第12話 大浴場はみんなのものです。混浴マナーは守りましょう。

 結局ともえが戻ってきたのは、女性専用露天に行くと言って別れてから1時間半程経過してからだった。

 女性専用だけあって、備え付けの設備とかも女性用に充実していたりしてつい時間を忘れてしまっていたそうだ。


 湯上り処でマッサージチェアでウトウトしてしまったとも言っていた。


 あれは湯上り後には妙に気持ち良いからわからなくもない。

 疲れ切ったこの身体だったらイチコロだと思う。


 その日はそのまま就寝する事にした。

 業務が通常に戻ったとはいっても、心身の疲れはまだまだ残っている。

 温泉と美味い飯で癒されるとはいっても一気に全てがというわけではない。ハッスルもかなりしたし。



 夢の中では随分と気持ちの良いコトをしていた。

 夢だとわかるのは、何回出しても疲労感がないのと気持ち良い以外の感覚がないからだ。

 身体を掴んでも皮膚に触れたという感触がない。

 液体に触れても冷たいとも温かいともいった感覚がない。


 ただ、感覚としての気持ち良さだけが伝わってきていた。


 何度目かの絶頂の後、目が覚める。

 身体がどうも生温い。そして何かが這う感覚。

 視線を落とせば布団がこんもりと盛り上がっている。


 どうやらコレがリンクして夢となっていたらしい。

 俺が布団をまくるとそこには案の定、ともえの頭と顔の上半分が見えた。

 「ふぉふぁよふ。」

 ともえが顔を出すと挨拶をしてきた。



 「早朝ミルクいただきました。」


 「乳牛か。」


 なんて馬鹿な事が出来るのも、あの地獄を乗り切ったからであろう。

 朝食の前に昨日入っていない残りの露天に行く事にした。




 朝食も夕飯と同じく部屋食である。

 夕食に比べれば豪華さは激減するが、普段の朝食とは違いバランスが取れている。

 適度に適切なものをという感じで、一日の活力補給としては丁度いいと言える。


 多過ぎても動けないだろうし。夜ががっつりしているのでやはり一日で見た時にバランスが良い。

 きっと体調を整えるという意味でも良いんじゃないかと思う。


 いくらメインが温泉とご飯とは言っても、中日である今日は関東の奥入瀬渓谷と呼ばれる照葉狭で紅葉を、奈良俣ダムでカヤックを、ならまた湖でカヌーを楽しんだ。


 水といえば、照葉狭の中にも白竜の滝があり、紅葉とともに美しい景色を楽しんだ。

 俳人、水原秋桜子という人が命名したらしい。詳しくは知らないけど。


 水上アウトドアセンターではラフティングをした。

 見ず知らずの人とも一緒にやるので、即席のチームワークを育んだ。

 刎ねた水流などでぱんつまでびしょびしょ……にはならなかったけれど、なぜかともえは感じていたようだ。


 二日目はあっちこっち移動して、遊びを満喫して、ホテルに戻ってきた時にはくたくただった。



 それでもハッスルはする。

 部屋備え付けの露天風呂で。


 「なぁ、今日はこっちでシたい。」

 俺は指をずらしてと這わせた。


 「ん、良いよ。」

 ともえは態勢を変えて力を抜いた。

温泉が天然の潤滑剤となり、優しく解した後、ゆっくりチャレンジした。

 


 流石に今日は疲れていたので22時ではあるが布団に入った。

 体感ではあるけどすぐに睡魔ちゃんに襲われ眠った。


 夜中、ふと目が覚めると隣にいるはずのともえがいない。


 枕元で見つけたメモ書きを見ると、目が冴えてきたので露天に行ってくるというものだった。


 特に何かを感じたわけではないけれど、俺も露天に行ってみよう。そう思ったため、タオルを用意し部屋を後にした。


 周りは既に寝静まり、物音は殆どしない。

 脱衣場に着くと、かごの中に着替えがあることから数人がこの時間でも温泉に浸かっている事が窺える。


 簡単に身体を洗い終え、湯船に近づくと大声にならないよう抑えた嬌声が耳に入ってきた。

 奥の方でお湯のばしゃばしゃした音に合わせて何かが打つ音が混ざっているのが辛うじてわかった。


 いくら混浴とはいえ、誰もが入る風呂でいかがわしい事をしないでもらいたいものだと思った。

 うっすら最中の人の姿が見えたので奥に行くのはやめた。


 それどころか、長時間浸かる気になれなくなったので数分浸かったら、俺は早々に上がった。

温泉と景色の良さが半減してしまった。

こういう事する人がゼロではないとは思っていたけど、目の当たりにすると気分はあまり良くない。


部屋に付いてる露天風呂でやってる自分が言えたものではないけど。


 脱衣場に着くと、かごの中の着替えは入浴前と変わっていない。

 しかし中には2人しかいないように感じたけれど、かごの着替えは4人分くらいはある。

 見えないどこかにいたのだろうか。

 

 考えていても仕方がないので着替え終わるとそのまま部屋に戻った。

 部屋に戻る途中、誰かに見られていたような視線を感じたが、俺が振り返ってもそこには誰もいなかった。

 そして部屋に到着したけれど、まだともえは戻ってきていなかった。  

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