第118話 〇〇担当が必要であるなら、茜は何担当だろうか。
先日は悠子ちゃんの誕生日を祝った。
祝ったとはいっても少し豪華な夕飯を悠子ちゃん自ら作り、俺が買って来た悠子ちゃんの好みに合わせたケーキを買ってきて、プレゼントを渡しただけだけど。
あの時の写真は深雪に送ってある。
それをどうするかは正直向こう任せだ。
写真に映る悠子ちゃんは、本当に家出をしてきたのかというくらいの笑顔だけどな。
会社の帰りにドラッグストアに寄った。スーパーと道路を挟んで隣接している。
決してやましいものを買いに来たわけではない。
シャンプーと目薬を買いに寄っただけである。
レジで会計をしていると後ろに見知った人物が並んでいるのに気が付いた。
「ん?小澤?」
珍しい相手に疑問を抱く。実家はこっちじゃないし、例の施設も当然この辺りではない。
こんな田舎のドラッグストアで偶然出会うにしては違和感を抱かずにはいられない。
「あぁ、うん。小澤茜だよ。宴も裁判も終わって忘れ去られているかもしれないけど。」
何か棘のある言い方だけれど、最近忘れがちなのは否定出来なかった。
殺伐とした毎日から現在は少し落ち着いた日々が続いているのだから仕方がないのかもしれない。
もっとも、小澤茜無料券は財布に忍ばせたままなのであるが……
会計が終わると一緒に並んで歩いている。
特に何かを考えての事ではない、颯爽と帰るのを直感が止めただけだった。
「お茶でもしていかない?」
ナンパではないけど、声を掛けたのは小澤だった。
駅前を歩いているという事は、寄れる場所は限られてくる。
「まぁ良いけど。」
☆ ☆ ☆
「おかえりなさいませ~ご主人様、お嬢様~。」
出迎えてくれたのはカレンさんでも小倉さんでもないメイドさん。
この後夕飯もあるのでお腹に溜まるものは食べられないなと思い、ケーキセットにする。
「私は普通にオムライスにする。絵描いてくれるんでしょ。」
小澤は定番の萌え萌えオムライスを注文。
一体何を描いてもらうのやら。
「久しぶり……だな。」
ともえの子の引き取り以来だからもう一月にはなるのだろうかね。
というかね、小澤の服装を見ていると目のやり場がね。
気にする程度には女性の身体というものに意識自体はしているという事かな。
「じろじろ見てるの……女性はわかってるものだよ。まぁ一度黄葉君には全てを見られているけどね。」
語弊のある言い方はやめていただけるろうか。
確かに全裸を見ているし、あの時は復讐の一環で色々していて形振り構わずだったけど。
「あの無料券の事だけどね。」
小澤の言葉にぴくっとしてしまう。
「別にプレイする事にだけ使う必要もないんだよ。」
どういうことか?と考えていると……
「……こうしてお茶友達みたいな事とか……デートとか……相談とか……」
少し気になる言葉を口にする小澤。デートはともかく……相談か。
「じゃぁせっかくだし相談させてもらうかな。」
「あぁ、うん。残念。相談でも良いとは言ったけど……本当に相談だけ?」
「不満?」
「不満というよりは残念。私なら身体の方のリハビリに付き合ってあげられると思たんだけどな。」
といったところでオムライスが運ばれてくる。
「何を描きましょうかにゃ~ヌフフ。」
運んできたのはカレンさんだった。オーナー兼店長なんだからもっと後ろでドンと構えていればいいのに。
最前線が好きなオーナーって……
「そうね。目の前の彼をお願いしようかな。」
「ぶ・らじゃー!」
それは女の子が大声で言っちゃだめなやつではないかな、カレンさん。
そしてお前もか小澤茜、お前も俺を描いてもらうのか。
ホットケーキは平面だけどオムライスは曲面だぞ……ってカレンさん上手っ。
お絵描き上手のカレンさん……
「出来ましたにゃ、新しい奥様っ。」
「ぶほっ」と俺は思わず吹いてしまった。
「ちょっとカレンさん、タチの悪い冗談は……」
「ご主人様はどの奥様が正妻なんですかにゃ~。」
「面白がってるだけでしょ。これ、俺が異性とここにくる度に使うネタにしてませんかね。」
「ふむ。黄葉君は結構タラシの素質があったのかな。」
最近の状況を振り返るとその言葉に否定は出来なかった。
そして相談というのはまさしくそのことについてだった。
言い方を変えてモテ期と称していたけれど。
小澤も描かれたオムライスを写真に納めてから食べていた。
先の二人みたいに崩すのが勿体ないと口には出さなかったけど、眉が寄っていたので本当は惜しかったのだろう。
俺のケーキも美味しかった。以前聞いたことがあるけど、ここのケーキはメイドさんが作っているらしい。
普通にケーキ屋で売られていても遜色のないそのケーキは、甘さもしつこくなく程よく甘くてスポンジもふわっとして美味しい。
「それで……相談……というか話したい事あるんでしょ。」
オムライスとケーキを食べ終わり紅茶を飲みながら話し始めた。
