第9話 小休止なはずなのに空気が重い、獅子咆哮弾か。
喜納はガクガクと震えながら焦点の合わない目で俺を見ている。
俺は怒りを抑えながら憐れむような目で喜納を見下ろす。
父権がこの男、喜納貴志である事が証明され、不貞と托卵の証拠を突き詰められ、退路がないと貴志は悟った。
だが貴志は気付いていない。
放心するのは勝手であるが、まだ終わっていないんだよ。
「はい!裁判長!」
あ、高橋のことついに面と向かって裁判長と呼んじゃったよ。
「はい、なんでしょう。」
「この二人の不貞と托卵についてはご覧の通りです。俺が愛を誓わなかった事に関しては認められるんじゃないかと思います。」
「ここまでの内容を見て、聞いて、彼の会社の人の意見を聞いてみたいと思います。」
高橋は挙手の有無にかかわらず、ともえの会社の人間が集まるテーブルを覗いた。
ともえの勤める会社とは、喜納も勤める会社なのである。
「喜納商事の
彼はクズ野郎喜納貴志の兄である。
10歳離れた兄は身内のコネと実力で33歳にして部長職と中々のエリート様である。
キッと一瞬睨んだが、呼ばれたためやむを得ず立ち上がる貴喜氏。
手渡されたマイクを持つと語り始めた。
「只今紹介に預かりました、そこの愚弟の兄であり喜納商事生産管理部部長の喜納貴喜と申します。」
兄が呼ばれた時から貴志の震えが一層激しくなっていたのを俺は見逃していない。
「まずはこの度は私の身内がしでかした事、誠に申し訳ございません。また、過去に愚弟が犯した事に関しましても、身内として謝罪させていただきたく存じます。申し訳ございません。」
「この場におられない被害者の皆様に対しましても申し訳ございません。」、
兄に謝られても正直どうにもならないのだが……
「この愚弟は喜納グループから排籍し、会社からの処分も検討致します。懲戒解雇を検討します。」
「なっ……」
貴志は驚愕の表情で兄を見ているが、貴喜の睨み一つであっさりと子ウサギのように縮こまってしまう。
おそらく昔から兄には頭がまったく上がらなかったのだろう。
10歳という歳の差を抜いたとしても。
兄であろうとも経営側なので、人事に口を挟む事は出来る。
今日の様子を他の社員も目の当たりにしているのだから、擁護する者など皆無である。
「本来、新郎となるはずだった黄葉様に対しましてはきっちり謝罪と慰謝料をお支払いさせていただきます。」
「こればかりは受け取らないと言わず、受け取っていただかないと困りますので、弁護士を交えて説明と謝罪をさせていただきます。」
さっきともえの家族にはかっこつけて金は要らんと言ったが、これは受け取っておこう。
後々面倒な事になるのであれば、受けておくしかあるまい。
本当は少しでもお金を回収しないと今後がきつい。
その後も各方面への謝罪の言葉を述べて、これ以上マイナスにならないように努める兄が気の毒に思えてくる。
時間と共に青ざめていき震えが増す貴志を見ていると、胸がスカッと爽やか、最高にハイな気分になってくる。
兄・貴喜も自らの部長職を退き社会的な制裁を受けると述べていた。
そして貴喜は最後に地面に膝をつき、額を床に擦り付け、深々と土下座をして謝罪した。
少しだけ見ているこっちもいたたまれない気持ちになってくる。
ただ、当の本人達の土下座ならともかく、身内とはいえ他人に土下座をしてもらっても何も収まらない。
土下座損ですよお兄さん。
寧ろこの場でクズ野郎をグーパンチするシーンを見たかったよ。
俺の得るはずだった家庭、俺とともえの実家、貴志自身の家庭、貴志の嫁さんの実家、貴志の実家、兄・貴喜の家庭
最低7つの家庭が滅茶滅茶に崩壊していく、既にしている。
戦犯であるともえと貴志への
貴喜の土下座によって空気が重くなってきたせいか、会場の雰囲気も淀んだものとなってきていた。
高橋はそれを察してか、ある意味では計画通りなのだが、ここらで爆弾を投入する事にした。
「それではここで特別ゲストに登場してもらいましょう。」
会場にドラムロールの音が響いてくる。
ダダンっと最後の音が鳴り終わると、入場時に通った入り口の扉が開いた。
「
喜納の嫁、香奈美氏が登場する前に、どうしてこうなったのか。
どうして結婚の約束までして、これまでラブラブだった幼馴染に対してのこの仕打ち。
いや、仕打ちというが色々ダメージを受けてるのは俺の方なのだが。
俺は項垂れるともえと喜納貴志を睨みつけながら、少し物思いに耽ろう。
――――――――――――――――――――――――――
後書きです。
この数話は貴志に対するざまぁとなっております。
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