第21話 第二ボタンの誓い……からの告白

 2年の終わり、例のメグナナの二人に遭遇した。

 街を歩いていた時に偶然助けられたというだけなのれけれど。


 人通りも少ない2人分くらいしか幅がない歩道。

 正面から他校の中学のちょっとやんちゃな女子生徒が、車道にまで広がり闊歩していた。

 私はそれをやり過ごそうと建物の影に隠れたけれど……


 「テメー何避けてんだよ。」


 なんとわざわざいちゃもんをつけてくる他校のヤンキー。


 「オメーどこ中?」


 このフレーズは全国で流行ってるのだろうか。

 平成前には既にあったと聞いたこともある。


 女子ヤンキーに壁ドンされるがトキメキなんてない。

 化粧もおしゃれというよりは威圧をメインに描いているものだから、良い匂いなんてしない。


 何も言わず考えていると、一人が問答無用で殴りかかろうと腕を振り上げる。

これだからヤンキーは、なんて考える。


 振り上げるが、それが私の身体に触れる事はなかった。

 

 「オイ、ウチの中学のモンになんさらしよるんか。」

 少し広島か九州かそっち系の言葉でその腕を掴んで止めてくれたのは、あの怖いと評判のメグナナの二人だった。


 「おい、お前1年か2年だろ?さっさと帰んな。この喧嘩はあたしらが無料で買い取ったからよ。」



 私は簡単にお礼を言ってその場から立ち去ったけれど、翌日偶然見かけた二人は傷らしい傷も負っていなかった。

 態々二人の元へ行き、昨日のお礼を言うと二人は何でもない事のように笑って受け止めていた。


 どうも礼は言われ慣れていないらしい。

 それでも私は学校で噂されてるような、やべぇヤンキーではないんだなと昨日の事で実感した。

 もしかすると同じ中学に通う仲間という事で、身内を助けただけなのかも知れないけど。


 

 そんなメグナナの二人もあっさり卒業していった。

 同じ市内にある高校に進学したと風の噂で聞いた。


 私はどこに進学するかはまだ決めてはいない。

 真秋と同じところであるならば、それが地球の反対側でも良いと思ってる。


 

 そういえば真秋はどこの高校を受けるのだろう。

 今度聞かなくては。



 3年生になると何をするにも一目置かれる。

 天下を取った気分だ、とまでは言わないけれど。

 

 体育祭も文化祭も真秋がいるから充実したものとなった。

 フォークダンスの時は態と身体を密着させてたんだけど、特にこれといった反応が返ってこなかったのは軽くショックだった。


 問答無用で手や身体に触れられるのはこうした行事だけなのだ。

 15歳にもなれば色々意識もする。以前は当たり前のように手を繋いでいたのに、何故か妙に照れ臭くなる。

 それは真秋も同じようで態度が若干ぎこちなくなってた。


 顔が赤くなるので、それなりに異性として認識してくれているのかな。


 修学旅行となると、夜は好きな人を暴露する女子トークがあちこちの部屋で行われていた。


 私の場合は言うまでもないからと、なぜかみんなに言われた。

 「あんたはどうせ黄葉一択でしょうが。そのくせ何も進展のないヘタレ夫婦め。」

 なんて揶揄われるけど、中々一歩が踏み出せないのは事実だった。


 いい加減にアクションしないとこのままずるずる幼馴染のまま歳を重ねてしまうのだろうか。

 それは嫌だ。真秋は私のものだし、私は真秋のものなのだ。


 でも、何のきっかけもなければ告白なんて出来ないヘタレでチキンな私に好きだと言えるのか。


 そういえば、3年も終わりに近づくとカップルが増えたように感じる。

 周りを見ればいちゃいちゃ……


 きっと私達も最初はこう見られていたのだろうか。


 高校は真秋と同じところを受験する事にした。

 地元にある高校で中学よりは少し遠いけど、20分圏内なので多少の寝坊は可能だ。

 まだ受けてもいないのに気は早いかも知れないけど。



 年が明け、あっという間に受験シーズン。

 成人の日に雪が降る事もなく、受験生には優しかった。

 大雪でセンター試験を受けられなかったという大学受験の人も、数年前にはいた事をニュースで見ている。


  