女性不信、ともえセンサー、最近の心のゆとり、月見里さんとの出会い、悠子ちゃんの居候・・・…
「う、羨ましい。」
「は?なんて?」
「あ、いや。なんでも。最近急にモテ始めたような気がするからどうしたら良いかなと言う相談で良いのかな。」
「言い方が少し下世話だけど、まぁ近いかな。ともえと一緒の時は周囲に目を向けられてなかったからわからないけど。」
「悠子ちゃんの場合は昔からの付き合いもあるから、近所のお兄ちゃんに対するものだと思うんだけど……」
「そんなことないと思うけどなぁ。」
「は?なんて?」
「でも月見里さんの態度の急変というかぐいぐい感が良くわからない。」
素敵な女性に迫られて嫌な気はしないんだけどね。
「確かに話しに聞いただけだと接点は例の飲み会の時からだし、本人の人間性が良いという事は伺えるけど、黄葉君に迫る理由はわからないね。」
「だけど、二人共友人以上の感情はありそうだねぇ。第三者が言う事じゃないけど。でもまぁ強力なライバルが二人もいるのか……」
「は?なんて?」
「いや、それはもう良い。鈍感系主人公気取っても無駄だよ、聞こえてないわけないじゃない。この距離でずっと会話しているのに。」
「あ、うん。バレてたか。しかし小澤までそうなん?俺のどこに惹かれる要素があるのか自分ではわからん。」
スプーンをカップに入れてかき混ぜる。放置していたために冷めてしまったかも知れない。
「私は前に言ったよ。あの行動力を見せられたら意識くらいはするものよ。トドメはあの鬼畜プレイね。」
「あ、そうですか。」
少し思い返してみるが、普通に考えてあれで堕ちる要素あるのか?SとかMとかだとそういうものなのか?なんて考えてしまう。
「今すぐ結論を出す必要もないんじゃないかな。三者三葉、それぞれ向き合って考えれば良いと思うよ。少しゆとりが出てきたとはいっても、例の忙しくなる前の状況にまで戻ったわけでもないでしょうし。」
「でもそれだと俺が不誠実じゃないか?俺がゲスになったんじゃないかと錯覚するんだけど。」
「私はハーレムでも良いんだけどね。喜納の事があってから人並みの倖せみたいなのは半ば諦めてるし。」
「いやいや、ハーレムって……異世界じゃあるまいし。でもまぁ、今の状況になって日が浅いから全てを結論付けるのは早いというのはわかった気がする。」
☆ ☆ ☆
「ありがとうございました~ご主人様、奥様~。」
カレンさんは平常運転だった。にこやかに見送る姿は邪悪に満ちていた。
「それじゃ、今日はありがとう。またな。」
「あ、うん。また……」
見送る小澤の姿がどこか名残惜しそうに見えてしまったけど、俺は帰路についた。
なんだかともえと決別してから短時間で3人に言い寄られるって……
話を聞いてもらって少し気は楽になったけど、悩みというかどうしたら良いかという課題はまだまだ晴れそうにない。
いつかはやっぱり結婚して家庭は持ちたいと思っている。
だからこそセンサーに反応しない3人は本音をいえばありがたい。
見ず知らずの第三者に話しかける勇気などは今更持ち合わせてはいないし。
18歳になった悠子ちゃんが同じ家にいるのはまずいんじゃないだろうか。
不能だからといって襲わない理由にはならないし。
何かの拍子でって事がないとは限らない。
家に帰すのが一番なんだろうけど、せっかく解れてきた悠子ちゃんの表情を見るとまだ尚早ではないかとも思うし。
空いている301号室を借りるか……
事情を説明すれば小倉さんとこ……って流石にそれは迷惑か。
☆ ☆ ☆
今日は定時間差勤務で朝早くからだったので少し早めの退社だ。
実はケーキセットの虜になりつつある俺は初めて一人でアニスミアへと足を運ぶ。
先日小澤と入った時はショートケーキだったけど、今日はチーズケーキにしてみた。
やっぱり美味い。なんだろう、有名パティシエでも雇ってるの?という出来だ。
最低でも食物調理科を卒業した人でも雇ってるの?と。
「いってらっしゃいませ~ご主人様~」
先程席で一人でいる時に「別居中ですか?」なんて冗談を言って来たカレンさんがやはり挨拶をする。
店を出て家の方向へ身体を向けると、そこには先日話を聞いてもらった小澤茜が立っていた。
あれ?もしかしたら小澤茜はストーキングのスキルでも取得してるんじゃないかと思ってしまった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
後書きです。
今話は小澤茜のあーんです。違うターンです。
エロ……いるかなぁ。
身体のリハビリには適任なんだけど。
それよりも月見里さんとデートしろって?
そうですね、そろそろ映画館にでも行って貰いましょうかね。
全員が仲良くなればラウ〇ドワンとかもありですな。
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