第104話 暴走、そしてヤンキーこわい

 「ごめんなさい。お兄ちゃん。」


 電話越しに謝ってくる深雪。

 新居の住所を勝手に教えた事に対する謝罪だった。


 この場所は家族と何故か知ってた田宮さんと、会社しか知らない。

 同僚達は電車いらずになった事は知っていても住所までは知らない。


 そのため全部で10人も知らないはずだった。


 日に日にボロボロになっていく悠子ちゃんの姿を見ていて、いたたまれなくなって教えてしまったという。

 深雪にしても悠子ちゃんにしても更に他の人に教える事はないとは思うけれど。


 「まぁ過ぎてしまった事は仕方ない。おじさん達も心配してるんだろ。」

 このままだと俺は誘拐犯になってしまうので、今日は預かるから心配はいらない、その代わりきちんと話し合ってくれと伝えてもらうように頼んだ。



 「本来は俺が直接伝えるのが一番なんだろうけど。」


 「お兄ちゃんがおじさん達にも住所を教えなかった意味……考えてなかった。本当にごめん。」

 板挟み状態の深雪も胸が痛いはずだ。あまり責めるのも良いとは思えなかった。


 「それで悠子ちゃんは今……」



 「ん?あぁ、あって風呂に入って貰ってる。別に変な意味じゃないぞ。」


 時刻は21時を回っている。

 悠子ちゃんが訪ねてきてから約5時間。


 色々あったんだって、色々……


 女って怖いよ。

 怖いんだよ。

 正確には……


 あと、鍵はきちんとかけよう。



 深雪と会話しながら4時間程前の事を思い出す。


☆ ☆ ☆


 「な、なんでもするから……」


 「掃除でも洗濯でも炊事でも。」

 

 懇願する眼差しで見つめてくるので俺はどう答えようか迷っていた。

 普通に考えれば両親の元に帰らせるのが良い。

 一人で帰らせる、俺が送って行くというのはともかくとして。


 そうでなければうちの実家でも良い。

 しかし後で叱られるのがわかっていながら深雪がここを教えたという事を考えれば、恐らく実家の近辺にいるのも嫌なのかも知れない。

 話を聞く限りでは、来月2学期が始まっても学校に行けるかどうかも怪しいくらいだ。


 高校三年生の大事な時期だというのに、このままでは進路にも影響が出る。

 そうだよ。進路に影響が出るかもしれないのに、イジメなんてやってる場合じゃねーだろ学校の奴ら。


 悠子ちゃんの地頭は良い。学年でも上位であるとは聞いている。

 しかしこの状況では維持向上は困難ではないか。

 悠子ちゃんの進路は知らない。進学なのか就職なのか。

 いずれにしても、このままで良いはずがない。


 

 「家に帰る選択肢は?」

 首を横に振る。


 「うちの実家に世話になるというのは?」

 首を横に振る。

 「何日もお世話になったから。これ以上は迷惑を掛けられない。」


 「という事は悠子ちゃんの味方になってくれている友人の所というわけにも。」

 首を横に振る。

 お泊り会のようなものならせいぜい1日がいいところだろうか。

 


 「田舎のお爺ちゃんのところとかは?」 

 首を横に振る。

 「迷惑をかけられないし、心配かけさせたくない。」

 確かに人の噂はどう広まっているかわからない。

 ネットの力は怖い。もしかするとともえの事が田舎にも広まっている恐れはある。


 喜納一族であればそれは顕著だろうなとも思った。



 「それでうちを選んだ理由は?迷惑をかけるかもという意味では田舎のお爺ちゃんとかと同じだと思うけど。」


 悠子ちゃんはそこで黙ってしまう。

 何かを言おうとはしているのだけど、良い淀んでいた。


 「……った。……守ってくれるんじゃ……ないかって。勝手に思ってた。」

 「寂しかった……友達はいても……一人は辛かった。」

 「お兄ちゃんなら、慰めてくれるんじゃないかって……」


 その気持ちがわかるなんて事は言えないけど、辛い時に一人が堪えるのは理解出来る。

 本来憩いの場である家が安らげないのは辛いだろう。


 悠子ちゃんが俺に抱き付いてくる。

 玄関を開けた時は唐突だったし泣き出しそうだったから思わず受け止めたけれど……


 今も泣き出しそうだけど……


 「買いかぶり過ぎだ。俺には何も出来ない。ともえの事でやり過ぎたという自覚はあるけど。」


 「お兄ちゃんしか頼れない。迷惑なのも理解してるっ。」

 「数日でいいから置いて欲しい。なんでもするからっ、お姉ちゃんの代わりにサンドバックにしてもっ。」 

  

 言葉のサンドバックなのか物理的なサンドバックなのか、意図する事はわからなかったけれど。

 

