっちじゃない。」
先日会った時と違って今日の対応の方が何だか小澤らしい感じがする。
「そういえばこないだ言い忘れてたけど、髪切ったんだな。」
記憶が正しければ小澤茜の高校時代はロングヘアーだった。あの方の元にいる時は肩くらいまでのセミロングだった。
先日会った時はショートになっていた。別にショートになっている姿を見てショートケーキを頼んだわけではないけど。
今の小澤茜は同じ「あかね」繋がりで、水を被ると女になっちゃう人の居候先の3女と同じような感じになっていた。
あのキャラも最初はロングだったけど……毛はなくなったけど怪我がなくて良かったなという感じでショートになっていた。
「今更だよね。前回言ってくれればポイント高かったのに。というより、髪に気付かないのによく私だと分かったよねと言いたい。」
「まぁ雰囲気とかもあるし、例のセンサーに引っかからないから選択肢は狭まるし、ロングからいきなりショートってわけじゃないからな……段階踏んでるし。しかしショート結構似合ってるな。」
「な……な……そ、そういうところ。そういう所だよ。」
夕陽に照らされ……小澤茜が茜色に染まった。
「眩しい……な。」
俺はどちらに対して言ったのだろう。
夕陽か、それとも……
誰かと付き合っているわけではないから移り気であっても非難される所以はないけれど。
俺を取り巻く3人の女性に対して友人以上の何かを感じているのは否定出来なかった。
☆ ☆ ☆
「お兄ちゃん、私……登校日、行こうと思う。」
あと10日で夏休みが終わるというところで学校では登校日があるようだ。
以前うちに転がってきた時の悠子ちゃんは登校日は行く気がないと言っていた。
抑2学期が始まったところで登校するかどうかもわからなく思えていたというのに……
「無理しなくて良いんだぞ。部活の人くらいしか味方のいない学校、無理して行く必要があるようには思えないんだが。」
大体教師たちは何をしているんだか。
噂に流されるのは高校生だから仕方ないにしても、それを鎮火させるのは教師たちがやることじゃないのか。
「私も戦おうと思って。有象無象が何を言ったとしても気にしない。もっと凄い
数日の間に悠子ちゃんが物凄く逞しくなったように感じるのは気のせいだろうか。
以前の悠子ちゃんだったら戦うなんて言葉使わないだろうし。
それに戦争って何?誰と戦うの?
「でもまぁ、本当に辛い時は言いなよ。今は保護者代理だから学校に乗り込んで先生に抗議するくらいはするから。」
流石に暴力を振るったりはしないけど、ろくな対応もしないのかと意見の一つを言うくらいは良いだろう。
「あはは。お兄ちゃん大袈裟だなぁ。でもありがとう。本当に耐えられなそうだったら寄りかからせて。」
「個人情報だから言い辛いのはあるかもしれないけど、もしもの時のために味方である人の名前だけでも教えて欲しい。」
これは勘でしかないし、出番はないかもしれない。
それでも何か行動を起こす機会があった場合、関係のない人や味方である人を攻撃してしまう恐れがある。
現状わかっているだけの名前をメモしてもらい対策を考える。
接触するわけにも行かないからありえないけど、学校の外にも味方がいる事くらいは伝えられないものかと思う。
内と外に味方がいれば心強いのではないかと。
一番は悠子ちゃんに要らんちょっかい言う人がいなければそれに越したことはないのだけど。
騒動の元となる俺が大体的に動いても逆効果ではないかという懸念はあるんだよな。
杞憂であるならばそれで良い。
☆ ☆ ☆
「行ってきます。」
朝、悠子ちゃんは制服に身を包んで俺のアパートを出て行った。
その笑顔のまま帰って来てくれる事を祈りつつ、俺は見送った。
JKの制服って良いもんだな。夜のお店の衣装の一つというのも納得だ。
俺も会社があるために様子を見に行く事は出来ない。
仮に学校にこっそり着いて行ったとして、センサーが反応してエレエレするのは色々な意味で嫌だ。
女子高生に反応するとして……嫌だよな。
あぁ、でもビッチセンサーというわけではないから、陰で悪口言いまくるという意味で反応するという意味でならありえるか。
それでもあまり良い気はしないけど。
その日一日の仕事はたまに学校の事を思い浮かべながらとなった。
本当に大丈夫だろうか、何もない……という事は流石にないだろう。
うやむやのまま夏休みに入ったというのだから、たかがひと月会わないだけで終息しているとは思えない。
一人二人が言っている事であれば別だろうけど。
会社からの帰り道、駅まで数100メートルといった所で見知った人物を見かけた。
「最近エンカウント率高いな。」
「私は悪いスライムじゃないよ。」
小澤茜と遭遇した。逃げるのコマンドはない。
「すまないが、今日は真っ直ぐ帰らないといけない用事があるんだ。」
もしかすると部屋で落ち込んでいるかもしれないからな。
「途中まで一緒に歩くだけでも良いよ。」
少し歩いた所でこれまた思いがけず見知った人物と出逢う。
「あ、月見里さん。こんばんは。」
「へっ?あ、黄葉さん。こんばんは。そしてお隣の方は?」
「こちら高校の同級生の小澤茜さん、こちらは同じアパートに住んでる月見里瑞希さん。」
「初めまして。小澤茜です。」
「初めまして。月見里瑞希です。」
二人の挨拶は被り、同じように頭を下げる。
「またライバルが……」
「こんな清楚系が……」
二人が何か言っている気がするが、敢えて難聴系を装う。
「今日は真っ直ぐ帰らないと行けないので……」
込み入った話はまた今度にという事にしてもらう。
人物こそ違うが、何故か先日アニスミアからの帰りと同じ状況となっている。
両隣にそれぞれ小澤、月見里さんが引っ付くように歩いている。
駅前通りからアパートに辿り着こうかという時、アパートの階段に誰かが座って蹲っているのが見えた。
見覚えがある。アレは今朝送りだす時に悠子ちゃんが着ていた高校の制服。
顔を見なくてもわかる。あの蹲っているのは悠子ちゃんだ。
目の前まで歩くと、蹲り微動だにもしていなかった悠子ちゃんはゆっくりと顔をあげる。
ゴジラの浮上のようにゆっくりと。
「ぁ……お兄ちゃ……んと、瑞希さん……と……新しい奥さん?」
なんでやねんっ!!
――――――――――――――――――――
後書きです。
登校日、学校で悲痛な何かがあっただろうに、最後の一言でコメディになっちゃいました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます