犯人捜しと仲魔集め編

第36話 コノウラミ……ハラサデオクベキカ

 産婦人科の先生から聞いた話はかなりショッキングな内容だった。

 先生がいうには妊娠0週目は8月15日近辺という事だった。


 あの時期俺は会社の業務が忙しくともえを相手してやれなかった。

 抑々勃起不全に陥っており、相手したくても出来なくなっていたけど。

それについては申し訳ないと思う。



 だから俺の子なはずがない。

 つまりともえは誰かに身体を許していた事になる。

一体それは誰なんだ?

会社の人間か?学生時代の誰かか?ナンパか?

ともえの見た目の変化も恐らくそいつの趣味に合わせたものだろう。


なんだか思い出すだけで腹が立ってくる。


 ともえを実家に送った後、俺はアパートに戻った。

 とてもではないが、今の心境で安堂の家にいる事は出来ない。

 当然隣の実家に寄ると家族がいるために落ち着いて考えられない。


 俺はネットで調べた。

 浮気や不貞に強い、自宅近辺の探偵を。


 なんの奇跡か、歩いて5分の所にその事務所はあった。

 早速電話をして開いている時間の相談をすると、暇だからいつ来ても良いとの事だった。


 

 地図を確認し、その探偵社住所へと移動する。

 「天城探偵事務所……あった。ん?天城……?なんか聞き覚えが。」


 聞き覚えがあって当然だった。

 高校の同級生、天城小次郎が勤める探偵事務所だったのだ。


 「おま、元警察でもないのに探偵て凄いな。」

 再会して最初の挨拶にしてはぶしつけであった。


 「まぁな。兄の事務所なんだけど、俺は現在は助手として学んでるところだよ。」


 小次郎に案内されて、兄である探偵の大次郎の元へ案内される。


 どちらも次郎なんだなと思ったがそれは突っ込まない方が良いのだろう。



 「なるほど。嫁さんとなる予定の彼女の不貞の証拠とお腹の子の父親の正体を突き止めて欲しいというわけですね。」

 

 大次郎さんと小次郎は見た目そんなに変わらない。

 某サッカー漫画の立花兄弟の見分けがつくか?と問われれば見分けがつかないのと同じ。

 良く見ると目の下の黒子が違うのだけど、大次郎さんが左目の下、小次郎が右目の下に黒子がある。


 「お金に糸目は付けないので、出来るだけ早くお願いします。指輪が3月に出来るのでその前に何とか……」


 「あ、多分直ぐに結果は出ると思いますよ?浮気を今でも続けているのであれば少なくとも現在の浮気の証拠は数日でつかめると思います。」


 見積金額を見て少し驚いたけど、払えない金額ではない。

 小次郎は同級生割ではないけれど、少し金額を下げてくれたのと、支払期限に関して尤度を持たせてくれた。


 


 それから4日、もう両方の結果が出たと連絡が来たので仕事が終わるなりまっすぐ天城探偵事務所に向かった。

 途中俺のアパートを覗いたけど、明かりは点いていなかった。それはともえが来ていない事を表す。


 「こんばんは。随分早いですね。」

 この探偵超優秀だろ、なんでこんなに客……依頼者少ないんだ?

 

 「あちらの部屋で報告しますので、先に入ってお待ちください。」


 小次郎にこないだと同じ部屋に案内される。少しお高い紅茶と茶菓子を用意される。


 「さて……早速知りたいとお思いでしょうし……こちらが浮気相手と一緒にホテルに入る所です。」

 それはラブホテルとは違う、シティホテルの入り口で男の腕を掴んで慣れた様子で入っていくともえの姿が納められていた。

 そして次々に写真を見せられていく。

 フロントで軽く挨拶だけしている所、鍵を受け取っている所、最上階の部屋に入る所……

 流石に部屋の中の様子はわからないけれど、これが初めて入る様子ではない事が写真からは伺える。


 俺はこの男に見覚えがあった。

 正確にはよく似た男に見覚えがあった。

 高校時代、何度か見た事のあるあの男……


 「喜納……」


 「俺も驚いたよ。まさか彼女があのクズ男と一緒にいるなんてさ。」

 小次郎が言った。そして続けてその先を口にする。

 「ずっと張ってたんだけどさ。出てきたのはその翌朝で、そのまま二人で出社してた。喜納商事がグループの喜納遊具に。」


 俺もともえの勤めている会社の名前は知っている。

 そういや喜納グループだったな、ともえの勤めている会社は……と最近思い出したくらいだから。


 ホテル自体は潜入出来たけど、部屋は流石に無理だったとの事。

 どうやらあのホテルの最上階の一室は喜納の社長があのクズ男のために設けた部屋らしい。


 つまりは誰かを連れ込む時はあそこを利用するという事か……


 「部屋の中の画像・映像は無理でしたが、音声は収録出来ています。」

 というわけで早速流しますねといって流し始める大次郎さん。


 「なぁ、ともえ。お前式はいつ頃なんだ?」

 「んー指輪が3月に出来るからその後かな?」


 「ところであいつには全然バレてはないよな?」

 「子供の事?一回だけ一緒に産婦人科に行ったけど全然バレてないよ。」


 「まぁバレてたら流石に何か悶着あるわな。」

 何やら肌の擦れる音や水音が混じった音が収音される。


 「もーお腹の子に響くからだめだよ。」


 肌を撫でてる音が入った後。

 「これで俺の子も二人目か。あとは香奈美をどうするか真剣に考えないとな。」


 「あんまり大事にしないでね。家同士の繋がりで結婚したんだから。」

 「まぁ勘当されても大丈夫だろ。お前が数年後あいつと離婚して、慰謝料と養育費を踏んだくれば良いんだから。」


 なん……だと?

 俺は自分の手を強く握り、爪で掌の皮膚に強く食い込んで行くのが理解出来た。

 恐らく血も出ているだろうけど、そんな事気にならない程に怒りが湧いていた。



 要約すると、ともえは喜納と浮気をしていて、あのお腹の中には喜納との子供がと。

 そして喜納は喜納で幼馴染の嫁と離婚して、ともえと一緒になる気だと。

 ともえは俺を悪者に仕立て上げ、慰謝料と養育費を掠め取ろうと。



 

 「追加で依頼を頼みたい。かつて喜納に煮え湯を飲まされ、喜納に恨みを持つ者達と連絡を取りたい。」

 山本は警察官になると言っていた。連絡先が変わっていないのは確認している。

 他に法律に詳しい者や医学に詳しい者も必要だ。


 それと……俺達の式を指揮してくれる、司会が出来るエンターテイナー性のある者も。

 あぁこれは高橋が適任だな。演劇が好きで部活もやっていたし。


 「それとこの写真と音声はいただけますか?」

 

 「それも含めた代金ですので。」



 コノウラミ……ハラサデオクベキカ……



 それから数日したある日、この近辺のとあるホテルが火災に見舞われたというニュースが流れた。

 幸い死者やけが人は出なかったものの、暫く営業は出来ないという事だった。



―――――――――――――――――――――――――――――


 後書きです。

 探偵は同級生とそのお兄さんでした。

 そして超優秀でした。


 そして相変わらずのクズ二人でした。


 それと火災のあったホテルの火災に真秋は無関係です。

 関係のない人の命を奪ってしまうかもしれない行為はしません。


 別日に一人であの部屋にいた貴志のたばこの火の不始末です。


 もうすでに呪いの力は発動しているのです。(流石にそれは嘘)

 

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