 「それはダメだ。悠子ちゃんは悠子ちゃんだ。ともえじゃない。ともえの代わりなんかじゃないだろ。どんな事であっても二人は別人なんだ。」

 

 「代わりじゃないって言うなら、置いてくれるなら……何をしても良いから。」

 それは覚悟じゃない。何かを諦めたというのが適切だ。

 

 「私はお兄ちゃんになら……こんな時に言うことじゃないのはわかってるけど。でも頭がごちゃごちゃして。」

 

 悠子ちゃんの体重がかかってきたせいか、俺は後ろに重心が寄ってしまいソファに押し倒されてしまう。


 「一人暮らしの男の部屋に世話になるという事が、どういう事かわかってない。」

 あくまで一般論ではあるが……健全であるという保証はない。


 「それで、しばらく置いて貰えるなら。」


 「いいや、わかってない。悠子ちゃんはわかってない。」

 センサーの件もあるから女性そのものから離れたいと思われがちではあるが、そういうわけでもない。

 今はあまり考えられないだけで、いつかは結婚して子供も欲しいとは思っている。

 

 「ともえのせいで、たとえ前に進もうと思っても俺は何も出来ない。」

 「捨て身ではいどうぞと言われても何も出来ない。」  


 俺は悠子ちゃんの肩を掴み、体勢を入れ替える。

 「はいどうぞとJKが誘って来たとしても何も出来ない。この苦しさわかる?」


 「ともえのような裏切り行為や陰で悪口を言う女に対して、変なセンサーが無意識で反応するようになった。」

 「この先そのセンサーが反応せず、関係が良いところまで行っても俺のここは反応しない。」

 「ともえのせいで不能になってしまったからな。精神的なものだからいつ治るかもわからない。」


 「正直、本気だろうと勢いだろうと、このまま悠子ちゃんを押し倒したとしても何も反応しない。」



 バッと悠子ちゃんの胸元を掴み、そのまま勢い良く衣服を引き千切った。

 ともえ同様薄い胸に可愛い下着と、はみ出た突起が見える。

 「ひぐっ」

 悠子ちゃんは驚き、俺と胸元とを黒目が行き来している。


 「こんな事をしてもな、俺のこれは反応しないんだよっ。ともえのせいでもう何ヶ月も反応しない。」

 「決着がほぼ着いて一人大人しくしていたかったのにっ。それを奪うと言うのかっ。」

 これはもう何を言っているのか俺自身わからない。俺の方こそ頭がぐちゃぐちゃだ。

 悠子ちゃんへ八つ当たりしているだけだ。


 悠子ちゃんは悲しい顔をしていた。怯えるでも恐れるでも蔑むわけでもなく。


 「ごめんなさい。私が訪ねたばか……」


 悠子ちゃんが話しているところで第三者の声が乱入してきた。


 「うるっせーんだよ。何時だと思ってんだ。ご近所迷惑だろーがよっ。」

 バッターンと家の玄関扉が開け放たれ、鬼の形相の隣人、小倉七虹さんが乗り込んできた。

 そして俺と悠子ちゃんの現状を見て……


 「正座。そこに正座。いいから正座ッさっさと正座ッ。」

 小倉さんは俺を指差し、それからフローリングを指を差し誘導する。

 俺は勢いに負けてというか気圧されてというか、悠子ちゃんから手を離て正座をする。

 悠子ちゃんは胸元を手で隠し一緒になって正座をしていた。


 「あ、君は良いよ。とにかく何か服を着て。」



 それから2時間に渡り小倉さんの説教と、現状に至る経緯を説明した。

 

 その中で思った事がある。

 玄関の鍵はきっちり閉めよう。

 それと感情的になって大きな声を出すのはやめよう。

 特にヤンキーに逆らうのはやめようと思った。

 というか小倉さんヤンキーだったのか……怖い。田宮さんとは別のベクトルで怖い。

 そして、乗り込んで来た時の小倉さんも近所迷惑だと思ったけど指摘は出来なかった。

 ちなみに時刻は説教が終わった時点で20時前である。


 しかし、彼女の怒声や説教は純粋に悠子ちゃんを思っての事だった。


 「……実家には連絡を入れなさいよ。未成年なんだから。事情を説明して承諾を得られれば誘拐とかにはならないだろうから。」


 

 そして妹の深雪に電話をする事にした。

 小倉さんは部屋に戻っていった。



―――――――――――――――――――――――――――


 後書きです。

 

 無理矢理なのはわかってます。多分色々修正入ります。

 このままだと悠子もビッチっぽい感じがしてしまうので。

 悠子の言う何でもとは別にやらしい事を含んでの事ではないのですけど。

 いつかそういう関係にという思いが悠子にないわけではないけど、今じゃない事はわかってます。


 

 

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