第19話 中学生……前編 まだ清い。

 中学校初日、入学式は互いの両親と妹と共に7人で行った。

 小学校はまだ休みなので、家族枠という事で入学式は妹も参加出来た。


 将来自分が通う学校を先に見ておくのも悪くないという両親の言葉であるが、本当は一人家に残すのが心配だっただけだと思う。


 子供だけ残して、火事になったりというニュースが毎年のようにあるので、出来るだけ子供一人の時間は作りたくないという親のエゴもわからなくはなかった。

 でも私は一つの心配をしている。

 そしてそれは見事的中。


 他の新入生もやってる人がいるのだけれど、校門を前に記念撮影をしている。

 私達も写真を撮影する事になった。


 私一人だけ、真秋一人だけ、私と真秋の二人きり……そこまでの写真は良かった。

 「私もー」と言って悠子が校門の前に立った。

 真秋を中心にして右に私、左に悠子が立った。


 きっと悠子には特に深い意味も感情もなかったと思う。

 せっかく来たんだし記念に写真を撮りたいと言ったに過ぎないのだろう。


 でも私にはそれを素直に受け取れるだけの大らかな心はなかったのかも知れない。

 声や表情には出さなくとも、心のどこかで邪魔しないでという感情が過ぎっていた。


 写真を撮ると悠子はすぐに両親の元へと走っていく。

 悠子が真秋を奪い取ろうとしているなんて考えるのは私の心が狭いからだ、黒いからだ。そう思っていた。

 

 悠子が真秋を恋愛対象として見てないのは、「おにいちゃん」と呼ぶ事から推察出来る事なのに。

 小学校に上がる妹が異性として好きだという感情を抱いているはずもない。



 校内に入るとまずはクラス分け表を確認する。

 事前説明会とかあったのだから、クラス分けくらいその時に発表しておいて欲しいものだと思う。


 1年3組に私達の名前があった。私は思わず真秋の手を握り締めてブンブンと振って喜んだ。

 同じ小学校出身の子らにはまたやってるよーのような声があがっていたが、他の小学校出身のものには仲の良い友達だねくらいに思われていた。



 入学式はあっという間に終わり、教室に戻る。


 安堂の「あ」と黄葉の「も」はあいうえお順では離れているため、当然座席は対角に離れてしまう。

 そのせいか、真秋は周辺の同じ「ま行」前後の男女と会話をする。

 私の元にも同じ「あ行」や隣の人から話しかけられる。


 朝の手を繋いでブンブンを見ていた子から話しかけられる。


 初めましてから始まり、自分の名前と出身小学校を話し、それから今朝の事を聞かれる。

 答える義理はないのだが、これからの学校生活、友人の何人かは作らないといけない。

 最初が肝心だと思いその問いに答えた。


 生まれた頃からの幼馴染で大事な人だと。


 それじゃぁ付き合ってるの?とませた事を聞いてくるので、それについてはノーコメントと返した。

 