 

 あっという間に合格発表。

 私も真秋も受験番号が合って両手を繋いでハイジャンプを連続でして喜んだ。

 これで高校も一緒にいられると、安心できた。


 受験の事があったのでバレンタインは久しぶりに質素なものとなった。

 それでも手作りなのだから、愛情は詰まっていると思う。


 文字通りが詰まっている。


 薄い本の見過ぎかもしれないけれど。



 今年は部活ではなく、自宅で作ったからこそ出来る芸当。

 千年の恋も冷める芸当かも知れないけど、これでも私は必死なのである。


 女友達の半数が彼氏持ちという事に焦りを感じたのかも。


 でも残念ながら特別な愛入りのチョコを真秋は気付いてくれなかった。

 気付いたら気付いたで怖い話だけれど。


 ホワイトデーのお返しでは、真秋のホワイトチョコが入ってるなんて事もなく。

 真秋の手作りではあったけど、何故かお城型のケーキを作ってくれた。

 これ、もはや芸術の域じゃない?と写真をあらゆる角度から撮影した。


 食べる時に崩さざるをえないのだけれど


 「敵襲―、もう我が城は持ちそうもありません。姫、お逃げください。」

 なんて一人で寸劇を始める真秋が面白かった。

 私は知らずに姫を象った苺飴をフォークで寸断していた。身体は見事に真っ二つだった。


 「姫―、なんとおいたわしや……」

 真秋の一人寸劇は続いていた。



 

 部活じゃないから思い切ったものを作ってみたかったとのことだった。

 


 なんてことをしていたらいつの間にか、今度は私達の卒業式が迫っていた。

 というより明日だった。


 結局私は中学3年間もあって、真秋に好きだと一度も言っていない。

 それは真秋も同じだけど。

 だからこそ不安になってくる。真秋は私の事をただの幼馴染にしか思ってないのではないだろうかと。


 そんなのはいやだ。

 一番長く真秋の隣にいるのは私なんだ、これからも。


 もうこれは卒業式の定番をやるしかない。

 「第二ボタンの誓い。」


 あれって後輩が卒業する先輩にねだるものじゃないかとも思ったけど関係ない。

 告白するならもうそれを利用するしかない。


 卒業式の内容なんてあまり耳に入らなかった。

 気が付けば卒業証書を持って教室に、クラスメイトに別れを告げていたのだから。


 帰ろう、と真秋が誘ってくれた。

 多分外に出れば両親達が待っている。

 その前に決めなければならない。


 横に並んでいた真秋が一歩前に出ると私はその腕の裾を掴んで……


 「待って。」と呼び止める。


 真秋が正面に立って不思議そうにこちらを見てくる。

 まだ教室に残ってる生徒はにやにやとしながら見ているのだけど、それは気にならなかった。

 

 「真秋、私に第二ボタンをください。」


 一瞬不思議そうな顔をする真秋だったけれど、真秋は制服の第二ボタンに手をやるとそれと取って。



 「良いよ。ともえにあげる。」


 ボタンを手渡してくれた。そのまま私は真秋の手を握り締め……


 「ずっと、ずっと……生まれた時から真秋の事が好き、好きです。幼馴染は卒業して恋人になって欲しい。」


 ついに言っちゃった。周囲の生徒のにやにやは止まらない。

 中一の時から見せられてきたのに今更告白かよという声も聞こえる。


 「あ、あぁ。うん。本当は俺から言わないといけなかっただろうけど、俺もともえの事が好きだ。臆病で言えなかったけど。」

 「俺の方からも言わせて欲しい。これからは恋人になって欲しい。もちろんさっきのともえへの返事はよろこんで!」


 その言葉を聞いた私は真秋に飛びつき抱きしめ、そのままの勢いで真秋の唇に私の唇を押し当てていた。



 ひゅーひゅーというヤジが飛んできていたけれど、ただの祝福にしか聞こえない。

 こうして私達は幼馴染から恋人にようやくレベルアップ出来た。

 私の目からはうれし涙が流れてきている。


 唇を離した後に私はそのまま笑顔を作って


 「もちろんわたしも……よろこんで!」

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