 真秋の後ろの席の子は東京から引っ越してきた子で、戦闘民族足立区民だったそうだ。

 以外にも真秋とは馬が合うのかそのまま仲良くなっていった。

 「元・戦闘民族足立区民な。今はこっちに引っ越したんだから。」


 彼は山本陽一。南千住に住んでいたが小学校の卒業と同時に親の転勤でこっちに引っ越してきた。

 高校生だったらそのまま残って一人暮らしもありだそうだが、流石に中学に上がる子供を残しては来れない。


 あのまま足立区に住んでいたら将来「オメーどこ中?」と言っていたに違いない。

 そんな山本と真秋は席が近い事もあり仲良くなる。


 私も周囲の席の子らとは仲良くなった。



 中学に入ると異性と遊ぶ事がおかしいと捉えられるのか、恥ずかしいと捉えられるのか。

 所謂「女の中に男が一人」みたいな揶揄いが至るところで起こっており。

 余程容姿が良い人や、突出した長所がない限りは揶揄われる。


 私と真秋の関係は必然的にクラスに広まったおかげで、揶揄われる対象にはなかった。


 その代わり付き合ってるの?とかちゅーはまだ?とかいう質問は絶えない。

 そんなやりとりも夏になる頃には収まり、「幼馴染以上恋人未満」というのが周囲には知れ渡っていた。

 それは気軽に二人にアプローチしないで欲しいという私の要望によるものである。


 私も真秋も、ここ数年は「けっこんするー」の言葉を言っていない。

 恥ずかしいというのが本音だけど、これだけ一緒にいるのだからお互い他の異性に惹かれる事なんてないと思っていたからだ。

 

 そうは思っていても、たとえ体育の授業のペアや体育祭の最後のフォークダンスで違う人と踊ったり踊ってるのを見るのはチクっときた。

 やっぱり独占欲が強いのかなと考えた。言い換えれば「構ってちゃん欲」かも知れない。


 中学に入ると大抵部活に入らなくてはならない。

 真秋は山本と一緒に野球部に入った。

 そしてどういうわけか、お菓子研究部にも兼部として入っていた。

 

 お菓子研究部の活動は金曜のみで、他は自由という事からそれなりに人が集まる。

 お菓子に関係ない事は認められていないので、新入部員の半分はひと月持たずに退部させられるけれど。


 運動部も兼部は認めており、生徒もそこについての不満は誰も言わない。

 



 そういえばこの学校にもヤンキーはいる。

 女子にもヤンキーはいて、道を通る時には勝手に周囲の生徒は避けていた。

 ぶつかった生徒は怖くて漏らしちゃった者までいたようだ。


 特に怖いのが通称「メグナナ」と呼ばれる二人だった。

 この二人には男子も敵わないらしい。

 番長とは仲が良いらしいが、下っ端ヤンキーでは勝てないらしかった。

 


 そんなヤンキー達との絡みを避ければ中学生活は然程悪い事もないと思った。

 


 部活に入ったせいか、二人で過ごす時間は格段に減っていった。

 いや、部活に入らなくても中学生という多感な時期であれば、男子と女子が別々に行動するようになるのは必然とも言えた。


 でも私はそれを寂しいと思っていたけれど、それでもやっぱり好きだと言ったわけでも言われたわけでもない。

 付き合っていないのだから仕方のない事なのだろうと思うようになった。


 幸いにして私にも真秋にも恋愛的な意味で寄ってくる人は少ない。

 中学生から男女の仲なんて、3年ならともかく早い早いというのが現状だと思った。

 あまりにも真秋に女子が寄ってくるようなら、告白すべきか考えるべきかも知れない。


 体育祭や文化祭がそれまであまり仲の良くなっていない生徒とも仲良くなるきっかけとなる。


 私達の代からは一クラス40人の5クラスとなっていた。昨年までは36人の8クラスあったのに。

 だからこそ、接する機会が増えてしまう。


 野球部の活動をみたり、お菓子研究部での意外と上手くて美味いところを見ては、人気が出ても仕方がないのである。


 だから中学生になって初めてのバレンタインは私も手作りを贈った。

 他に配る義理の大群とは違い明らかに力と想いの籠ったものだとわかるチョコは昨年までと同様に受け取って貰える。


 少しは期待を込めていたのだけれど、好きだの愛してるだののやりとりはない。

 幼馴染故に長くいると言えないのだろうか。言わなくてもわかってると思われているのだろうか。


 そして、3月14日にはお菓子研究部で作った豪華なお菓子をバレンタインのお返しで貰った。

 これは言わなくてもわかってるということなのだろうか。


 周囲の冷やかしはバレンタインの非ではなかった。

 だからこそ、私は真秋が他の女子に気が行く事もないと思っていたし、真秋に近付いてくる女子なんていないものと思い込んでいた。



   

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